海風に吹かれて

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クリスマスの鐘が鳴る前に last episode

2009-01-02 01:12:31 | 短編小説 クリスマスの鐘が鳴る前に

    

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 吸い寄せられるように中を覗くと、そこには大きな絵画が壁にかけられていた。
 思わず亜矢は、その絵画の真下まで行き、まじまじと眺めた。
 宗教画の類なのだろうか。
 中央に描かれた美しい男女の周りを、たくさんの天使たちが飛び回っている。
 亜矢はこの絵を見て、何となくクリスマス塔の伝説の根拠が分かったような気がした。
 祝福ムードでいっぱいの天使たち。
 それを一身に受けている男女は、とても幸せそうな顔をしていた。
(私も今、こんな素敵な笑顔をしているかもしれない。
 あの男の子は私に、信じる素晴らしさを教えてくれたのね)
 亜矢はそう心の中でつぶやくと、ふふっと小さく笑った。
「おや、お嬢さん。
 クピードーに呼ばれたのかな? 」
 ふいに聞こえてきた声に亜矢が振り向くと、白いひげをたくわえた老人が立っていた。
「あ、ご…ごめんなさい。勝手に入ってしまって」
 亜矢が慌てて謝ると、老人はかっぷくのいい体をゆすって笑い、
「ああ、いや大丈夫。気にしないでおくれ」
と言って、亜矢の横で絵画を眺めながら話し出した。
「この絵は、とても不思議な絵なんじゃよ」
「不思議…?」
「ああ、不思議なんじゃ。
 時折この絵からクピードーが抜け出して、恋に悩む恋人たちの手助けするのだからなぁ」
「どういう事ですか? 」
 亜矢は、その話があの男の子の正体に関わる気がして、おじいさんの話に夢中になった。
「この絵はなぁ、わしが若い頃に描いたものなんじゃよ。
 叶わぬ恋を嘆いて書いた駄作だったんじゃが、このクリスマス塔を建てる時に、ぜひ塔の中に飾らせて欲しいと言われてなぁ。
 まぁ、塔の中なら人様の前にさらすわけではないし、いいだろうと承知したんじゃ」
 老人は、我が子を慈しむような優しい眼差しで、絵を眺めた。
「ところが、この絵をここに納めてから、不思議な事にが起きるようになった。
 まぁ、クピードーは気まぐれじゃから、ほんの数回だがね」
「あの…おじいさん。
 さっきから言っているクピードーと言うのは、あの天使たちの事ですか? 」
 亜矢は描かれている天使を、一人一人見つめながら聞いた。
 それぞれに表情が違っていて、駄作などとは呼べない作品に、改めて感心していた。
「そうじゃ。
 天使とクピードーとは、描かれる姿はよく似ているものの、全く別のものじゃ。
 クピードーと言うのは、ローマ神話に出てくる神さまの事じゃ。
 ああ、英語読みで『キューピッド』と言った方が、ピンとくるだろう。
 天使とはキリスト教や聖書に出てくる、ケルビムという智天使の事じゃ。
 まぁ、難しい事を色々と言っても仕方ないのじゃが、見分ける方法として…ほら、どのクピードーも弓矢を持っているじゃろ? 」
 亜矢は老人に言われて、もう一度絵の中のクピードーを見た。
 確かにみんな、弓を持ったり矢を持ったり、肩から矢筒を下げている。
「わしの恋を成就させられなかったお詫びなんじゃろうか?
 それとも、単に気まぐれなクピードーだからなのか…?
 いずれにせよ、お嬢ちゃん。あんたはクピードーに選ばれたんじゃ。
 その恋を大切にするんじゃよ」
 そう言って老人は、塔の奥へと入って行った。

 亜矢はもう一度絵画を眺め、そしてどのクピードーが手助けをしてくれたのかは分からないけれど、この幸せをくれた事に感謝した。


 ―ある街の中央にそびえ立つ、クリスマス塔と呼ばれる塔の先端には、二つの大きな鐘が鎮座している。
 一年にたった一度、クリスマスの夜にだけ、その音を響かせる。
 その塔の前で、一緒に鐘の音を聞いた二人には、永遠の幸せが訪れるという―
       
                         End



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6 コメント

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いいなぁ・・・ (松果)
2009-01-02 07:31:15
う~、久々のミナモさんワールドを堪能させてもらいました。

そ、そうか!あの男の子はクピードー(=キューピッド)だったのね。ふふー、塔の中のおじいさんもなんだかサンタさんのような雰囲気の優しい人。
想いを言葉にすること。言葉にならない相手の想いを受け取ること。どちらも難しいけど、そういう大変さを通過しなきゃだめなこと、あるんだよね。
ハッピーエンドを予感させながらも、亜矢のその後を全部書いてしまわないっていう演出が心憎いです
お正月からほんわか気分にさせてもらいました。ありがとう
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ありがとう! 松果さん♪ (ミナモ)
2009-01-02 15:44:31
ふふ。
さすが松果さん。

おじいさんは、私も書いている中で、サンタさんのイメージが浮かんでいました

私は前にも松果さんとのコメントのやり取りの中で書いたけど、映像を文章に起こすので、どーにもくどくどと、事細かく書いてしまう癖があるんです。
今回はその辺も意識して、ある程度読者さんの想像の中にゆだねる…という書き方をしたんです。
演出と言えば演出ですね

そんなのも嬉しいっ

次回作、すぐにでも取りかかりたいなと思ってます♪
また遊びに来てくださいね
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素敵でした♪ (えいみ)
2009-01-02 20:30:29
5話で彼がいなくなっちゃった時は…
一瞬、えぇぇ!?(T-T)と思っちゃったけど。
亜矢ちゃん、彼への想いをしっかり見つめ直す
ことが出来て良かった♪
おじいさんの過去の恋が若干気になりました~

次回も楽しみにしてます^^
返信する
ありがとう! えいみさん♪ (ミナモ)
2009-01-03 14:11:18
完結までありがとうございました

そうそう。
おじいさんの恋、気になるよね~♪
かなわぬ恋って、どんなん???
色々と想像してしまうわ

それだけで、1話出来そう♪

次回作、ただいま執筆中です
また見に来てくださいね
返信する
あけましておめでとうw (昴 雄羅)
2009-01-16 22:20:29
ヽ@(^ェ^*)@ノ☆.。.:*・゜☆HAPPY NEW YEAR☆゜・*:.。.☆ヽ@(*^ェ^)@ノ
遅すぎる新年のあいさつです


今回もハッピーエンドなんか、かわいい作品だったような印象があるな
そのうち、バットエンドとかも書いちゃうのかな(;ω;`)ヾ(´∀`*)ヨチヨチ (冗談。

お疲れ様ですた

返信する
雄羅ちゃん、マジでごめんっ!! (ミナモ)
2009-01-29 21:49:29
ここんとこ、もう1つのブログとかに追われちゃってて、こっちを覗いていなかった

1月も終わろうとする今になって返信です
ほんとにごめんね~

バットエンドか~…。
考えてみるかなぁ(笑)
でも、かわいい作品なんて言ってもらって嬉しいなぁ

今、少し書きためた作品があるんだけど、タイトルが決まらなくってアップ出来ないんだ♪
決まったらアップするから、またよろしくね♪

いつも読んでくれてありがと~
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