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ペンネーム牧村蘇芳のブログ

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蟲毒の饗宴 第15話(3)

2025-03-31 21:00:34 | 小説「魔術ファミリーシリーズ」ウェストブルッグ2<蟲毒の饗宴>完
 ウェストブルッグ家には、発明家を生業としているキャサリンがいる。
 預言レベルの高度な占術を使う祖母ベレッタがいる。
 そして錬金術で薬局を経営している母アニスがいる。
 この三拍子から、何を企むのかは容易に想像出来ていた。
 ケイトは軽く肩で息をする。
「お姉様、どうかなさいまして?」
「あ、ううん、何でもないわ。」

 ドールは階段を降りついた先にある部屋に入って扉を閉めるや、
 左手を耳元に当てて話し出す。
「アニス様、予定通り危険物保管庫に入りました。
 これよりバーグラウトの回収作業を行います。」
 ドールの左耳にはワイヤレスイヤフォンの様な物が付いていた。
 するとそこから声が聞こえる。
「ドールありがと。
 持ち帰れる範囲でいいからね。」
 薬局の魔女は、今となっては希少な猛毒を独り占めする気なのだ。
 魔女と畏怖される者は大抵、恐ろしい事を平気で行う。
「畏まりました。」
 話し終えるとドールは部屋の壁一面に付けられた棚に保管されている
 瓶を手に取り、鑑定を行う。
 そして目的の毒物と分かるや栓を抜きとり、
 ゴク、ゴク、ゴク
 あろうことか飲み始めたではないか。
 麻薬の入ったカプセルを飲み込んで胃に隠したとかいうレベルじゃない。
 ドールは棚全ての毒瓶を、表情一つ変える事なく飲み切ってしまった。
 そして棚には何も無くなった事を確認すると、
 扉を開けてくるりと部屋に向き直る。
 最後に一言、
「御馳走様でした。」
 と部屋に向かって語り丁寧にお辞儀して、扉を静かに閉めていた。

 たぶん、お祖母ちゃんは毒物の存在を占いで導き出したのよね。
 で、それを母さんに教えたのよね。
 母さんとドールで会話したいなら、
 そういう遠距離会話用のアイテムをキャサリンが作れば済む話よね。
 ・・・うん、絶対3人ともグルだわ。
 ケイトは、今までの経験上から容易に推測出来ていた。
 たぶんドールが戻って来た時、何て言うのかも容易に想像出来る。
 そしてドールも、私が予想している事を熟知した上で語るのだ。

 ケイトとフランソワが入った部屋に、後からドールがやってきた。
「ご苦労様、大丈夫だった?」
「はい、ケイト様。
 臭いだけで、特に何もありませんでした。」
 やっぱりねー。
 揃いも揃ってみーんな悪女だわ。
 ま、私も人の事言えないけど。
「そ、それは良かったわ。」
 隣にフランソワがいる以上、本音全開で話せないのは分かるけど、
 たぶんフランソワも感付いてるわよねー。
「ではお姉様、この部屋を調べましょう。」
「・・・そだね。」

 薄暗い部屋・・・かと思いきや、幅広な廊下のようであった。
 左側の壁には、両手両足を固定する鎖がいくつも付けられている。
「拷問でもする場所なのかしら。」
「死体は見当たりませんね。」
 階段を上っていく絵。
 あれは更なる高みを目指す意志を表すのに使われる事がある。
 主に王族や貴族が好む絵なのだが、シルエットは普通男性がモチーフ。
 あの手の絵で女性版があるというのは聞いた事がない。
 考えながら歩いていると、床に死体があるのが目に入った。
 これは・・・
「ラミア(蛇女)?」
 上半身が人間の美女、下半身が蛇の獣人族。
 しかしラミアは遥か南の大陸で暮らしており、この大陸にはいないはず。
「お姉様、こちらにはハーピィ(有翼女)の死体があります。」
 ハーピィは西の帝国よりも更に西の先にある大陸に暮らしている。
 なんでここにいないはずの獣人族の死体が・・・?
 見ていくと、中には相当昔のか、骨だけになっている死体もあった。
 そして気になるのは死んだ後の状態。
 無念で亡くなったのなら、アンデッドかゴーストになっているはず。
 でもここにはそれが無い。
「どこか別の場所で殺された可能性が高いわね。
 ここは死体ばかりあるけど霊溜まりが無いわ。」
 ケイトが状況を気にしながら周囲を見ていると、
 ドールが熱心に骨を見つめているのに気付いた。
「ドール、どうかした?」
「ケイト様、これらの骨ですが美しくありません。」
「はい?」
 骨が美しくないって、どういう事よ?
「ラミアの骨の腰の部分、ハーピィの背中の部分、
 どちらも無理矢理縫合してくっつけたかのような歪さを感じます。
 しなやかさが無いのです。」
「そう・・・ね。
 言われてみればその通りだわ。
 これじゃ獣人族特有の動きなんてできっこない。」
 無理矢理に人ならざる者をつくろうとしている?
 何の為に?
 そう思いながらゆっくり歩いていくと、1つの扉に行き着いた。
 扉に書いてある文字がかろうじて読める。

 東方資料館。
 閲覧のみ可。
 一切の持ち出しを禁ずる。

「こんな地下深くに資料館?
 昔の人の考えることって分からないわねー。」
 鍵は掛かっていなかった。
 扉を開けると、カビと埃の混じった辛気臭い空気の中に、
 多くの本が収納されていた。

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