第3章はこちら。
第4章 もう無理かもしれない
「これは、ちょっと・・・・・。なんというかレトロな・・・・・。」
霧島先生は、ラフを見て絞り出すように感想を述べた。
霧島先生からの要望は「シンプルで、クールなデザイン」だった。
ところが、上がってきたラフは、特色と墨しか使っていない(つまり、あえて2色刷りにしてある)という点では確かにシンプルなのだが、それ以上訴えかけてくる何物も存在していなかった。
例えば、表紙のタイトルが「数学1」あるいは「物理(上)」であったなら違和感なく受け入れられたと思う。
そんな感じだった。
「大丈夫ですか、この方で?」
霧島先生の疑問は、全く的を得たものだった。
反論の余地もなかった。
ただ、営業である自分としては、予算のことを考えておかないといけない。
例え出来が悪かろうと、デザイナーがデザインを起こした以上、そこには料金が発生してくる。
(もちろん、難癖をつけて値切るという、イヤな仕事をする必要も出てくる。)
誰か別のデザイナーにデザインを任せるとなると、尾上氏に支払う分が余分になってくるのだ。
なんとかして、尾上氏に頑張ってもらうしかない。
そう判断した自分。
思い返せば、自分が舵取りを失敗した一番のポイントはココだった。
思い切って、尾上氏を外してもらうべきだったのだ。
「一応はデザイナーと名のつく男なんだし、何とかしてくれるだろう。」
その期待は、計3回、9案分裏切られることとなった。
「はっきり言いますが、このレベルならうちの学生でも作れます。デザイナーを替えてください。」
言葉を選ぶ余裕を無くした霧島先生が、目玉を細かく振るわせながら自分に訴えかけてきたのは、web版の校了予定日3日前のことだった。
この時点では、さすがに自分も余裕が無くなっていた。
もう予算がどうだとか言ってる場合ではない。
尾上氏ではムリなのだ。
「埒があかないので、今まで進めてもらってたページのデータを戴けますか?」
本文のレイアウトは、事前にOKをもらっていた。
作品集という形上、レイアウトさえ決まれば、あとは作品と学生の名前が入れ替わるだけだ。
ラフを上げて、先方からの回答待ちの間に作業を進めてもらっていたのだ。
その本文データを元にして、他の業者に段取りを振り直せば何とかなるだろう、と考えた自分は、「U-Leaves」の武部社長を交えて打ち合わせし、他の業者への作業振替を段取りしようとした。
だが、その時に軽くめまいに襲われることとなった。
尾上氏はweb版230ページ、及び冊子版96ページのうち、併せて20ページほどを上げているに過ぎなかったのだ。
「本文のレイアウトはOKもらって、作業勧めるように指示していましたよね?」
さすがに怒りを抑えきれない自分は、それでも気持ちを抑えて尾上氏に詰め寄った。
「でも、でもですよ。ラフも固まらないし、ラフ作らなきゃいけないじゃないですかぁ?できませんよぉ。」
武部社長も「お前さあ、どうだとしても校了3日前に言うことじゃないでしょ?何でこうなってんのよ?」と詰め寄るものの、バツの悪そうな顔をして、こちらと武部社長とを交互に見入る尾上氏。
もう、冗談を言う余裕も無かった。
「6月末の納期だけは必ず守ってください。」
その霧島先生の言葉が頭の中を駆け巡っていた。
以下、つづく。
つづきはこちら。
コメント一覧
![](https://blogimg.goo.ne.jp/image/upload/f_auto,q_auto,t_profile_square_m/v1/noimage/user_photo/gb25_noimage.png)
みっちー
![](https://blogimg.goo.ne.jp/image/upload/f_auto,q_auto,t_profile_square_m/v1/noimage/user_photo/gb25_noimage.png)
emon
![](https://blogimg.goo.ne.jp/image/upload/f_auto,q_auto,t_profile_square_m/v1/noimage/user_photo/gb25_noimage.png)
みっちー
![](https://blogimg.goo.ne.jp/image/upload/f_auto,q_auto,t_profile_square_m/v1/noimage/user_photo/gb25_noimage.png)
大悪魔
![](https://blogimg.goo.ne.jp/image/upload/f_auto,q_auto,t_profile_square_m/v1/noimage/user_photo/gb25_noimage.png)
Gカケ
最新の画像もっと見る
最近の「松山市にて:日記」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事