楽しむことが最優先

庭で花や野菜を育てて楽しむ北海道民です。
趣味関連を中心に日々のあれこれを、
マイペースに綴って行くつもりです。

ロックな夜に刺激的な香りを纏って

2023-10-02 14:06:00 | 日記
本日はライブの日。

この日のために、
メイクやアクセサリーなど。
実に色々な準備をしてきました。

それも全てはライブで浮かないため。




用意した着物に身をつつみ、
慣れないながらも教わったメイクを実践。

最後にミニハットを頭に乗せれば、
誰だコイツ状態の完成です。


目立つ。
真っ黒なのに目立つ。

黒一点。

でも、このファッションで行かなければ、
ライブ会場では逆に浮いてしまうらしい。

何せゴスロリライブだからね。



「おーい、ミルくん‼︎
 迎えにきたよ〜‼︎」

タイミングよく社長の来訪。
今日は社長が会場まで送ってくれます。


「いらっしゃい、社長」

ガラガラガラ
引き戸を開けて社長を出迎える。


「お邪魔し……ま、………」

「………………」

「………………」


ガラガラガラ──……


待て

無言で戸を閉めるな


「社長‼︎
 帰らないで‼︎」

「だってミルくん怖いよ‼︎
 どうしてそんな完全体に⁉︎


驚愕を通り越し、
怯え気味の社長

そして

それを出迎える、
最終形態の自分

うん
そうだよね

何も知らずに戸を開けて、
こんな姿のやつが立っていたら、もう……

ちょっとしたホラーだね





でもね、社長……

元凶はお前なんだよ

そこ、
くれぐれも忘れないで。



「ミルくん……
 そこまで体を張って、
 笑いをとらなくて良いのに……」

笑いは取ってねぇ

「なんで……こんな……っ……
 ふふっ、本腰入れて……くふふっ……」

笑うんじゃねぇ


「真面目だね、うん……‼︎
 全力で挑むその姿、素晴らしい……っ」

「社長、肩が震えてますよ?」

「だって、こんなの笑うでしょ‼︎
 笑うなって方が無理なやつでしょ‼︎」

むしってやろうか、その頭


「でもミルくん、無理してない?
 夕べはちゃんと眠れたの?
 顔色悪いし目の下にクマができてるよ?」

社長……
心配してくれてありがとう

でも、これね

こういうメイクなんだ


「白めのファンデーションを塗って、
 目尻と下瞼にアイシャドウを入れてます
 不健康そうに見せる必要があるそうです」

「なんで?」

「さあ?」

強いて言うなら、
そうアドバイスされたから




メイク上手な人がやると、
きっと雰囲気が出るのでしょうが……

自分がやると、どう見ても
徹夜明けの極限状態

『もういい、休め‼︎』と、心配されるやつ


「それにしても──……
 どうしてそんなに、
 気合い入れることにしたの?」

話せば長くなるのですが、とりあえず……
 にわかハマショーに勝負下着を贈られて、
 そのまま連行されたところから話します」

「情報量が多すぎるよ⁉︎」

「頑張ってついて来て下さい」


自分にとっては

社長から縦ロールを打診された時点で、
脳がオーバーヒート気味でした。

ただでさえ、ここ最近──……

縦ロールにされそうになったり、
魔女から虫を食べさせられたり、
龍の怒りを鎮めに行かされたり。

これぞまさに、
事実は小説よりも奇なり。



「ろくな目にあってないね……」

社長……
大半の元凶はお前だよ

「ミルくんは見た目と中身のさ、
 落差が……ちょっと激しいタイプだけど
 今回はより一層、ギャップを感じるね」

「そうですか?」

「自覚ないの⁉︎」

なぜ驚く⁉︎

ギャップ……
そんなにあるかな……?



