事故の航空史(13)大韓航空858便 1987/11/29

2017-11-29 19:45:11 | 事故の航空史
【事故の概要】
[発生日時及び場所]1987年11月29日11時過ぎ インド洋東部、ビルマ(現ミャンマー)西方沖
[航空会社及び便名]大韓航空858便(KE858便) イラク国バクダッド・サダム国際空港(SDA)発、アラブ首長国連邦アブダビ国際空港(AUH)、タイ・バンコク国際空港(BKK)経由、大韓民国ソウル金浦国際空港(SEL)行きボーイングB707-3B5C(HL7406)
 ※バクダッド・サダム国際空港は、現バクダッド国際空港(BGW)、バンコク国際空港は現ドンムアン空港(DMK)、ソウル・金浦国際空港(SEL)の現在の3レターはGMP

【事故の経過】
 11月29日朝、アブダビ空港からインド洋上空を横断して、離陸後約4時間30分後にビルマの管制空域に入り、定められた地点での位置通報をラングーン(現ヤンゴン)の管制官へ送っている。予定では同機はこの50分後にビルマ領土に入り、バンコク着はほぼ定刻の予定となっていた。
 陸上のレーダーに機影が補足されず、予定されていた時刻にタイの管制官への位置通報がなかったことから、遭難したものとされて、タイ・ビルマ両政府による捜索が開始された。
 一方、大韓航空側でも会社無線による応答がない事から、捜索依頼をビルマ政府に出した。

【事故の原因】
 当該機は、事故の前に二度、胴体着陸事故を起こしており、機体構造上の欠陥が疑われたが、実際は爆破テロ事件であることが判明する。
 大韓航空機遭難の報により、同機にバクダッドで搭乗し、アブダビで降機した旅客15名を追跡したところ、その中の日本人男女2名がいた。当時はソウル五輪開催前年で、日本赤軍による妨害工作未遂等もあり、中東はこれら過激派の活動拠点でもあったことから、日本の外務省への身元照会が行われた。この間に2名は30日午後にアブダビからバーレーンへと移動した。
 バーレーンの日本国総領事館が入国記録をチェックしたところ、女性の航空券の名義の姓がなく名のみで予約されていた。日本人の常識として、姓がない予約をするとは考えられず、日本の本省に旅券番号を照会したところ、該当旅券番号は徳島県の男性に交付されており、偽造である疑いが濃厚となった。
 このため、日本総領事館員が2人に接触を試み、ようやくバーレーン空港でローマ行き航空便に乗ろうとしてた2人と会うことに成功した。出発直前で領事館員に拘束権がなかった事から、入国管理当局に偽造旅券使用者であると告発し、バーレーンの関係当局が2人の身柄を確保した。

 男の方は毒入りカプセルを服用して絶命したが、女の方は警察官がとっさにタックルしたため、カプセルを噛み切れず意識不明となったものの、3日後に回復して拘束された。
 この間に男性名義の旅券も偽造であることが判明し、日本の当局の捜査により、旅券偽造工作に北朝鮮の工作員とされた人物の介在が明らかとなり、この2名が北朝鮮籍であることが濃厚となった。

 さて、航空事故という観点からすれば、極めて不自然なのですが、事故機残骸が発見されるよりも前に北朝鮮の工作が疑われているということです。同機は当初、ビルマとタイの国境付近に墜落したと考えられていたのですが、この地域は反ビルマ政府ゲリラの支配下にあり、このゲリラは国境を越えたタイ側でも当局と戦闘をしており、ビルマ・タイ両政府とも捜索活動が出来ない状況にありました。
 12月10日になって、インド洋で残骸や遺体の一部が回収され、洋上での墜落の可能性が高まりました。しかし、その後の捜索で回収された部品などによりボーイング707型機と特定されたものの、KE858便の墜落地点が特定されたのは1990年になってからであり、いまなおブラックボックスは回収されておらず、墜落そのものの原因は特定されていません。
 事故機の検証よりも先に、逮捕拘束された女性の「爆破物を入れた荷物を頭上の収納棚に置いたままアブダビで降機した」という証言が先に出たことにより、爆破テロによる墜落という報道が先行した。ところが同行していた男性が死亡している事から、女性の証言の検証も不可能であり、純粋な事故調査的観点からすれば、墜落原因は不明となります。
 なお、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は、現在に至るまで関与を公式に否定している。

【再発の防止】
 事故当時、途中経由地での旅客の行動はほとんど規制がなく、降機客が入る場合は先に降機してもらい、そのまま乗り続ける旅客は空港内のトランジットルームへ出れる場合は、一旦出ても出なくても良い、という運用が行われていました。この場合、今回のケースのように降機客が荷物等を置いたままで降機しても特定が困難であることから、多くの航空会社がが引き続き搭乗する乗客全てを一旦降機させ、その間に機内の点検を行ったり、あるいは区間搭乗客(今回のケースでは、バクダッド-アブダビ間の旅客)を受けなくするなどの対応を行った。
 ただし、これらの対策は法令や勧告によるものではなく、各航空会社が独自の観点で行っており、その方法も対策時期も統一はされていない。
 

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