映画“
月に囚われた男”を見てきました。
インディーズフィルムで、様々の賞を受賞しています。監督は、デヴィット・ボウイの息子なんだそうです。
題材から言っても、誰からも好かれるタイプの映画ではありませんが、非常に質のいい映画だと私は思いました。
添えられていた音楽が大変印象深く、考えれば考えるほどこの作品そのものを象徴していたので、その音楽の印象を紹介をすることで、そのままこの映画の紹介としようと思います。
興味がある人はぜひ、音楽を聴いて、想像を膨らませてください。 (題材がマイナーな映画でごめんなさい!)
まずはどんな映画か、手っ取り早く予告編をどーぞ:
作品情報&あらすじ
この映画は、化学の発展、宇宙開発の発展とその弊害を知っている今現在を生きる現代人にしか作れない作品です。そのクールさ無機質さ、通じなさ、残酷さ、というとても低体温(もはや無体温ですね!)な描写と、家族への愛、人間の孤独、心という暖かい血の流れそのものがお互いの光と影を強烈に対比し合い、そのものすごい質感でした。また、無慈悲な企業と、無機質な生活を送っている個人の対比でもあります。
添えられた音楽は、この質感そのもので、「これ以外にありえない」というような説得力を持った音楽だったのです。
寒くて暖かい、怖くて優しい、というような。
その構造を、映画を見ながらなんとなく聴いてみたら、実に単純な、音楽とも呼べない「響き」がそこにあり、愕然としてしまいました。
そして、こんな単純な音が組み合わさっただけで生まれるその効果に、いたく感動してしまったのです。
今一度、音楽を聴いてみよう
話が専門的になりますが、モチーフを分析します:
4小節間、八分音符でシのオクターブ(8度)が3小節と2拍分なります。つまり14回。
そして、その後に二回(二拍)だけ、上のシの音が、ラ#に変化します。(つまり7度に変化)
そしてまたオクターブにもどります。
これが淡々と繰り返される。その様はまるで鼓動のよう。
これって音楽といえるのというシンプルさ!
しかしこの簡単なモチーフが、この作品の世界観すべてを暗示することに成功しているのです。
ではそれぞれの音程の性格を紹介します。
① オクターブとは: 同じ音の高低で作られた音程のこと。度数は8度です。
オクターブの性格は:完全なもの、安定感、
などを聞いた人に感じさせます。
ピアノでペダルを踏んだような音なので、空間の広がりも感じさせると同時に、同じ音が響くことで「制限された感じ」も生まれます。
“制限された”というのと似ていますが、“変化しないこと”も表しています。同じところを行ったり来たり、動いているようで、止まっているような状態。正に無重力、真空、閉鎖的、といった宇宙空間を連想させるのです。
広がっているけれど制限されているので、その空間は空虚さ、無機質さも内在します。
融通の利かない音でもあります。
この無機質さ、温度のなさを、ピアノで演奏させればますます感じが出ます。
さあそこに一瞬だけ、半音下がったラ#が登場。調和の取れたシシのオクターブが、不調和のシラ#に予告なく変化するのです。
はじめこそそのタイミングは決まっていますが、それもそのうち不規則になってきて、いつ表れるかわからなくなります。
ただ、音が一つ下がっただけのこと。でも、8度から7度へと変化する響きは劇的で、見ていた景色がぐらりと変わるのです。
ここでは、人に違和感や、揺らぎを感じさせています。
いつも自分の下に当然のようにあるはずの地面が、ふと揺らぐ。
あるべきものが、ない。当たり前のことが、いつの間にか変わっていた。
それは「恐怖」なのです。
オクターブを14回鳴らすことで、人の耳はそれに慣れます。そこへ来て、二度だけ音程をはずす。聞いた人には、意識させない程度に鳴らして、すぐにまたオクターブに戻り「何もなかったかのように」「さりげなく」。
だから、よくわからないまま、「なんだかおかしい。なんだか、不安。」といった、違和感を覚えるのです。
しずしずと近づき、気づいたときには遅い。おばけと一緒です。
まさにスリラーの心理ですね。
それがこの音楽が表す世界観であり、主人公の感じる世界観、映画全体の雰囲気なのです。
このように、映画を引き立てる音楽が非常に巧妙にできているような作品は、音楽的な面からも、人に印象を与えることに成功しているといえます。
私の心を強く打ちます。
いつもありがとうございます
横浜・ガーデン山バイオリン教室 -大崎 まりあ
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