事故の航空史(14)中華航空006便 1985/02/19

2017-12-04 23:35:29 | 事故の航空史

【事故の概況】
[発生日時及び場所]1985年02月19日12時10分過ぎ(米太平洋標準時) 太平洋上空(米国西海岸から約600キロメートル付近)
[航空会社及び便名]中華航空006便(CI006便) 台北・中正国際空港(TPE)発、ロサンゼルス国際空港行きボーイングB747SP-09(N4522V)
※中正国際空港は現在の桃園国際空港(TPE)、機材はアメリカ・リース企業所有のため米国籍

【事故の経過】
 台北を離陸して約10時間、高度41,000フィート(約12,500メートル)を巡航していた。飛行していた空域には乱気流が存在し、絶えず対気速度が変化している状況にあった。この高度では、許容される対気速度の幅(最大速度と最小速度の差)は30ノットしかない。高高度で発生する乱気流は、一定の方向に吹くのではなく、散発的に発生と消滅を繰り返したり、気流の速度絶えず変化をし、不安定化しているケースが多く、このときもこの状況にあった。
 同機は自動操縦で巡航速度マッハ0.85にセットして航行していたが、右外側の第4エンジンの推力が突然低下しはじめ、フレームアウト(停止)したことにより機が右に傾き始めた。自動操縦での修正が効かなかったため、乗務員は自動操縦から手動操縦に切り替えたが、このときに乱気流の中にあったため対気速度がマッハ0.75に低下しており、失速して降下し、錐もみ状態となって乗員は機のコントロールを失った。
 そのまま、高度9,600フィート(約2,900メートル)で何とか操縦を取り戻し、機長はサンフランシスコ国際空港(SFO)への緊急着陸を要請し、高度29,000フィート(約8,500メートル)まで高度を回復し、約1時間後に着陸した。

【事故の原因】
 第4エンジンのフレームアウトの原因は、航空機関士のエンジンの排気バルブの設定ミスであった。エンジンの排気が抑制された結果、空気の流れが阻害されこれによりエンジンの燃焼効率が低下してフレームアウトした。
 これだけでは重大事故にはならなかったのだが、当該機の自動操縦では方向制御は昇降蛇とエルロン(主翼の一番外側にある補助翼の上下)でコントロールしており、エンジンのフレームアウトという大きな変化には対応できなかった。この状況で機を水平に保つには垂直尾翼にある方向舵の操作が必要なのだが、乗員はそれを関知しておらず、また急激な傾きを人工水平儀の故障(そんなに傾いている筈がないという先入観)と疑っていたこともあり、対応が遅れた。
 傾きが増すことで機は降下していたため、自動操縦は昇降蛇を操作して高度を保つべく上昇しようとしていた。この状態で自動操縦から手動操縦に切り替わったことにより、補助翼と昇降蛇で姿勢を維持していたのが解除されてしまい、急激な右傾斜と失速が同時に発生して、機はキリモミ状態となり急降下した。フライトレコーダーの分析によれば、ほぼ機首を下にした垂直状態で落下したと推察される。ほぼ5Gの負荷がかかり、エンジンは吸気できなくなって4つのうち3つのエンジンの推力がほぼゼロになった。水平安定板が損傷したうえ、尾部にあるAPU(補助動力装置)が脱落した。運航乗員は空間識失調(急激な運動により上下左右がわからなくなる状態)に陥った。
 そのまま海面に激突してもおかしくない状態だったが、主脚を格納している扉が吹き飛んで脚が出たことにより空気抵抗が増したこと、雲の下部に出たことにより海面が確認できたこと、機長が元空軍パイロットで錐もみ状態から脱出する訓練を受けた経験があったこと等から、墜落直前でなんとかコントロールを取り戻すことができた。
 
【再発の防止】
 事態発生のきっかけは人的ミスだが、運航乗員の自動操縦に対する知識不足(大幅な姿勢維持は対応できないこと)が見られ、各社においてフライトシミュレーターなどの訓練に取り入れられるようになった。ただし、根本的な解決策はないものの、最新機種では自動操縦の範囲が拡げられ、手動に切り替えた際の警告などの対応も行われている。墜落することなく生還したことで、貴重な経験則の提供がなされた。

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