蟲毒の饗宴 第１７話（２）

　お風呂から上がったケイトは、

　マルコシアスとのやりとりをドールから直接聞いていた。
　キッチンで、コップに入れた水をグイッと一気に飲む。
「教科書通りのやりとりって感じね。
　マルコシアスにとっては、

　３つのうちの２つを手に入れられたから良しといったところかしら。」
「残り１つは、ライガ様が探している物、という事ですね。」
「ええ、父さんはあれからライガと別れて城に戻ったみたいだから、

　女王に報告するんでしょうけど。」
　それにしても魔人計画か。
　えげつない話がネタ切れせずによくポンポン出てくるもんだわ。
　この国って、昔からこうだったのかしら。

　話していると、魔術探偵側の玄関からノックの音が聞こえた。
　え、こんな時間にお客様？
「どちら様でしょうか？」
　覗き窓を覗くと、見覚えのある魔法使いが立っていた。
「あ、私カイルたちと一緒にパーティー組んでいる魔法使いのミウです。」
　ケイトが即座に玄関を開ける。
「どうしたの、こんな時間に。」
「今日、どこかの教団みたいな施設の地下に侵入して、

　囚われていた女の子を３名救出したんです。
　護衛団の支部に引き渡したら、

　衰弱していて危ない２名は、病院に連れていくって言ってました。
　１人はそれほどでもなかったようで、

　護衛団支部の仮眠室に寝かせるそうです。
　何か話を聞きたいなら、明日の朝イチで行かれるといいですよー。」
「ありがとう、助かるわ。
　じゃあ私からも伝えておく。
　あの教団は危険対象にされて、国が全員逮捕するそうよ。
　もうあそこには近づかない方がいい。」
　ミウはケイトにそう言われると、あららと言いたげな表情をした。
「なんか上の階が騒がしいなと皆で思ってたんですけど、

　そういう事だったんですね。
　・・・私たちの方で何か調べてほしい事ってあります？」
「スラム街の迷宮入口付近にある教会みたいなところの調査をお願い。
　私も見たんだけど、１０歳未満の子供たちの位牌について

　何か見落としている気がするのよ。」
「スラムで餓死したわけではない、と？」
「あまりにも位置が近すぎるのが気になってね。
　奴隷商アラクネ、バーグラウト教団、そして小さな教会。
　運良く奴隷商から逃げ出した女の子が、

　運悪くバーグラウト教団に誘拐される。
　あまりにも教団にとって出来すぎた内容になっているわ。
　何者かが手引きしているとしか思えない。
　ミウは魔力感知得意？」
「得意というほどではないですけど、全属性まんべんなく出来ますよ。」
「なら、位牌の魔力感知をお願いするわ。
　近くをガラの悪い連中がウロウロしているから、十分気を付けてね。」
　ケイトの気配りに、ミウは苦笑いした。
「あー、たぶん大丈夫です。
　キレると手が付けられなくなるのが一人いるので・・・。」
「あ、そうなの？
　まあ、問題無く対抗出来るならいいけど。」
　カイルたちの中にキレる人？
　そんな人いたように見えなかったけどな。
　話すだけ話すと、それじゃまた後ほどと言って、ミウは去っていった。

　ブエックシッ！
「なんだ、誰か俺の噂でもしてるのか？」
　レグザの声にメイドは、
「どうせロクな噂じゃないですよ。」
　とバッサリ切り捨てた。
　このメイド、全然メイドらしくねえと思うのは俺だけじゃねえよな？
　レグザのそんな思いなど歯牙にもかけず、

　メイドは窓から外を眺めながら問う。
「毒花ペレスの栽培施設は壊滅。
　蟲毒バーグラウトも国に奪われ、

　もう貴男の計画は頓挫したのではないですか？」
「・・・いいや、計画通りだぜ。
　国に回収される前に、必要最低限の量は確保しといたからな。」
「必要最低限？
　今まで一度も成功した事がない手術が成功するとでも？」
　この声にレグザがニヤリとする。
「ああ、確実に成功するさ。
　お前が教団から奪ってきてくれた

　“コレ”と“書物”が揃っているからなあ。
　お前も正体はまだバレちゃいねえんだろ、リディア？」
「ええ、流石は地上最強の変態レグザが造ったアイテム。
　夫人にも見破られてません。」
「誰が変態だ、一言余計なんだよ。」

　メイドの正体がリディア。
　“コレ”とはおそらくライガが探していた物。
　そしてレグザの手には、ケイトが持ち帰った２冊の間に納まっていた

　１冊の本があった。