
基本的に我が家の一階が店舗。二階が住まいとなっている。
自称・飼い主のヤツは吾輩を二階に押し込めたまま、散歩の時以外は滅多に一階に降ろしてくれない。
一階の玄関は土足のまま階段へと続き、2階の玄関口へと続いている。
店舗である分、一階の天井は高く、階段は23段もあり14段目に踊り場が設けてある作りになっていた。
吾輩はいつも階段の端に座って、自称・飼い主が上がってくるのを待っている。
此処からなら、ヤツが外出したときも入ってくるのがよく見えるので便利だ。
言っておくが、別に寂しいからとか、相手になって欲しいからではないぞ!
水を変えろとか、餌が新鮮でないから交換しろとか、下僕は下僕の仕事をちゃんと真面目に務めろ!と、ヤツに言い聞かせるためにいつも其所に居るのであるぞ。
ある日、自称・飼い主が仕事をサボって外出した。
ヤツの足は人一倍短いし、煙草の残り香をプンプンさせているので、家に近付くだけで直ぐに分かる。
ヤツが玄関の鍵を開けた・・・が、そのまま、あのオタンチンは店の扉を開け、そのまま店舗のほうに入っていこうとした。
「コラコラコラ! マテ!!」
吾輩に挨拶もなしで何をしている。
吾輩はオマイに用があるんだぞ。
思わず、自称・飼い主を呼びつける吾輩。
前足を上げ仁王立ちになって思い切り抗議するが、いかんせん吾輩の体型は驚くほど胴が長くて、足が短い。
そんな格好をするには不向きな体型である。
これも誤解の無いように言っておくが、これは穴を掘ってその中にいるアナグマや兎を捕らえるために、この体型なのである。
そう、吾輩は猟犬なのである。
本来の吾輩の職務からすると、これが最も理に適った理想的体型なのである。
サル目の連中では、スラリとした足の長い体型が理想らしいが、そんな常識はわが輩の前では無意味である。
あ・・・違った・・・。
吾輩は飽くまで『吾輩』と言う存在であって、犬などではなかった・・・
訂正。訂正。
此処は大いに前言訂正。
が・・・何度か、階段の端で前足を上げ下ろししている内に、ふと吾輩は違和感を感じた。
気が付けば、吾輩が踏みしめるべき床がなかったのである。
前足を降ろした途端、前に出すぎていた吾輩は不覚にも・・・。
ズドドドド~~~ン
階段の踊り場まで一気に墜落してしまった。
慌てて、店から飛び出してくる自称・飼い主。
だが、あんなヤツに弱みを見せるのは癪である。
吾輩は何ともないような顔で鳩が豆鉄砲喰らったような顔で駆け寄る自称・飼い主に健在ぶりをアピールする。
本当は全身が痛くて痛くてしょうがなかったけれど・・・。
すると、安心した自称・飼い主のヤツ。
「俺が帰ってきて喜ぶのはよいけれど・・・このバカ犬は嬉しいと何が何だか自分でも分からなくなるオタンチンだ」
などと言って、吾輩を二階まで抱いて連れ戻した。
何という失礼なヤツだ!
今の台詞は屈辱以外の何物でもない!
階段から落ちことよりも、こんな下僕に偉そうなことを言われたダメージのほうが遙にでかい!!!
大体、嬉しいと自分で分けが分からなくなる!
吾輩はそんな愚か者ではないぞ!!
第一、何で吾輩はオマイが帰ってきただけで喜ばねばならん!
何としても、この下僕を再教育してその思い上がりと勘違いぶりを修正してやらねば!
・・・でも、痛いし吃驚して心臓に悪いから・・・今度から気を付けよう・・・
と、思っていた数ヶ月後。
再び吾輩は同じパターンで階段から落ちてしまった。
しかも、今度は自称・飼い主のヤツの目の前で。
おめでたいことに今度はぐるぐると何度も前転しながらの派手な転落ぶり。
おのれぇぇぇ!!
誰だ! こんな所に階段などと言うややこしいものを作ったヤツは!!
「前に飼っていたヨークシャーもポメも、一度も落ちたことなんか無かったのに・・・一度ならず、二度までも・・・やっぱ大バカだな・・・この犬」
何という屈辱!
何という恥辱!
よりにもよって、コノヲトコに何度もバカ呼ばわりされるとは!!
しかも、自称・飼い主のヤツは。
「この犬は何度痛い目見ても懲りないだろうから」
と、吾輩を軽く見て、二階の上がり端にゲージを取り付け、吾輩を階段付近に近付けないようにしてしまった。
おんのれぇぇぇ!!
自分の勝手な思い込みと勘違いから姑息な手段を使って吾輩の行動範囲を制限するとは!
自称・飼い主の横暴! 許すまじ!
二度あったんだ、三度もそんな愚かしい事件など起こるはずがない。
そんなことも分からないとは・・・吾輩を全然信用していない証拠だな。
何というヲトコだ・・・自称・飼い主。
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