まさおレポート

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イタリア紀行 20 サン・マルコ聖堂は旅の一大イベント

2024-09-09 | 紀行 イタリア・スペイン 

サン・マルコ聖堂

サン・マルコ広場に座り、目の前に広がる壮大な風景に圧倒されながら、私はゲーテやマキャベリ、そしてアンデルセンがヴェネツィアをどのように感じ、どのように言葉にしたかを思い浮かべていた。この場所は彼らにとっても、私にとっても歴史が織りなす「生きた記念碑」であり、一つの文化、一つの民族が作り上げた芸術作品だ。

ゲーテが『イタリア紀行』で語ったように、この場所は「一君主の作り上げたもの」ではない。ここにあるもの全ては、無数の人々の努力と情熱が積み重なってできたものであり、その一つ一つが時間を超えて私たちに語りかけてくる。特にサン・マルコ大聖堂の壮麗さは、ヴェネツィアの過去の栄光を今に伝え、海洋都市としての強さを象徴している。

フィレンツェとヴェネツィアについて塩野七生が記したように、この二つの街は同じイタリアにありながら、まるで性格が異なる「陸の都」と「海の都」だ。それぞれがルネサンス文化を支えた二つの双璧をなす都市だが、フィレンツェが内向的で繊細な彫刻のような美しさを持つのに対し、ヴェネツィアは外向的で、海に開かれた世界の中で育まれた大胆さを持っている。旗がはためくサン・マルコ広場に立ち、この違いが明確に感じられる。

また、アンデルセンの描いたヴェネツィアの夜の静けさが、この広場に訪れるたび、私の心に蘇る。「既にして梵鐘は聲を斂めて」という鴎外訳の表現に、彼が感じたヴェネツィアの一瞬の静寂が込められている。今もなお、風にそよぐ国旗や、何百羽もの鳩が飛び交う姿を目の当たりにすると、歴史が生きているような感覚にとらわれる。

ヴェネツィアの青空の下、太陽がサン・マルコ大聖堂のドームに照りつけ、その金色の装飾がいっそう輝きを増している。アンデルセンが描き、鴎外が訳した「赤檣の上なる徽章ある旗」も今も風に揺れ、世界中から訪れる人々を迎え入れる。その場に佇むと、「いのち短し、戀せよ、少女」という「ゴンドラの歌」の歌声が心の中に響き渡る。現実と幻想が溶け合い、過去の偉人たちが目の前に蘇るような感覚を味わう。

写真はサン・マルコ大聖堂の屋根の上に並ぶ彫像と鐘楼を映している。この大聖堂は、ゴシック様式とビザンティン様式が融合した建築だ。

中央に見えるゴシック様式の鐘楼には、鐘を鳴らす人物像が配置されアーチ状のデザインで尖塔が空に向かってそびえる。この鐘の音は日常の一部として古くから慣れ親しまれてきた。

右側の屋根の上に立つ女性像は、聖母マリアだろうか。カソリックの国ではキリストだけではどうにも済まない、マリアがいなければ心が収まらないのだ。それは日本でも釈迦牟尼仏だけでは収まらず観音を親しい存在として仰ぐ心情とよく似ている。

大聖堂の中央アーチ部分には、天使や聖人たちを描いた彫刻が並び、ゴシック様式の力強さとビザンティン様式の精緻さが融合し細部まで手の込んだ彫刻が施されて大理石に生命を吹き込んでいる。

サン・マルコ広場の入り口に立つ有翼の獅子像は、ヴェネツィアの象徴であり歴史を物語る。9世紀にヴェネツィアの商人たちがアレクサンドリアから持ち帰った聖マルコの聖遺物以来、聖マルコはヴェネツィアの守護聖人となり、有翼の獅子は聖マルコを象徴するものとして広まった。

有翼の獅子(Leone Alato)像は聖書やキリスト教の福音を広める力、獅子の背には翼が生え天上と地上の両方に力を及ぼす存在となった。

獅子が持つ本には決まったように「Pax Tibi Marce Evangelista Meus(平和があなたに、我が福音書記者マルコ)」というラテン語の言葉が刻まれている。

写真のサン・マルコ広場にある時計塔(Torre dell’Orologio)は1496年から1499年にかけて建設され、広場に集う市民や訪問者に正確な時間を知らせるため今も機能している。写真の中央に描かれている有翼の獅子像と背後に広がる青い背景には「黄金の星々」が輝く。

