歴代大統領の選挙となにがしかの思い出がある。といってもささいな個人的記憶と結びついているだけだが。(以下敬称略で記述させていただく)
ブッシュの時は順天堂病院に耳の手術で入院中で病室の小さな有料テレビにかじりついてみていた。このときに米国特有の選挙制度である選挙人制度もあるていど知った。
クリントンの時は出張中の米国で宿泊したホテルのロビーでちらみした。遊説中だったのだろう。
トランプの当選はバリ出張時にビラ・アリッツのレストランのテレビで知った。そしてたいそう驚いた。とうぜんヒラリーが勝つものと思い込んでいたので「そんなばかな」との思いだった。今回の選挙では「トランプ残念だったね」の思いだ。
さて今回の大統領選挙はどうか。コロナで家にいるだけで身の回りに特段の出来事はなかった。したがって個人的記憶に結びつく出来事はなかったことになるかと思っていたがやはり個人的出来事と関係のある特筆すべき出来事はやはりあった。
今回の選挙で旧知の人の何人かがトランプを応援していた。これは今までの大統領選挙ではみられなかったことで、彼らはQアノン側にたつ熱烈な賛同者だった。トランプに当選してほしかったわたしはこうした賛同がトランプを落選させたのだと考えている。贔屓の引き倒し現象といいたい。
ひいきのひきだおし ひいきをし過ぎて、かえって相手を不利にし迷惑を及ぼすことをいう。
SNSでもQアノン側にたつ熱烈な意見提供者が目立った。YouTubeでは幸福の科学関係者が毎日のように意見を流し、そのほか何人かのYouTuberを知った。共通しているのはかつて飛行機事故で亡くなったJ・Fケネディー・ジュニアの生存を信じていることで、11月20日までに姿を見せると自信をもって述べていた。
私はこれらの動画を見て嫌な気になった。オカルトの世界に踏み込んでいるのだ。私もオカルトは嫌いではなくむしろ興味を抱く方だが、こうした場面での発言は多数の反発を招きトランプを圧倒的に不利にする。
贔屓の引き倒しが最も顕著に表れたのが議会乱入だ。これで完全にトランプ再選は無くなった。民主党のバイデン氏が1月6日米議会で上下両院合同会議において次期米大統領になることが正式に確定したその当日、米議会への乱入があり、大混乱した。100人以上逮捕された乱入者はトランプ支持者が多い。
こうした贔屓の引き倒し戦術は極めて巧妙な2重スパイ的な仕掛けではないかとの疑念も払しょくしきれていない。米国の映画やドラマをみているとあり得ない話ではない。
この一連の出来事は贔屓の引き倒し戦術が招き寄せたものであり、さらに輪をかけてこの戦術で敗れたトランプのSNSアカウントを停止して自身の発言を封じるという茶番にも発展した。
ツイッター社は1月20日にトランプ氏が出席しない大統領就任式でも不測の事態を避けるためとしてトランプのアカウントを永久凍結した。ツイッター社が個人アカウントの凍結に踏み切ることは民主主義の大原則である「独占禁止」の独禁法の原則と完全にぶつかってしまった。
ツイッターと代替できるSNSを別の企業のSNSアプリ例えば「パーラー」が使えれば独禁法の原則に遵法するが、さらに追い打ちをかけてグーグルとアップルがその提供を停止し、アマゾンはパーラーの運営サービスの提供を打ち切った。フェイスブックもトランプのアカウントを凍結した。GAFAが完全に結託して優越的な地位を行使して大統領の発言を封じる恐ろしさを知った。
ギリシャ神話の神ゼウスが人間の女性「パンドラ」をつくり彼女が地上へ行く際に「絶対に開けてはいけない箱」を渡した。パンドラは地上について何日か経ったある日、ついにその絶対に開けてはいけないと言われていた箱を好奇心に負けて開けてしまう。
箱から「争い」「疾病」「悲観」「不安」「憎悪」「犯罪」「欠乏」などが現れパンドラは慌てて蓋を締めたがすでに禍いは解き放たれてしまう。神話の意図するところは一筋縄ではない。「争い」「疾病」「悲観」「不安」「憎悪」「犯罪」「欠乏」などを禍とするが、煩悩とも解することができ、仏教では煩悩即菩提と言われ、禍が人類の発展の原動力になったことも否めない。
注意しなければならないのはあわてて封印されたなにものかだろう。閉めたパンドラの箱に残った唯一の禍は「未来がすべて分かってしまう禍い」あるいは「希望」と言われるがこれもまた神話の解釈次第でいろいろと考えられる余地を残す。(だから神話なのだが)
閉めたパンドラの箱に残った「未来がすべて分かってしまう禍い」が人類に解き放たれなくて済んで人類は絶望することなく生きていくことができるようになったと解釈される。これは実に考えさせるテーマではないか。昨日たまたまみたNetflix提供のアッテンボローのドキュメンタリーをみるにつけ、未来がすべて分かってしまうアッテンボローの苦悩を改めて知った。彼は知らなかった方が晩年を幸せに生きられたと述懐している。アッテンボローのドキュメンタリーは40億年で8回の大絶滅の事実を語り、9回目がまじかに迫っていると警告する。大絶滅とは8割がたの生物が絶滅することで最近では隕石で恐竜が滅びた。地層を見ると一目瞭然で、数億年隔てた地層には全く生物の痕跡が見られない。しかし彼は炭素排出を含むサステイナブルな社会に戻れれば存続が可能だと希望を述べる、これとて隕石の落下には抗うすべはないのだが。
「未来がすべて分かってしまう禍い」とは上述のアッテンボローが語る一面を示唆しているようだが、もう一つは「未来がすべて分かってしまうと称するものの出現の禍い」と解釈はできないだろうか。そうするとデマゴーグがその最たるものとなる。SNSでファクトが伝わる貢献は凄まじいがデマゴーグに歯止めがなくなる禍も凄まじい時代に入った。
トランプはこの文明論的な難題に敗れ去ったとも言える。トランプさん さようなら。