「でもミルくん、
 今日は香水も変えたんだね
 これもゴスロリっぽさで選んだの?」

「変えてませんよ?」

「そうなの?
 でも、なんかスーッとする香りが……」

「あー……それ、
 サロンパスです

「…………」

「首の後ろと背中、
 あと腰とふくらはぎにも貼ってます
 ほら、今日はライブで立ちっぱなしだし」

「ミルくん……」

「はい?」

「そういうところだよ‼︎」

「どこだよ‼︎」


別に、いいじゃないか。
ちゃんと外からは見えないように貼ったし。

ずっと立っていると、
翌日に響くんだよ……‼︎


「やっぱりミルくんはミルくんだね
 ちょっと安心したよ」

「そうですか?」

「出発前に、写真を一枚お願い」

「なぜ」

「他の社員に見せたい」

やめてあげて


「あ、マスクしないと」

「ミルくん、黒いマスクはちょっと……」

「あ、サイズ合ってないのわかります?
 自分も普段、マスクは白派なのですが、
 今回は黒にするように言われていて……
 でも買いに行ったら大きいのしかなくて」

「いや、そうじゃなくて──……
 目力が強調されて怖い‼︎

そんなこと言われても


「ミルくん、怒ってる?
 睨まれているように感じるよ⁉︎」

「怒ってませんし、
 睨んでもいません」

早く慣れて下さい


そんなに怖い?
ちょっと鏡を見てみよう……

……。
…………。


これ
背後に立たれたらダメなやつだ




「全身に武器とか毒薬の類を、
 仕込んでいそうなオーラを感じる」

「安心して下さい、社長
 全身に仕込んでいるのはサロンパスです」

「シュールだ……
 シュールすぎるよ……」

再び肩を震わせる社長。
この際、笑ってもいい。

ただし

安全運転でお願いします



そんなわけで
やってきました、ライブ会場

「終わったら電話してね
 すぐに迎えに行くから」

そう言い残して走り去る、
社長の車を見送って。

よし
それじゃあ行くか‼︎

いざ、ゴスロリだらけの空間へ‼︎

気合いを入れて、
店のドアを開く


「おお……」


椅子やテーブルが片付けられた、
普段とは違う雰囲気の店内。

マイクや音響機器が並ぶ簡易ステージ。

演奏開始の合図を待つ、
わりとカジュアルな服装の客たち。

そして
浮きまくる自分


いや、なんで⁉︎

なんで観客たち、
そんなにカジュアルなファッションなの⁉︎

話が違う……‼︎



他の観客たちと目が合うと、
サッ……と道を譲られます。

その光景、まさに
モーセの十戒の如し

自分を見る彼からの目が物語っています。
『ガチな客がきたな』、と。


ああ……
そうだった……

今回はチケットが売れなかったんだ……

ガチ勢の常連客は来ていなくて。
ここにいるのは自分を含めた、
寄せ集めの客ばかり……‼︎


うあ゛あ゛あああぁぁ……


違うんだ……
誤解なんだよ、ギャラリーたち‼︎

そんな目で見ないで……‼︎


見られてる
凄く注目浴びてる

目立ちたくなくて‼︎
会場で浮きたくなくて‼︎

慣れないゴシックファッションに悪戦苦闘

その結果が、この有り様。



「どうしてこうなった……」


頭を抱えて叫びたい気持ちを抑えて。
震える肩を、セルフハグ。

お願い
誰か時間を巻き戻して……‼︎


心の中で悶絶しているうちに、
気がつけば最前列に立っていた。

そうだよね。
誰が見たってガチなファンに見えるよね。

最前列、譲ってくれたんだね。

ありがとう
でも自分、前に出るの……苦手なんだ……


ああ
演奏が始まった

バンドのメンバーからも見られてる

どうしよう……
振り付けとか知らないよ⁉︎


ああ、
でも今なら──……

羞恥心なら踊れそう

全力でブルーな気分だけどね……
せめて全身でリズムを取ろう。

うん

実は頭の中、真っ白。
脳が現実逃避始めてる



打ちひしがれながら、数時間が経過

ライブの終了と同時にトイレへ駆け込み、
スマホを取り出して社長へ電話。

早く
一刻も早く、
助けてくれ

居た堪れない……‼︎


『あ、ミルくん
 ライブは終わった?』

「はい、終わりました‼︎
 早く迎えに来て下さい‼︎」

こっちはバンドメンバーたちに囲まれた挙句
マイクを渡されかけたんだぞ

何度でも言うけれど、
自分は極力、目立ちたくない性格です。

もう、
色々と限界なんだ


「いや〜ごめんね、ミルくん
 実はお酒飲んじゃって、
 迎えに行けなくなっちゃった〜」

待て

自力で帰るの?
この姿のままで?