時計塔は時間を伝える装置だが、天文学的な要素を持つ精巧な天文時計を備えている。この時計は24時間制で、時間だけでなく太陽と月の動きも表示し、航海と交易に依存していたヴェネツィア共和国にとって極めて重要なインフラだった。

頂上に立つ二人の「モーリ人」の像は、年老いたモーリと若いモーリと呼ばれ、二人は交互に鐘を叩くことで時間を告げる。若いモーリが未来と成長を表し、年老いたモーリは時間の終焉と知恵を象徴しているのだとか。こじつけっぽいかも。

年老いたモーリと若いモーリのように、時間の流れや人生の異なる段階を象徴する彫刻は、世界各地で見られる。ドイツのフライブルク大聖堂の時計塔(Münster of Freiburg)若さと老いを対比するモチーフが見られる。チェコのプラハにある天文時計は骸骨の像が死を表し、対比として他の象徴が配置されている。オーストリアのウィーンにあるセツェッシオンの建物には、グスタフ・クリムトの『ベートーヴェン・フリーズ』が飾られ若さから老い、さらには死までの段階が視覚的に表現されている。メメントモリだろうきっと。人生の儚さを思い起こさせてほろ苦い。

サン・マルコの鐘楼は9世紀に建設されたが、幾度となく再建と改修が行われ1514年に現在の形状が完成した。しかし1902年に鐘楼は突然倒壊し1912年に元のデザインを再現して再建された。サン・マルコの鐘楼は5つあり、それぞれが異なる役割を果たしてきた。マラングオーナ(Marangona)は労働者の始業と終業を告げる鐘。トロットリア(Trotteria)はかつて元老院の召集を知らせる鐘。なんと死刑執行を告げる鐘があるとか、今は流石に使われていないだろう。

鐘楼はレンガ造りで、その上に緑青の銅板で覆われた尖塔が載っている。鐘楼の頂上には、天使ガブリエルの像が立ち風向きを示す風見鶏として航海活動にも役立った。高さは98.6メートル。

有翼の獅子のすぐ下には、アーチ型の窓が並びこの内部は鐘が納められている。写真には直接写っていないが、この鐘楼のさらに上部には尖塔があり、その頂上には天使ガブリエルの像が立ち風見鶏としても機能し、風の動きによって姿勢を変え風の向きを知らせていた。航海国家らしい。

サン・マルコ大聖堂の入り口に見えるアーチ部分ゴシック様式とビザンティン様式が融合され東洋と西洋の文化を交差を表している。

ゴシック様式はアーチ全体を包み込むような複雑なデザインが、またビザンティン様式は植物のモチーフや幾何学的な模様、そして人物像の表現に現れている。

アーチの彫刻には、多くの宗教的なシンボルが隠されている。植物模様は生命の永続性を象徴し、聖書の登場人物や天使の彫刻は、宗教的な救済と守護の意味を込めて描かれている。上部のアーチ部分には、天使や聖人たちが非常に丁寧に彫刻され宗教的なメッセージを伝える。

写真の中央には聖母子像がビザンティン様式で。ビザンティン様式の特徴の一つは、人物が正面を向いている。神聖な存在との直接的な対話を表す。

ビザンティン様式の聖母子像は、通常、感情を抑えた厳格な表情を持つのが特徴で、この像における聖母マリアと幼子イエスも静かで落ち着いた表情をしている。これは超越的な性格を強調するためだと言われている。

ビザンティン美術では、黄金色が天界や神聖なものを象徴し、聖母子像自体は石造りの彫刻だが、周囲の背景にはビザンティン様式に基づいた金色の装飾が使われている。

聖母子像の周囲には、最内側のアーチが彫刻され複雑な幾何学模様や植物のモチーフが施されておりビザンティン様式の影響が強く見られる。

中央部分から外側に向かって次のアーチに移ると植物のモチーフや人物像が描かれている。

写真の最も外側のアーチ部分には人物像が描かれている。その表情や動作が非常に繊細に彫刻され上部には宴の場面や神聖な集会が描かれている可能性が。

キリストの誕生。翻波式の衣。サン・マルコ大聖堂(Basilica di San Marco)のファサードに施された精巧な彫刻。ビザンティン様式の影響を強く受けた建築であり、そのファサードには複雑な装飾が施されている。

