まだ色の足りぬ稜線早春や
稜線の不確かな空早春や
ひとつずつ色彩増えて山笑ふ
春の色車窓に賑わす通勤路
青空に蟻の行列鳥帰る
無彩色世界に一滴濃き緑
雪解けの庭を走らすダンプカー
動き出し腰を痛めり春の風
動き出す猫の足跡春うらら
内股に革靴を履く卒業子
路地散歩表札代わりの薔薇の色
水彩の筆をとりたき紫陽花や
残業後アイスクリームの白さかな
国会を背に聞きながら胡瓜和え
遠雷や悪夢の中の効果音
紫陽花の色褪せてゆく通勤路
母の庭主なくとも紫蘭咲く
夫の目の土用鰻で輝きぬ
青唐辛またひとつ歳重ねたり
のうぜんの散り花我を代弁し
羽脱鳥病気案ずる娘をり
コロナ禍に帰省の文字の縮こまる
曲がる度表札代わりの薔薇咲けり
通勤の早足見送る紫陽花や
通勤のスーツ見送る紫陽花や
スカートの残像見送る紫陽花や
スカートの裾残りたる紫陽花や
水の玉受け止め揺れる額の花