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ギリシャの感嘆詞の美少年≪ポポイ≫ 2008-05-02

2012-12-02 | 本・映画・ドラマのレビュー&気になる作品

ギリシャの感嘆詞の美少年
        ≪ポポイ≫
        2008-05-02



倉橋由美子さんの短編小説≪ポポイ≫。(新潮文庫)
サロメとはお話できなかったけど、
美少年ポポイとはお話ができるのでした・・。

ポポイは主人公(舞)の祖父を暗殺しようとして失敗、
割腹自殺を図り、介錯され、死ぬのですが、

>>「つまり、胴から切り離された頭なのね」
「そうだ。切り落とされた頭だ。介錯されて胴と別れた首だ」
「するとあのテロリストの首ですか」
「何を隠そう、実はそのテロリストの少年の生首だ」
「で、首は生きているの?」
「植物で言えば、水盤に活けられた花が、しばらくは水を上げて
生きているのと似たような意味でなら生きている。それを君に
預かって面倒みてもらいたいわけだ」

といういきさつから始まるポポイとの暮らし。

>>首には「ポポイ」という名前をつけた。
悲嘆をあらわすギリシア語の感嘆詞で、とても由緒正しいものだし、
前から気に入っているけれど、これまでめったな動物には
つけないでとっておいたのだ。

テロリストであるということしかわからない美少年、の首。
混濁した意識のなか、閉じられていた瞳がぼんやりと開き、
やがてイエスとノーを、瞬きの回数で伝えるように教える・・

死ぬまでの履歴はまったく無用のものとなり、
ゼロから生きはじめた奇妙な少年・・
ポポイは悲嘆の感嘆詞だけれども、
少年は自らの運命を淡々と受け入れるだけなのです

やがて≪舞≫はポポイの半生をたどり、
死に至るまでのポポイが取るに足らないものであり、
ポポイがごくごく平凡な少年であったことに落胆し、
今あるポポイのありようにのみ、興味をつなげます。

静かな部屋に生首がこちらを向いて鎮座しています。
生首に何を語りかけたら楽しいおしゃべりが続くのでしょう、
夜がふけてきて、生首が眠りにおちるとき、
果たして夢を見るのでしょうか・・とか。
小説の世界の言葉のそとへ、
想像がとめどなくひろがってゆくのです。

しかし、この私の言葉の貧しいこと・・・
この小説を手にとって、
できるだけゆっくりと、ポポイに向き合っていただきたいです。
ポポイにはそれだけの価値があるのです。


気持ち悪いですか、すみません。
この「ポポイ」は当初、ラジオドラマだったそうです。
素晴らしいですよね、ラジオですよ!
小説を読んでいるのとまるきり同じ状況ですね。
1987年7月4日、午後10時・・
NHK FMで全国いっせいに流れたそうです

なんと衝撃的だったことでしょう
考えただけでどきどきします
雑音のない、美しいラジオドラマで
≪ポポイ≫が語られたなんて・・・

後半、ポポイはある方法によって、
自由に表現することを覚えます
ポポイが自らの言葉で話しかけてくるのです
だけど残された(残した)時間はわずかでした・・・

■倉橋由美子ファンなのですが、
「ヴァージニア」も「大人のための残酷童話」も
「聖少女」もまったく記憶から滑り落ちていました。
あっちゃあ・・・
でもそのせいで、あらためて倉橋ワールドに浸れそうです。
本屋さんでポポイの視線を感じたんです・・・(笑)

コメント (8)    この記事についてブログを書く
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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
早速探します~ (Rainy)
2008-05-02 01:07:38
こんばんは☆

「夜1時までに寝るキャンペーン」が
中々実行されません・・・

倉橋由美子の本、読んだことないんです~。
けど、この本、面白そうですね。
早速探してみます。

ラジオドラマっていいですね
想像力がかきたてられます
Unknown (SS)
2008-05-02 11:08:27
こんにちは~。
読んだことないんで、是非読んでみたいですね♪
瞬きの回数で伝えるっていうのが素敵です。。

ラジオドラマといえば、昔バナナフィッシュのを必死できいたなぁ。あれもNHKだった。NHK意外と挑戦的?

