ノベライズ ≪十五才≫(山田洋次)
2008-02-16
■角川文庫から出ています。
なぜ取り上げるのが≪十五才≫なのかと言うと、
もうかなり言ってきましたが、
≪LCW≫のブルーシップ・吉沢保役(狙撃の役割分担・汗)の
俳優さん、金井勇太さんが主演なさった作品だからなんです。
今から15年前の映画です。
■不登校児、川島大介が主人公。
彼は学校に行ってて、明るくて素直なやつだけがいい子なのかと、
悶々としている少年です。
人とのつきあいがうまくできない。
適当に流すことができないんですね。
でも何のせいで不登校になったかは書かれていません。
半年前から学校に行けなくなったままです。
でもって、学校で大介が座っていた机の上には
金魚鉢が置かれていて、二匹の金魚が泳いでいると・・・
≪ぼくは冒険の旅に出ます。さがさないでください 大介≫
大介がそう言って家出したとき、両親の会話は
「仕事中に電話かけてくるなよ」
「なんで大介のことになると私におしつけるの」
こういうものでした。
大介はヒッチハイクをして九州・屋久島の縄文杉を見に行きたいと
思ったのでした。樹齢7000年を超える大きな杉の木。
その樹に触ったらきっと元気がでるって・・・
旅の途中でさまざまなひとたちに出会うんです
たとえば
運送会社が倒産して3人の子どもを抱え、奥さんには逃げられ、
認知症の家族をかかえる中年男性。運転手の友人なのですが
途中までクルマにのせてもらって、途中で別れてゆきます。
九州まで乗せてくれた女性ドライバーの息子も
高校生なのですが、やはりひきこもりでした。
たった一晩なのですが、ともに語るうちにこの女性の
息子は大介にこころをひらくんですね、
なんだか大それたきっかけがなくても、
ひとはふわっと変われるってことなのですかね。
屋久島にわたり、縄文杉を見てきた大介は
帰りに一人暮らしの老人・鉄男と出会い、一晩世話になるのですが、
彼の具合が悪くなってしまうのです。
大介は介護するのですが・・・。
■金井勇太さんは「夕凪の街 桜の国」で主人公(田中玲奈)の
弟役を好演なさってらっしゃるかたです。それとこの映画しか
存じ上げないのですが、それゆえに≪LCW≫にあのような役で
出演なさっていることに驚きました。でもいつも似たような役柄
では幅が狭くなりますよね。とはいえ、金井さんに聞いてみたいもの
ではあります。
■山田洋次監督は言わずとしれた「フーテンの寅さん」の監督さん。
予定調和のハッピーエンドの作品が多いと見られ、偽善者とまで
書かれているレビューがありました。
だったら、この家出して旅を終えてひとまわり大きくなって帰ってくる
大介を描いた作品に意味はなかったのでしょうか?
■不登校なんだけど、行動力のある大介は学校になじまないだけで
すべてうまくやってゆける子じゃないの?とは思うのですが、
大介が読者を連れ出してくれる・・・
そんなふうに思えてならないのです。
もちろんそれはバーチャルな旅ではあるのですけれど、
リアルな外の世界に出てゆけない人、出たくても出られない人にとって、
大介が出逢う風景、大介が出会うひとびとは優しいです。
生命力が乏しいひとたちにとっては、
あまりにショッキングであったり、重い命題をつきつけてくるドラマは
それだけで息苦しく、耐えられないものになるのではないかと思います。
だから、まず親切なひとに出逢ってみるだけの旅であってもいいのでは
ないかなと思うのです。
それぞれのひとがどんな状況をかかえているのか、そのことを知るだけでも
物見遊山の旅ではなくなると思います。
旅を終えて家に戻ったとき、両親はどんなふうに大介を迎えたか、
ひとり理解者である妹はどうだったか・・・
べたとがっかりするもよし、よかったねと胸をなでおろすもよし。
旅の途中のお話ですからね。無事に家にたどり着いたら、
そこからは新しい物語のはじまりになるのでしょう・・・。
15歳、体も心も大変なときなのかも
しれないですね。
「なんだか大それたきっかけがなくても、
ひとはふわっと変われるってことなのですかね。」
に、激しく同意です。自分はひとりじゃないんだ、
同じような気持ちの人って、結構いるんだ、
って思えた瞬間に、ふわっと変われる瞬間が
あるのが、この年代なのかなあって思ったりします
私も、私なりにですが、大介くんの気持ちがわかります。
旅に出る、という発想が私にはなかったのですが、
大介くんは、居場所がないと感じ、居場所を
求めるために、旅にでたのでしょうか。
15歳のときは、自分の居場所がないと感じ、
しんどかったことを思い出します。けど、
居場所って、そこに普通にあるものではなくて、
必死で獲得していくもんなんだと気づきました。
そこから、何かが変わり始めたような気がします
「無事に家にたどり着いたら、
そこからは新しい物語のはじまりになる」、に
同感です。それぞれが、自分の物語を必死で
作っていくことが大切なことなのかな、って
思いました。
それにしても、帰れる家があるって、
幸せなことですね
私も15歳のころはそういうものばかり探していた気がします。旅にこそ出ませんでしたが、大介くんと似たような気持ちって心のどこかにあったと思います。
>それぞれのひとがどんな状況をかかえているのか、そのことを知るだけでも
そうですよね。大介くんがそんな風に旅したように、私たちは本や映画の中でいろんな人に出会う旅をしているんだなぁって思います。
映画もいいけど、ノベライズも良さそうですね。それから樹さんのお薦め「夕凪の街 桜の国」も観てみたいです。
Rainyさんの感想をじっくり味わいながら
読ませていただきました。
ひとつの映画や本を紹介すると、
コメントをいただけて、そこから世界がひろがる、
そのことに感謝します。
昨日ご紹介したGALACの松山くんは、
東京に出てくるとき、まさにこの大介くんのような
気持ちだったのではないでしょうか。
ただ東京にいるだけではだめなんだ、というところから、
松山くんの日常生活の冒険がはじまったのですね。
わあ、なんだか、感激です。ただ金井さんが出ているからと
紹介した本・映画が見事に松山くんとつながりましたね。
Rainyさんの、松山くんと同じ姿勢をのべてくださったからこそです。
ありがとうございます。
私は高校生の頃、世の中に向かって呪詛の言葉をまき
散らしていた気がします。
そのパワーが内面に向かわなかったことが残念でした(笑)
帰れる家があるのはありがたいことです。精神的な帰属もそうですね。
今、松山くんとL図書が私にとってはまさにそういう場所です!
まよちゃんも15歳の頃にはきちんと内面と
対話をしていたんですね。偉いなあ。
そのときにはすぐに答えが出なかったとしても
そういう姿勢は必ず自分を新たな場所へ
導いてくれるものでしょう。
まよちゃんの言うとおり、まさに映画や本は
楽しみのためにだけでなく、私たちを
いろんな場所でいろんなひとと出会える機会として
存在してくれているんですね。
旅から一歩踏み込んで、またそういうことを思い出させてくれて
ありがとうございます。
そういう大切なこと、ついつい忘れてしまうんです。
もったいないことですね。
今やっと、まよちゃんにすすめてもらった、
「猫のあしあと」を読んでいるんです(ごめん!!)
町田康さんの優しさにびっくり!!
パンクなアナーキーなひとだと思っていたんですけど、
猫のことになると、仏のようなひとですね。
読み飛ばすのはこれもまたもったいないので、
じっくりと読んでいます。ありがとう!!
うちの「さくら」はきょう、私のアップルパイを
くれというので、はじっこをあげました。
超うまい!って顔をしていました(笑)