「カランカラン・・・」
19:02。時夢放流のランプを見つめ、ドアを開けたら、小気味良いベルの音が空気に溶け込んだ。
寂しい女の背中と空気に一瞬息を呑む。
「いらっしゃい・・・」
マスターは昨日も逢ったかのように静かに、微笑んでいた。
何も言わず、席に座ると、彼女は目も合わせず、手に取った小説を読んでいた。。。
真新しいマニキュアの赤と、ドライマティーニがそっと二人の空気を和らげている。
「今夜は、大事な話があるんだ・・・」
自分でも驚くくらい平静を装っていた。
目の前にI.W.ハーパーが静かに置かれた。
彼女はそっと、小説を閉じた。
***
ドライマティーニのグラスの淵をそっと指で撫でた後、初めて彼の目を見つめた。
数年前とは比べものにならないほど、店に人はいない。
「この店の名前を聞いた時から、気付いていたわ」
涙が頬を伝う。もうこれ以上、彼の目を見つめられない。
「何年になるかな?」
「・・・」
言葉にならない感情が、涙となり、溢れる。
「最初に出逢ったのもここだったね、確かあの時、、、」
「もう、、、いいのよ」
何が?何がいいの?結局、何も変わらなかった。
***
傷つけあった時間に終止符を打つ。そのためにここへ来た。
彼女の髪から、漂う香りが悲しい。
こんな思いをするくらいなら・・・などと考えても彼女の涙がそれを許してはくれないだろう。
時間だけが過ぎ、タバコを見つめて彼女が言う。
「そのタバコで終わってしまうのね」
急な言葉と、彼女の涙にただうなずくしか出来なかった。
彼女は吸い終わったタバコを並べて涙を流している。
『サヨナラ』
タバコでなぞった言葉。11本のタバコ。
最後のタバコに火をつけて、彼女の目を見つめた。彼女の指輪がそっと音を点てた。。。
***
泣いてしまった。
グラスに映る私の顔は、化粧も崩れ、ひどい顔だった。
「最後にもう一度化粧をさせて、最後くらい綺麗でいたいじゃない」
精一杯強がって、そして笑顔になれた。
やがて時間は過ぎ、外は白い雪が降っている。
彼の最後のタバコを『サヨナラ』と並べ、席を立つ。マスターは優しく微笑む。
店を出ると、いつものように彼の背中を見つめ、彼の影を踏み、歩いていた。
帰ったら思い切り泣こう。
明日からまた新しい時間が二人を包むのだから。
彼の影は街頭の明かりに照らされ、長く、遠くまで続いていた。
(おわり)
***
「外は白い雪の夜」
歌:よしだたくろう / 詞:松本隆 / 曲:吉田拓郎
大事な話が君にあるんだ 本など読まずに今聞いてくれ
ぼくたち何年つきあったろうか 最初に出逢った場所もここだね
勘のするどい君だから 何を話すか わかっているね
傷つけあって生きるより なぐさめあって 別れよう
だから Bye-bye Love 外は白い雪の夜
Bye-bye Love 外は白い雪の夜
あなたが電話でこの店の名を 教えた時からわかっていたの
今夜で別れと知っていながら シャワーを浴びたの哀しいでしょう
サヨナラの文字を作るのに 煙草何本並べればいい
せめて最後の一本を あなた喫うまで 居させてね
だから Bye-bye Love 外は白い雪の夜
Bye-bye Love 外は白い雪の夜
客さえまばらなテーブルの椅子 昔はあんなににぎわったのに
ぼくたち知らない人から見れば 仲のいい恋人みたいじゃないか
女はいつでも ふた通りさ 男を縛る強い女と
男にすがる弱虫と 君は両方だったよね
だから Bye-bye Love 外は白い雪の夜
Bye-bye Love 外は白い雪の夜
あなたの瞳に私が映る 涙で汚れてひどい顔でしょう
最後の最後の化粧するから 私を綺麗な想い出にして
席を立つのは あなたから 後姿を見たいから
いつもあなたの影を踏み 歩いた癖が直らない
だから Bye-bye Love 外は白い雪の夜
Bye-bye Love 外は白い雪の夜
Bye-bye Love そして誰もいなくなった
Bye-bye Love そして誰もいなくなった
Bye-bye Love Lu…
Bye-bye Love Lu…
Bye-bye Love Lu…
Bye-bye Love Lu…
