特撮の美術と言えば、ミニチュアですね。
本当はミニチュアに限られない筈なんですが、実際、圧倒的にミニチュアの率が高いです。
皆さんイメージの特撮ミニチュアセットというと、やはり”ビル街”を怪獣が壊している図、でしょうか。
他にも”住宅地”や”山林”等もよく見ます。
明日、10月8日は「木の日」ということで、今回は特撮に使用する”木”について少々…
色々なミニチュアを組み合わせセットを組む際、樹木は必ずと言って良い程、頻繁に投入する要素です。
が、どこが舞台であってもほぼ使用される割に、他のミニチュアより圧倒的に注目度が低い木がします。…もとい、気がします。
(勿論、工業地帯や砂漠、果ては海底や不毛の惑星等、木が無しでも成立するシチュエーションは結構有りますが、これらが舞台になる頻度はさほど多くありません。)
さて ここで問題です。
Q:特撮に使う”木”のミニチュアは一体どのように作られているのでしょうか?
答えは
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A:様々です!
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スミマセン m(_ _)m
答えになってないとお思いかも知れませんが、これが真実です。本当です。アッ石を投げないで。
イテテ… その証拠に、代表的な例をいくつかご紹介します。
その① 針金を捻って束ねて木の形にし、葉っぱの形に切った物をひたすら貼り付ける。
…ハイ、なんだか気の遠くなる作業のように聞こえますね。(^-^;
実際、手間隙が半端無いので数は多くないです。大きな物となると一本作るだけで大変です。
手荒に扱うと痛んでしまう反面、放っておいても経年劣化が少く、むしろ撮影より展示物に向いた作り方ですが、撮影用の物も存在します。
↓こんな感じです。
その② 適当な枝切れに造葉を植える
…適当と言っても”出鱈目”じゃなくて、”良い塩梅”ですよ。 (ここ重要)
木の枝など(材料)を、木の幹(ミニチュア)にして、造葉を挿していって木にします。
なかなか重宝しますが、特撮で標準の1/25スケールでは相対的に葉っぱが大きくなり過ぎるのと、そのままでは質感が作り物ぽく見えるのが悩み所。
(まあ、UPにならなければ滅多に気にならないので遠景には充分ですが。)
↓こんな感じです。
その③ 本物の木を使う(バーン!!)
…怒らないでください。嘘じゃないですって! むしろ一番多いのがこのパターンです。
「それじゃあミニチュアにならないジャン」と思うかも知れませんが、葉っぱの細かい木の枝をイイ感じに剪定して使っています。
作らなくても多量に調達でき実物のリアリティがあるので、何だかんだで費用(労力)対効果に優れているという訳。
どんな種類の木を使うかというと、それはもう特撮では何十年とひたすら定番で使用している木がありましてそれは…
じゃーん!
特撮業界・裏のスーパースター、
ヒムロ先輩です。
どうですか、この葉ぶりの細かさ。
これならUPになってもミニチュアに馴染みます。さすが先輩!伊達にカッコイイ名前してる訳じゃない!!
ヒムロ先輩が出演していない日本の特撮作品は本気で探さないとなかなか思いつかないのでは…という大物っぷり!
ご好評をいただいた「特撮博物館」でも”ヒムロ杉”として、そのご活躍の割には控えめにですが紹介されていました。
…が、
このヒムロ先輩。
実は
…杉じゃないんです!
ヒムロ :マツ目ヒノキ科ヒノキ属サワラの一園芸品種名
スギ :マツ目ヒノキ科スギ亜科スギ属スギ
だそうで、遠くはないけれど別の種のようです。本家筋のヒノキ爺ちゃんの従兄弟のスギ大叔父さん、みたいな感じなのかな?
じゃあ何故”ヒムロ杉”と呼ばれてるかというと、勝手な想像ですが、多分「杉ッぽいから」ではないでしょうか。(無責任)
なお、ヒムロでない普通のサワラは全然杉ッぽくなく、ヒノキっぽい平たい葉をつけるとのこと。
ただの”ヒムロ”では、「どこの氷室さんかな?」と思っちゃうけど、”ヒムロスギ”って言えば「あ、木の話か」って解りますもんね。
うんきっとそういう理由だ。…たぶん。…おそらく。
因みにヒムロを漢字で書くと”姫榁”もしくは”檜榁”だそうです。エッ!?”氷室先輩”じゃなかったんだ…orz(でも姫榁もカッコイイ)
”姫榁”というのは「ヒメ」+「ムロ」で、優しい”ムロ”(もしくは小さいムロ)という意味だそうで、
曰く、”ムロ”という別な木があってその別名を”ネズミサシ”。チクチクして痛いので大昔は鼠避けに使われていたんだとか。
(全部付け焼刃知識。●ーグル先生有難う。)
一方、我等がヒムロ先輩は一見同じようにトゲトゲして見えても、いざ触ってみると すごく柔らかい! フワフワして痛くない!!
先輩、その優しさ…素敵。
がしかし!荒っぽい特撮の現場はこんな優しいヒムロ先輩をも一変させてしまうのでありました。
酷使の果てに生気を失った先輩の無残な姿がこちら…
か、枯れてらっしゃる…(;_;)
こうなるともうオシマイです。触ればボロボロ崩れ、襟首やら袖口等からシャツの中に入った日にゃあ…
「ぎゃぁあ! イテテテテ!! チクチクするぅ~!!!」
あの優しかった面影はもう有りません。先輩、心まで荒みきってしまったのか… (T人T)
号泣。 (チクチクが痛くて)
…このチクチクはヒムロ先輩の植わったカポック山を運んだ時など、特美助手が皆通って来た道だったりします。狭~い業界あるあるです。
ヒムロという木は、園芸品種という事からも解るようにそんなに特殊な木ではなく、探せば生垣や庭木として立っていることもあります。
最近ではクリスマスリースの材料としても人気が有るようですョ。
ただし、あまりに有能なヒムロ先輩につい頼りっきりになり勝ちですが、全部同じではツマラナイですよね。
ということで、ヒムロ以外にも密度感のある植物を鉢植えなどで見つくろってアクセントに使用することもしばしば。
所謂「コニファー」の中にはヒムロによく似たものも散見され、
「海外のSFXマンたちはきっとこういうのを使ってるんだろうなぁ… (ヒムロ=園芸品種=日本にしかない!?から)」等と想いを馳せたりしたものです。
なお、鉢植えの形のまま、まるごと造葉で出来ている物も利用しています。
コレなんかは葉っぱが平たいので、それこそサワラかヒノキなのでしょうね。
これらに加えてこのごろは、枯れないヒムロなる物も使っています。
単価が大変お高くなるので生木のヒムロのように多用はしませんが
放っておいてもチクチクにならず、いつまでも優しい先輩でいてくれます。夢のようだ… (あれ、痛くないぞ…ほんとに夢かも!?)
以前は先輩に不向きだった、長期展示のジオラマにも活躍してくれています。
このように、基本的な方法論は戦時中(!)から連綿と引き継がれている特撮現場でも、
細かい部分や地味な部分で少しずつ革新が起きていたりします。
枯れないヒムロは先述のクリスマスリースにも使われている、プリザーブドフラワーの技術の賜物です。
何を隠そう、10月8日は
「木の日」であると同時に、なんと
「プリザーブドフラワーの日」でもあります。
ちょっとした偶然ですね。
(な)
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