新年明けましておめでとうございます。
いつもと変わりありませんが、よろしくです。
さて、話を戻します。
救急車で運ばれてすぐのERの中で、医者から色々と説明を受けている時、妻が「よろしくお願いします」と頭を下げつつ、「先生、中国の月餅食べます?」と聞いたことがあった。
私自身は「いま、ここで言うこと?」と思っていたら、医者が「奥さん、中国ですものねえ」と答えつつ、「あんまり食べたこともないなあ」と。
そうすると妻がカバンから月餅を取り出して、医者に渡す。豪華な月餅である。
医者当たり前のように受け取る。ニコニコしている。
「奥さん、どうも〜」
という軽い感じで、コンピュータに向かい作業に戻った。そのあとACCU(集中治療室)に移動する。
医者の都合で、担当医が代理となって、その医者が私の病室にいて話をしていた時、妻がまたもや「先生、カナダのチョコレート食べる?」と。
医者が「へ〜」とリアクションしている間に、妻はカバンの中からハワイ土産のマカデミアンナッツを思い出させるようなチョコレートの包みを出して、医者に渡す。
医者は当たり前のように受け取り、「じゃあ、どうも〜」という軽い感じで病室を出て行った。
最近の病院では患者からの贈り物を受け取らないと聞いていた私は、「そんなもんか」と思い、そもそもその程度の贈り物に問題があるということに違和感を持っていたので、妻に次のように言った。
「お世話になっているのは看護士さんだから、お菓子でも贈ったら」
妻は「そうね」と言って、次の日に菓子折りをデパートで買って、看護師に渡したのである。おおよそ2000円程度のもので、看護師数人で休憩時間にでも摘んでもらえればとの考えであった。
なんせ医者が当然のように受け取っていたので、問題などないと思っていたのだが、ちょっと面倒臭いことになってしまった。
看護師はとりあえず受け取ったのだが、「少し待っててください」と言い残して、立ち去っていく。15分くらいしたら、なんと看護師長が渡したお菓子の包みを持って、私のベッドサイドまでやってきた。看護師長とはすでに一度面通し済みである。その時のことはちょっと書けない、秘密である。
師長は「病院の決まりで、患者からの贈り物は受け取ることができない。申し訳ありませんが、お返しします」と伝えてきた。大変丁寧に。
こちらは「その程度のこと」と思わず返してしまったが、再度丁寧に断るので、こちらも看護師たちの事情を想像して、「こちらこそ面倒かけて申し訳ない」とお菓子を受け取った。妻と一緒に顔を見合わせながら、しょうがないかと思いつつ。
師長が離れたのち、中国人の妻は「日本はおかしい」とつぶやく。妻の疑問を要約すると、以下のようになる。その程度の気持ちを物に乗せて送ること自体を否定するなら、人間関係自体の否定であると。「規則!規則!日本人は規則さえ守ればいいと思っている」とあくまで静かに問題を指摘する。いわゆる規範主義への違和感である。私自身も共有している。
思い出すまでもなく、医者は贈り物を当たり前のこととして受け取っている。そのことを指摘して「やっぱり、おかしい」と嘆きつつ、「じゃあ、友達と一緒に食べるね」と言って矛を納めてくれた。
実際入院のパンフレットには「病院関係者に贈り物はしないでください」と記されており、きちんと医療費が支払われるのだから不要との趣旨で説明されていた。しかしながら、医者は受け取った。病院が設定し、パンフレットで周知させようとする規則より医者の都合が優先されていることになる。面白いし、変である。
(つづく)