写真中央に見られる彫刻は、聖母マリアと幼子イエス、そしてそれを取り囲む人物たちが描かれている。細かな植物模様や人物像が美しく彫り込まれている。大理石やその他の高価な石材が使われており、その豪華さは大聖堂の宗教的な重要性を反映している。

浮き彫りのある柱頭。

サン・マルコ大聖堂(Basilica di San Marco)の一部で、特に大聖堂のファサードや柱の装飾をクローズアップした。

写真に写っている柱頭は、非常に精巧な彫刻が施され、植物模様が豊かに彫り込まれており、アカンサスの葉のデザインが見られる。

柱自体や周囲の装飾には、さまざまな種類の大理石が使用され豪華さと堅牢さが強調されており、建物全体の威厳を高めている。ベネツィアは、大理石の取引が盛んだったため、こうした高価な素材をふんだんに使うことができた。

 

 

写真の中心にはベッドに横たわる人物が描かれており、その周りを取り囲むように聖職者や信者たちが集まっている。聖人の死や昇天を表現している可能性が高く、宗教的な儀式が行われている場面を描いている。

モザイクは、細かくカットされたカラフルなガラス片や金箔を用いて作られており、その技術と美しさはビザンティン様式の影響を強く受けている。

金色の背景は、天国の光を象徴し、神聖な空間を表現する。

サン・マルコ大聖堂のモザイク装飾は、ベネツィアがビザンティン帝国と密接な関係を持っていたことを反映している。これらのモザイクは、11世紀から13世紀にかけて制作されたもので、大聖堂の外壁や内部を飾るために設置された。

 

 

アーチの内部に見られるモザイクは、ビザンティン様式の影響を強く受けており、キリスト教の宗教的な場面が描かれている。このモザイクは、金色の背景と鮮やかな色使いが特徴で、聖職者たちや信者の宗教的な儀式を表現している。

写真に見える柱は、複数の異なる大理石を使用しており、それぞれが独特の模様を持っている。これらの柱は、サン・マルコ大聖堂の建築において装飾的な要素として重要な役割を果たしている。また、柱の上部にはコリント式のキャピタル(柱頭)が見られ、その上に繊細な彫刻が施されている。

このモザイクは、キリストの栄光を描いたもの。中央には、復活したキリストが描かれており、その周囲には聖母マリアや天使たちが集まっている。キリストは栄光の中に座し、周りの天使たちはラッパを吹いてその栄光を宣言して復活と神の栄光を象徴している。

モザイクは、金色を基調とした背景が特徴で、ビザンティン様式の影響を強く受けている。金箔を用いた片が光を反射し、神聖で荘厳な雰囲気を作り出している。また、鮮やかな色使いが人物像や衣服に立体感を与え、全体として非常にリアルで迫力のある表現となっている。

モザイクの下部には細かな彫刻が施され聖書の物語や象徴を描いており、モザイクと彫刻が一体となって宗教的なメッセージを伝える。

モザイクは、11世紀から13世紀にかけて制作されたもので、ベネツィアがビザンティン文化と強い繋がりを持っていたことを示している。カ・ドーロ

この写真はカ・ドーロ(Ca' d'Oro)のファサードを写している。このファサードは、ゴシック様式とヴェネツィア様式が融合した建築美の象徴で白い石材と優美な彫刻がなされ軽やかな印象を与える。

塩野七海は「ヴェネツィアの建築はその軽やかさにおいて他に類を見ない」と語っている。特に、正面の柱とアーチの組み合わせが軽快だ。

2階にあるバルコニー部分は、ゴシック様式の尖塔アーチ(オジヴァル・アーチ)が連なる。柱は華奢で、これで大丈夫かなと心配になるほど細い。

写真の最下部に位置する1階部分には、華奢な柱が並んでおり、柱廊が形成され開放的な空間を作り出している。この柱廊は、当時のヴェネツィア貴族が訪問者を迎え入れたり、商業的な活動を行ったりする場でもあり塩野七海が「ヴェネツィアの建築は機能性と美が共存する」と指摘した通りだ。

この建物のファサード全体に使用されているのが、薔薇色のヴェローナ産大理石で、この石材は大運河沿いの建物にはよく見られる。温かみのある色合いと滑らかな質感が特徴で建物の各層にわたってこの大理石が使用されている。


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