私は今ガルシアマルケスのエレンディラを読んでますが、残酷だったり醜かったりする中に、いろいろ見えてくる純粋なものがあって、なかなかよろし、です。

Rainyさんへ ()
2008-05-02 12:52:40
こんにちは。
サロメ系大丈夫ですか?

私はビアズリー大好き人間で、
幼少の頃から平気でした(爆)

ポポイはなぞが多ければ多いほど、
素敵だったので、最初のほうは夢見心地でした(笑)
ちょっと左はいってますが、倉橋さんはハンサムな女流作家(ふる)です、お勧めです!!
SSさんへ ()
2008-05-02 12:54:59
おお、エレンディラ!
郷ひろみみたいに眉の濃い女優さんが主演してました。
おばあさんを毒殺しようとやっきになるんですよね。
百年の孤独も読んだけど同じなまえが繰り返し出てきて、
死にました(笑)

さすが、欧羅巴だけにとどまらぬ異郷文学探訪。
倉橋さんも精神的には異郷ですよ。カコイイですし!!

NHKやりますよね!!
懐かしいですね (FMファン)
2021-03-09 21:29:17
初めて投稿します。
この「ポポイ」という作品、
昔、NHK FMのラジオドラマ「FMシアター」と言う番組で、リアルタイムで聞いたことがあります。
声の出演で、声優の島本須美さんが出ていたような気がするのですが。
タイトルは今でもはっきりと覚えています。
懐かしいな。

あの時は、「1987年7月4日、午後10時」だったのか・・・。

懐かしい昔の頃を思い出してしまいました。
ちなみに、その頃は「めぞん一刻」がTVで放映されていた頃でしたね。
FMファンさんへ (樹)
2021-03-25 00:06:50
コメントありがとうございます。
返信が遅くに失して申し訳ありません。
懐かしく記事を読んでくださったようで、
感激しております。
昔はそこそこ本を読んでいたのに、
寄る年波には勝てず、
目への負担から、読書が苦手になっていたのだなあとあらためて思いました。
目下大好きな中村文則さんの本も棚のはじっこに積まれています。
この方の小説も時にセンセーショナルではありますけれど、
≪ポポイ≫はカフカくらいのショックがありました。
そうかあ、「めぞん一刻」が放映されていた時代なんですね。
題名だけはしっかりと覚えています。
ラジオドラマの情報を網羅したサイトを発見 (FMファン)
2021-11-07 09:36:04
ラジオドラマに関して、実際に調べてみました

下記のサイトがありました。
当時のラジオドラマの情報が網羅されております。
過去のラジオドラマ全般を調べる上で、実に興味深いです。

「ラジオドラマ資源:1987年 放送データ」

ポポイ
倉橋由美子:脚本,間宮芳生:音楽.
平塚清:効果,星野勇一:技術,斎明寺以玖子:演出.(NHK東京)
出演:島本須美,上條恒彦,岸田今日子,堀越大史,鈴木瑞穂,滝田裕介,渡辺富美子,森一;他.
初放送:1987-07-04{FM_FMシアター}.
ステレオ 60分
FMファンさんへ (樹)
2021-11-19 05:14:25
FMファンさん、
再訪くださいまして、
ありがとうございます。
返信が遅くなり、申し訳ありません。

ラジオ放送といえば、テレビにくらべて、
情報量が少ないイメージがあったのですが、
過去にさかのぼっても、
その詳細をたどることができるのですね。
素晴らしいことだなあと思いました。
まるでネットでもあちこちに図書館があるようです。
今後調べたいことがあったら、あきらめずに、
ネットを頼ってみます。
ありがとうございました!

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