吾輩は『ちょび』助である。
自称・飼い主が羨ましがるほどのフサフサの毛並みを誇りながらも、寒いのは大嫌いな『ちょび』助である。
ここ数日、寒い日が続く・・・特に、昨日は恐ろしいほどに寒かった。
気候の所為ばかりではない・・・自称・飼い主の不始末が原因である。
我が家には旧式ながらもでかい冷蔵庫なる食物保管庫がある。
滅多に自炊をしない自称・飼い主の食べ物は入っていない。ほほ空っぽ状態のデカ物である。
しかし、一番下の野菜を入れる場所(←正式名称を吾輩知らない、自称・飼い主も知らないのだろう)には吾輩や『まこ』オバサンの御飯やおやつが溢れんばかりに詰め込まれている。
ゲージがその冷蔵庫と壁の隙間に差し込まれて固定されているので、普段から吾輩たちの目の前で自称・飼い主は、冷蔵庫からおやつを取り出しては吾輩たちにくれる。
昨日もそうだった。吾輩の散歩が済むと自称・飼い主はおやつをくれた。
そして、奴は仕事もない癖に一階の仕事場へと降りていく。
その後・・・何だか今日は寒い・・・寒すぎる・・・。
そう思って、吾輩と『まこ』オバサンは肌を寄せ合い、寒さを凌いでいた。
だが、普段なら床から底冷えがしてくる筈なのに、その日に限って様子が違う。
あらぬ方法から、ゆっくりと吾輩たちに忌まわしいまでの冷気が襲いかかってくるのである。
寒い!
今日は寒すぎる!!
得体の知れない冷気は、意思有る物の如く吾輩たちを飲み込もうとしてくる。
よくよく、冷気の元を確認すれば・・・。
自称・飼い主の野郎!!!
あいつめ、冷蔵庫の扉を閉め忘れてそのまま一階に降りて行きやがった!
吾輩は賢者である。
とても頭が良いのである。
自称・飼い主は「悪いことをする時にだけ驚異的に知恵が働く」とか「悪戯する時は飽くなき閃きを見せて、不可能を可能にする」とか憎まれ口ばかり叩くが、こんな時こそ吾輩の知恵と知識と勇気の見せ所である。
冷蔵庫の扉を閉めれば良いんだろう♪
開いているのは一番下の扉、しかも押せば閉じる状態。
ふはははは。
楽勝であるw
と思いきや・・・吾輩、肝心なことを忘れていた。
ゲージに遮られて吾輩は冷蔵庫に近付けない!
「何とかしてくれ!自称・飼い主!!」
吾輩も『まこ』オバサンも何度も奴に助けを求めたが、奴は階段の下から「五月蠅い!」と罵声を浴びせかけるだけで助けには来ない。
仕方がないので、吾輩は毛布を引き摺って所定位置を離れ、今や吾輩たちのトイレと化している、元寝室へ避難した。
吾輩にとって、普段から決められた所定の場所を移動すると云う事柄はこの上なく不快で、悔しくて、プライドをズタズタにされる事なのであるが、この非常事態にあっては仕方がない。
『まこ』オバサンも寒いからと言って、吾輩の側にやって来た。
一枚の毛布にくるまって寒さを凌ぐ吾輩とオバサン。
まるで疑似冬山遭難体験である。
「寝るな!寝ちゃ駄目だ!」
何度もそう繰り返しながら、吾輩たちは自称・飼い主が助けに来てくれるのを待っていたら・・・。
あのアホは、こういう肝心な時に限って夜まで二階に上がってこなかった。
しかも、二階に上がっていきなり、元寝室に毛布を運び込んだことを怒っている。
確かに・・・奴の元寝室は、今や吾輩たちのトイレ状態。
畳の上一面にペットシートが敷き詰められた状態で、貰ったばかりの毛布はペットシートの上に敷かれていた。
「何やってんだ! こういう事をするのは『ちょび』助だろう!」
自称・飼い主が大声で吾輩たちに迫ってくる。
が、鈍いあのヲトコもゲージ脇まで来て冷蔵庫の扉が開いたままであることに気が付いた様子だった。
奴は・・・真っ先に中身が痛んでいないか如何かを確認している。
「違うだろ! 自称・飼い主!!
こう云う時は、真っ先に吾輩とオバサンに御免なさいだろう!!」