国内外でTropical Byblisの栽培において「用土をやや乾燥気味に」という記述を散見します。実際非常に大きい鉢を使用すると生育初期を除き上手く栽培できる場合があります。これ自体を否定するつもりはないのですがかなり違和感を覚えます。
幸運にも自生地を訪れる機会を得た人々の観察、そして撮影された写真の多くがかなり乾燥気味の大地に生育するTropical Byblisを写し出しています。これが「用土をやや乾燥気味に」という根拠になっているのかもしれません。
Tropical Byblisの栽培をはじめて高だか三十数年、育種に取り組んでやっと10年という、植物たちの長い歴史を考えれば、瞬きする時間にすらならない経験ですが、「用土をやや乾燥気味に」という栽培方法はとても間違っているように感じます。園芸として栽培を楽しむ場合、一般的には5寸前後の鉢(または更に小さい)を利用する事が多いと思いますが、大量の水を蒸散するTropical Byblisで「用土をやや乾燥気味に」に保つのはとても難しい事です。真夏の日中に付きっ切りで少しずつ灌水でもしなければ、例えば少し昼寝でもしようものなら目覚めたときには、昇天しているでしょう。余談ですが、Byblis linifloraをはじめて栽培した年、訳も分からず栽培したのによく分枝してずいぶんと良い出来になりました。秋口の植物の集まりで山野草の大家故志方先生にお褒めの言葉を頂いた事を懐かしく思い出します。この時も腰水で管理していました。
自生地の調査を年に数回行っている友人の話では、調査の予定地に近づく事すら出来ない事が度々あるそうです。ぬかるんでいて四輪駆動車でもどうにもならないそうです。予定を変更する事で新種が見つかったりするのでオーストラリアという所はすごい国です。現地を訪れて「用土をやや乾燥気味に」という栽培方法を発想された方々は、幸運にもやや乾燥していたので、そこまで到達できたというのが実際のところかもしれません。その場合も根が張っている深い場所ではそれなりの水分があるようです。その自生地も更にその状態が続いたり、乾期が訪れたりしてしまえば根の存在する深さまで乾燥してしまいます。Tropical Byblisはそのような環境では生きていけません。
実際の栽培において、少なくとも発芽から旺盛に生育して充実するまではかなりの水を必要とします。園芸用の鉢で栽培する場合、蒸散に応じた水分補給が必要です。真夏も強い日照を好むTropical Byblisの蒸散量に追いつくためには腰水などで補給しなければ間に合わなくなります。
この写真はかなり育種の進んでいるものです。「矮化剤を使っている」と強く主張する人がいて困惑していますが、これは数あるヴァリエーションの中から厳選したものに更に選抜を繰り返して実現したものです。