旅も後半にさしかかり、瀬戸の島々を訪ねています。
今回は大三島にある大山祇神社の宝物館です。
ここは源義経が奉納した赤絲威鎧(あかいとおどしよろい)のあるところで、今回の旅で最も行きたかった所です。
理由はその鎧を詠んだ勇の歌が強烈だったからです。
義経の鎧まばゆし緋縅しの真紅の糸もいまか燃ゆがに (「旅塵」国宝の武器)
火が燃えるように赤いという鎧を見てみたくて、境内に入ると真っ直ぐ宝物館受付へ。
(宝物館は紫陽館と国宝館の総称)
その敷地に入ってすぐの所に、勇の歌碑が建っていました。


この歌碑に刻まれた歌も

義経の鎧まばゆし緋縅しの真紅の糸もいまか燃ゆがに
境内に入ってからというもの「いまか燃ゆがに」のフレーズがくり返し頭の中で流れています。
いざ、紫陽館へ。
するとどうでしょう。
太刀や長刀の奉納者として北条義時、巴御前、木曽義仲、源頼朝、護良親王等のビッグネームが惜しげもなく並びます。
義経の鎧はまだかと、はやる気持ちを抑えながら順路を進みます。
そしてその時がやって来ました。
プレートには確かに源義経が奉納した赤絲威鎧と。
ところが、燃えてないのです。
「いまか燃ゆがに」と期待していた鎧が…
真紅の糸は燃え尽きたのか、くすんでいました。
冷静に考えれば赤絲が劣化するのは当たり前のことですが、あまりに残念だったので、帰り際、受付の人に赤絲威鎧の色について尋ねました。
すると受付から外に出てきて、目の前にあったポスターを使って説明をしてくださいました。
ポスター(これは撮影可)

「国宝 赤絲威鎧・大袖付(源義経奉納)紫陽殿3階に展示中」
確かに、このポスターの鎧もくすんでいます。
もし、ポスターが真っ赤の鎧だったら真っ赤なウソとジャロに訴えるところでした。
係の人が教えてくださったのは、部分的に残っている赤い所のことです。

(ポスターを撮影 下のも)
よく見るとワンポイントで赤い糸があります。

そこは補修したところだそうですが、当時の色を再現しているとのことでした。
ナルホド
想像力を働かせて、その赤を全体に広げると燃えるような鎧が出現します。
鎧は定期的に補修をするそうです。そのスパンまでは聞きませんでしたが、場合によっては全部の糸を復元することもあるのでしょう。
はたして勇が見た赤絲威鎧はどんな色をしていたのでしょうか。
もちろん勇が見たのは90年も前ですから、色褪せも今ほどではなかったでしょう。
それとも修復したてで、燃えるような赤絲だったのでしょうか。
一方、太刀や長刀はどれも錆びることなく光っていました。
いそのかみ古りし螺鈿の飾太刀いざやとばかり佩くよしもがな(「天彦」)
窓の外のみどりうつれば千手院の太刀すさまじき大湾かな (「天彦」)
義経の赤絲威鎧については、私が勝手に一人で盛り上がり落胆しただけで、たとえそれが色褪せていたとしても完全な形で現存するだけで価値のあることです。宝物館には歴史に名を残した武将たちの武具が他にも多数展示したありました。
勇も「神社に参拝した後宝物館に往つたが、そこに陳列せられてあつた武器の美しさも、いまだに忘れることが出来ない」(「内海点描」大三島)といっています。