東京でいくつのフレンチがあるのか考えると想像もつきませんが、おいしいフレンチとなるとやはり限られてきます。その中でも、オーソドックスな料理を出してくれるお店となると、さらに数は限られてきます。今夜は、広尾の老舗フレンチレストラン「
アラジン」にお邪魔しました。近いから行きたいと思いながら、気づいてみたら二年間も来ていなかったことに驚き。人生は短いんだから、いけませんな~。
お店にはいるときに、調理場で準備をされている川崎シェフやスタッフの方を目にすることができるのがうれしい。お嫁さんはシェフに手を振っていました。
クラシックな店内に案内され、テーブルについてメニューを眺めます。一部にはこの内装を批判する人もいるようですが、ぼくたちはこれだ好き。パリで入った有名なレストランに似ているんです。
食前酒は取らず、料理に直行することになりました。選択は三名とも「Menu A」。前菜が三品、メインディッシュ一品、そして、デザートが二品というコースです。
ホロホロ鳥とフォワグラと石川芋、ゴボウのガランティーヌ
Galantine de pintadeau, foie gras, girolles
ホロホロ鳥が好きなぼくにとっては、諸手で万歳の料理。ホロホロ鳥の味がうれしい。ゴボウと里芋(石川芋)がホロホロ鳥で包まれていますが、丸い円のうち大きい方が里芋、小さいのがゴボウ。もちもちした食感が共通していてとてもいいアイデアだと思いました。
秋はジビエの季節。同時にキノコの季節でもあります。この品でもキノコが使われていますが、すぐには分かりません。実は里芋の周りにある黒い部分がそうで、「トランペット茸」というもの。黒いトランペットのような形をしているキノコだそうです。別名、「死者のトランペット」(仏語では trompette de la mort または trompette des morts)。でも、ぼくたちぴんぴんしています。
添えられている緑の一つはオクラ。オクラが好きなぼくにはたまりません。
料理全体としてはさっぱりとして、さい先の良いスタートです。
ホタテ貝とセップ茸のキャベツ包み蒸し 柚子とオリーヴオイルソース
Chou farci de noix de St-jaques et cepes
写真からはホタテ貝は見えませんが、これは、キャベツで包まれているからです。フォークを使って切ってみると登場したのは立派なホタテ貝と、添えられたセップ茸。このキノコはフランス人にとっては松茸のような存在で、フランス滞在中に市場で見かけると、いつも感嘆の声。でも、当時は高かったので一度も食べませんでした。
味付けとしては薄味。それを完璧な物に仕上げているのが柚子。これも季節感たっぷりです。ほのかな柚子の香りキャベツとホタテ貝をよりおいしくしていました。これには、テーブルの三名は絶賛。かけすぎると和食になってしまうのでしょうが、フレンチにとどめているところが絶妙です。
毛蟹のリゾット
Rizotto de Crabe
メニューの三品目は定番と言えるリゾット。お嫁さんによると、以前は「フォアグラのリゾット」だったとか。川崎シェフのフォアグラを食べたことがありますが、マディラソースが最高で、ぼくは、その一品で川崎シェフの底力に開眼。
毛蟹のリゾットに話題を戻しましょう。まず印象深かったのは豊かなカニの香り。温かいお皿だけに、カニの香りはとても大切。身もしっかり入っていて、甲殻類ファンにも満足できるでしょう。お嫁さんと尾本建ちはリゾット好きなので、ものすごいスピードで食べてしまいました。
なお、写真で鮮やかに写っている緑色の野菜は「金針菜(きんしんさい)」。百合の花です。
メインは本日の肉料理「蝦夷仔鹿の背肉ステーキ (Dos de Chevreuil poêlé)」。写真が小さいのは痛恨のミス。ピントがずれてぶれて大きいサイズでは使い物になりませんでした。おいしかっただけに残念です。それくらい、写真を撮るのはいいから早く食べたかったということでしょうか?