19:02。時夢放流のランプを見つめ、ドアを開けたら、小気味良いベルの音が空気に溶け込んだ。
寂しい女の背中と空気に一瞬息を呑む。
「いらっしゃい・・・」
マスターは昨日も逢ったかのように静かに、微笑んでいた。
何も言わず、席に座ると、彼女は目も合わせず、手に取った小説を読んでいた。。。
真新しいマニキュアの赤と、ドライマティーニがそっと二人の空気を和らげている。
「今夜は、大事な話があるんだ・・・」
自分でも驚くくらい平静を装っていた。
目の前にI.W.ハーパーが静かに置かれた。
彼女はそっと、小説を閉じた。
***
ドライマティーニのグラスの淵をそっと指で撫でた後、初めて彼の目を見つめた。
数年前とは比べものにならないほど、店に人はいない。
「この店の名前を聞いた時から、気付いていたわ」
涙が頬を伝う。もうこれ以上、彼の目を見つめられない。
「何年になるかな?」
「・・・」
言葉にならない感情が、涙となり、溢れる。
「最初に出逢ったのもここだったね、確かあの時、、、」
「もう、、、いいのよ」
何が?何がいいの?結局、何も変わらなかった。
***
傷つけあった時間に終止符を打つ。そのためにここへ来た。
彼女の髪から、漂う香りが悲しい。
こんな思いをするくらいなら・・・などと考えても彼女の涙がそれを許してはくれないだろう。
時間だけが過ぎ、タバコを見つめて彼女が言う。
「そのタバコで終わってしまうのね」
急な言葉と、彼女の涙にただうなずくしか出来なかった。
彼女は吸い終わったタバコを並べて涙を流している。
『サヨナラ』
タバコでなぞった言葉。11本のタバコ。
最後のタバコに火をつけて、彼女の目を見つめた。彼女の指輪がそっと音を点てた。。。
***
泣いてしまった。
グラスに映る私の顔は、化粧も崩れ、ひどい顔だった。
「最後にもう一度化粧をさせて、最後くらい綺麗でいたいじゃない」
精一杯強がって、そして笑顔になれた。
やがて時間は過ぎ、外は白い雪が降っている。
彼の最後のタバコを『サヨナラ』と並べ、席を立つ。マスターは優しく微笑む。
店を出ると、いつものように彼の背中を見つめ、彼の影を踏み、歩いていた。
帰ったら思い切り泣こう。
明日からまた新しい時間が二人を包むのだから。
彼の影は街頭の明かりに照らされ、長く、遠くまで続いていた。
(おわり)
***
「外は白い雪の夜」
歌:よしだたくろう / 詞:松本隆 / 曲:吉田拓郎
大事な話が君にあるんだ 本など読まずに今聞いてくれ
ぼくたち何年つきあったろうか 最初に出逢った場所もここだね
勘のするどい君だから 何を話すか わかっているね
傷つけあって生きるより なぐさめあって 別れよう
だから Bye-bye Love 外は白い雪の夜
Bye-bye Love 外は白い雪の夜
あなたが電話でこの店の名を 教えた時からわかっていたの
今夜で別れと知っていながら シャワーを浴びたの哀しいでしょう
サヨナラの文字を作るのに 煙草何本並べればいい
せめて最後の一本を あなた喫うまで 居させてね
だから Bye-bye Love 外は白い雪の夜
Bye-bye Love 外は白い雪の夜
客さえまばらなテーブルの椅子 昔はあんなににぎわったのに
ぼくたち知らない人から見れば 仲のいい恋人みたいじゃないか
女はいつでも ふた通りさ 男を縛る強い女と
男にすがる弱虫と 君は両方だったよね
だから Bye-bye Love 外は白い雪の夜
Bye-bye Love 外は白い雪の夜
あなたの瞳に私が映る 涙で汚れてひどい顔でしょう
最後の最後の化粧するから 私を綺麗な想い出にして
席を立つのは あなたから 後姿を見たいから
いつもあなたの影を踏み 歩いた癖が直らない
だから Bye-bye Love 外は白い雪の夜
Bye-bye Love 外は白い雪の夜
Bye-bye Love そして誰もいなくなった
Bye-bye Love そして誰もいなくなった
Bye-bye Love Lu…
Bye-bye Love Lu…
Bye-bye Love Lu…
Bye-bye Love Lu…