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優子は跳ねるような足取りで、僕の目の前に来てしゃがみ込むと、僕の言葉を待った。
さっきまでのしおらしい態度はどこへ行ったんだ。
僕は少しムッとした。
そんな僕を上目使いに見る優子の目が、キラキラと光っている。
胸の奥が、ドキンと脈打った。
思いもよらない自分の反応に、一番驚いたのは僕だ。
慌てて優子から視線を逸らし、早口で話し始めた。
「あ…あのな、なんでお前はここにずっといるんだ? っていうか、なぜ死んだんだ?
いや、ちょっと待て。
その前に、僕に姿が見える事や声が聞こえるって、どうして気がついたんだ? 」
優子は大きな目をさらに大きく見開き、びっくりした様子でしばらく黙っていたが、くすくすと笑って答えた。
「上矢くん、いくら私だって、そんなにいっぺんに答えられないわよ。
じゃあまずは、どうして私がこの姿になったのか? それを答えればいい? 」
「あ…、ああ、そうだな」
「わかったわ」
優子は小さく咳払いをしてから続けた。
「私は、極々普通の高校生だったの。
入学して、部活も決まって…好きな人も出来た。
本当にこれからって時に、交通事故に遭って…死んでしまったの」
「そうか…。じゃあそれで思いを残して、この学校に留まっているってわけだ」
僕は、夢と希望に満ちた優子の姿を想像して、昨日の言葉を納得した。
自分は全うできなかった高校生生活なのに、惰性で過ごしているような僕の姿を見たら、そりゃ文句の一つも言いたくなるだろう。
「まあね。ここにいると、私も高校生として一緒に生活している気分になれるからね」
そう言って優子は、眩しそうに校舎の方を眺めた。
「なるほどな。
で、僕の事はどうして気付いたんだ? 」
「ああ。うふふ」
優子は意味深な笑い方をして、僕に視線を戻した。
「そんなのは簡単な事よ。
だって私は毎朝、みーんなに声をかけているの。おはよう。ってね。
もちろん反応はないわ。当然よね。
私の姿は見えないし、声だって届かないんだもの。
でも…」
「でも? 」
「上谷くんは違ったわ。
もちろん答えた訳じゃないけれど、ちゃんと反応があったもの」
「どういう事だ? 」
僕は、極力反応は示さなかったつもりだったが…。
「無反応ではなかったって事よ」
そうか…。優子の言葉に答えさえしなければ、周りの皆にとっては反応していない事でも、優子の立場の者にとっては、確かに僕は反応していたかもしれない。
見えているのに見えていない、聞こえているのに聞こえないふりをするのは、難しい事だ。
「なるほどな。そういう事か…」
納得して、僕は肩の力が抜けた。
「それからね、上矢くん」
優子が続ける。
「あなたからも、私に向かって発信されているわ」
「なにを? 」
「助けて欲しいって」
僕は驚いて、というか、あまりにも飛躍した言葉に、答える事も出来なかった。
「何があったのかは知らないけれど、上矢くんは本当は、もっともっと誰かと関わりたいと願ってる。
そのために、その力が邪魔だと思っているみたいだけど、それは間違えてるわ」