本気で⁉︎


「…………。」


しばし放心。
しかし、このままいても帰れない。

外はすっかり日が暮れている。

真っ黒な自分は目立たない──……
そう、自分に言い聞かせて。

全力疾走


とりあえず、地下鉄まで。
地下鉄駅まで頑張って走ろう。

この時間帯なら、
地下鉄もあまり混んでいないはず……‼︎


そう信じて

駆け込み気味で飛び乗った地下鉄は、
尋常じゃねぇレベルの混み具合

いや
待って

なんでだよ


しかも、この乗客たち、
謎の興奮状態

ねえ、あなたたち

どうしてそんなに、
テンション高いんですか⁉︎


押し合い圧し合い

この距離感だと、
乗客たちの会話が
自然と耳に入ってくる


「今日も良かったねぇ……‼︎」

「好きな曲ばかりで嬉しかった‼︎」

「格好よかったわ……‼︎」


どうやら彼らもライブ帰り

あぁ……
そっか……

ハマショーのライブだ

よりによって今日かよ……‼︎

そんなミラクル、
今は、いらねぇ……


厄日だ。
今日は、きっと厄日。

あまりにも色々とダメすぎる。

でも、どん底まで下がったら、
あとは上がるだけだから……‼︎

うん、きっとこれから良いことがあるね。



無理にでも笑顔を取り繕い、
なんとか安住の地、我が家へと帰宅。

家の門をくぐり、
自宅玄関の前──……に、誰かいる。


……。
…………。


「あらミル、おかえりなさい」


まさかのカーチャン

え?
なんで?

ある意味、今、
最も会いたくない人物が、
なぜここにいる⁉︎


「どうしたの?
 珍しい格好しちゃって
 闇堕ちでもした?
今、まさに堕ちそうな心境です


「母さん……
 こんな時間にどうしたの
 友だちと会ってたはずじゃ……?」

「ええ、会ってきたわよ
 浜田省吾のライブ前に」

お前もかい


「会場近くのマンションに友だちがいてね、
 そこでお茶をしてからライブに行ったのよ
 お土産の砂糖菓子、好評だったわ」

「そ、そう……
 楽しかったようで、なによりで──……」

「もう、最高だった‼︎
 古い曲ばかりだったんだけど、
 古参ファンとしては逆にそれがいい‼︎」


テンションゲージMAX

年季が入ったハマショーファンの母と、
にわか丸出しゴシックな自分。

同じライブ帰りでも、こうも違うものか。



「ライブのお土産を渡しにきたの
 お父さんが待ってるし、
 今日はこのまま帰るけど──……」

「ん?」

「ちょっと写真撮らせて」

嫌過ぎる


有無を言わさず、
スマホを構える我が母上。

ちくしょう……

なんで
どうして

こう、最悪な展開ばかり引くの⁉︎

悪い意味で持ってる


今日の服装だってさ……

律義に買っちゃったんだよ、
白いレースのハイネック‼︎

普段使いはしないと分かりながらも‼︎

実際はハイネックどころか、
ゴシック衣装すら要らなかったけど‼︎

無駄に気合い入れて、
無駄に着飾った結果、
無駄に恥をかいて終わったよ……‼︎




「とりあえず顔、撮るね
 ハイ、ポーズ決めて‼︎

そう言われたからには、
とりあえずポーズをとってしまう自分。

……。

社長の言葉をかりるなら、
そういうところ、なのかもね……



とりあえず社長には。

自撮り写真に、
若干の皮肉と恨み言を添えて送信。

呪詛を送りつけないだけ、
感謝して欲しいものです……


「ハロウィンパーティーやりましょう?
 ミルはその格好で来てちょうだいね‼︎
 こんなに面白い我が子の姿、
 お父さんと共有しなきゃ勿体無いわ‼︎」

行きたくねぇ
弄る気満々じゃねぇか


上機嫌の母を見送って。

服を着替えてメイクを落として、
ベッドへダイブ

ダメだ……
今日は色々とダメすぎる……

まるで不幸の女神と笑いの神が、
タッグを組んで悪戯したかのような一日。


今日はもう、ふて寝します……


オマケ

お土産にもらった、
ハマショーの買い物袋。



レトロミュージックがテーマなのかな?
可愛らしさと格好良さのバランスが絶妙。

なかなか良い雰囲気です。