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亜矢は、鐘が鳴る深夜十二時に着けるよう、身支度をして家を出た。
外はシンと冷え切って、今にもまた雪が降りそうな感じだった。
首に巻いたマフラーの端をしっかりと肩にかけ直し、クリスマス塔を目指して歩き出す。
静まり返った通りに、亜矢のブーツの音だけが響いていた。
(あの日もこんな寒い夜だったな…)
祐二と待ち合わせをした去年は、ウキウキした気持ちでこの道を歩いた。
寒さも感じないほどに気分が高まり、あっという間にクリスマス塔に着いた記憶がある。
でも今日はいくら着こんでも、体を固くしても、寒さが身にしみる。
そして、こんなに遠かったのか? と思うほど、距離を感じる。
(やっぱり…やめようかな)
何度そう思ったか分からない。
去年の恋人たちであふれ返った賑わいを思い出すと、その場に一人でいる事が耐えられるのかどうか、不安でいっぱいになっていたからだ。
そうこうしているうちに、亜矢はクリスマス塔の前にたどり着いた。
結局ここまで来てしまったのは、心の奥底で、あの子の言葉に(もしかしたら…)という小さな希望を求めていたからなのかもしれない。
思った通り塔の前では、たくさんの恋人たちが鐘を見上げ、今か今かと鳴るのを待ちわびていた。
亜矢は少し離れた街灯の下に行き、そっと塔を眺めることにした。
さすがに皆と同じ場所にいる事は出来なかった。
(そう言えば…あの子、ここに来てって事しか言ってなかったけど、どこに行けば会えるのかしら?
さすがにこの人混みの中で小さな男の子を探すのは難しいわ)
鐘の鳴る時間が近づき、二つの鐘が新たに照らされたライトアップの光の中に浮かび上がった。
にわかに塔の前がざわつき始める。
じっと目を凝らして男の子を探す亜矢の肩に、ふわりと白いものが乗った。
(あ、雪だ…)
まるで、鐘の音が鳴るのに合わせたかのように雪が降り始めた。
ロマンティックな神さまの演出だと言って、恋人たちは喜んだ。