ジビエの季節はまだ始まったばかりで、ようやく手に入ったばかりの素材とウェイターさんの説明。牛肉のような肉らしさと、ジビエらしいコクがぼくは好きなのですが、それが早くも味わえるというのはうれしい限り。ジビエはシェフの仕込みの技も問われるので、それも楽しみではあります。
黄色いのはセロリのピュレ。お肉はフィレと脂身が多めのロースと二つの部位が提供されていました。女性陣はロースをあっという間に平らげご機嫌。この辺りで最初にお願いしたワインを空けてしまい、決断を迫られることに。ジスクールなのでグラスでもよかったのですが、気になっていたワインがあったので、次のボトルに独断で移行です。
今回お供をしてくれたワインは次の通り。
Vieux Château Saint André 2002
Château Chasse Spleen 2002
最初の方はサンテミリオンからポムロールあたりの地域でつくられた赤ワイン。果実味の強い香りとは裏腹にサンテミリオン特有のタンニンの主張が特徴的でした。開きが非常に早く、テイスティングの段階で、空気を取り込むと香りに変化が見られました。
ちなみに、赤ワインを飲むときにくるくると液体をグラスの中で回している人がいますが、やり過ぎには気をつけましょう。本来、テイスティングで回すのは空気とふれあわせることで味や香りがどう変化するかを見るためです。ワインを飲むときは、時間とともに空気とふれあうことで味が変化していきます。それを予見するためにぐるぐる回しているのです。
もし、とても良いワインを飲む場合には、デキャンタージュをして空気に触れあわせますから、グラスでワインをくるくる回す必要はありません。実際、フランスでそんなことしている人は見たことありませんでした。かっこいいと思ってしている人は直ちに改めましょう。
で、二つ目のワインはムーリス (Médoc en Moulis) のもの。場所としてはマルゴー (Margaux) に近いのですが、それもあってか、カベルネ・ソーヴィニョンが73%と高め、メルロが20%と続きます。クリュ・ブルジョワ・エクセプショネルという格付けもあり興味深いワインでした。
香りは非常に蝋のにおいが強く、最初のワインと比べると開くまでに時間がかかりました。しかし、スパイスな味は蝦夷鹿にはぴったりで、特に女性陣にはこのワインは好評でした。確かに開いてからはしっかりとした感覚が頼もしく思えました。
お嫁さんは遠慮したのですが、彼女の友達とぼくとは大好きなロックフォールにシフト。ご親切にも、二つのロックフォールを用意してくれました。
(1) ガブリエル(右)
(2) パピヨン(左)
おいしかったのは左のパピヨン。舌に載せた時点で既に溶けています。柔らかさ、そして、塩味のうまみ。ウェイターさんと一緒にしばしロックフォール談義で盛り上がり。こういうの楽しいです。
「ひとつめのデザートです」と言う言葉で、二つもあるの? と驚いた一行ですが、最初に登場したのは「パッションフルーツと梨のスープ&ポワールウイリアムシャーベット (Soupe de fruit de la passion et Nashi & Sorbet au poire Williams)」。フランス語の方を見ると忠実に内容が表現されていますが、パッションフルーツのスープに和梨を使ったデザート。上に洋なしのウィリアムがシャーベットとして添えられています。
口直しのような爽快感がテーブルでは好評。ぺろりと食べてしまいました。
無花果のアーモンド風味ガレット&バニラアイス
Galette de figue et a l’amande & glace aux vanilles
無花果(イチジク)は今の季節を表していていいですね。料理のいい点は、料理を通して季節を味わえること。そういう点では、四季がはっきりしているフランスや日本は料理大国として地理的条件が整っているといっても良いでしょう。
アーモンド風味のガレットが濃厚でご機嫌。しかし、重くなりそうなガレットを冷たいバニラアイスが打ち消すという関係。料理でバランスというのはとても大切ですが、デザートも同じです。
6時半からお邪魔して、気がつけば10時過ぎ。ひょんなことから隣のテーブルの方と少し会話、その上、川崎シェフのフランス語がしっかりした発音だったという発見もありの楽しい時間。温故知新という言葉がありますが、本当に川崎シェフの料理は外せないと深く自覚した次第です。
今度はもっと頻繁に通って覚えてもらいたいです。