あの頃の私はまだ幼くて、
手も足も口もまだ小さくて、
買ってもらった目の前のアイスに夢中になった。
じりじりと照らす日の光が、
わたしを妙に急かしてきて、
食べ終わるまえにそれは溶けて、
熱いコンクリートの上に落ちた。
また買ってあげるからと
私の親は言ったけれど、
そんなの関係ないじゃない。
わたしは今、全部食べきりたかったのに。
全部独り占めしたかったのに。
わたしは太陽を見つめて、思った。
「もっとゆっくり食べさせてよ!」
私は女、
夜中のコンビニになんか行かない。
私は女、
宅配便のバイトなんかしない。
私は女、
1人でラーメンを食べになんか行かない。
私は女、
だけど、結婚なんかしたくない。
できないことばかり、いやな女。
夕方の帰り道、
頭をかすめるほどに低く飛んでいた
何匹ものコウモリ。
ふと最近思い返すと、
彼らはぱったりと見かけなくなっていて、
きっと住処を変えたのだろうと
わたしはずっと思っていた。
ある日早めに家に帰った。
その帰り道、
彼らはあの日と同じように空を飛んでいた。
わたしの頭にぶつかってしまうのではないかとはらはらさせるような彼らの飛び様。
それは、茜色をしたあの日々を思い出させた。
彼らが消えたんじゃない、
わたしの帰りがずっと遅くなっていたのだ。
また別の話。
昔の星はとても綺麗だった。
夜を見上げればいつも星座が見えた。
夏休みの宿題でよく彼らを観察した。
首に鈍い痛みを覚えさせるほどに真上を見つめながら。
しかし歳を重ねるごとにそれらは見えなくなっていた。
きっと電灯が増えたからだろうとわたしは思っていた。
15の春わたしはコンタクトを付け始めた。
まったく慣れないその目で夜を見上げると、
そこにはあの日々と変わらぬ星があった。
わたしは首が痛むまでしばらく上を眺めた。
ずっと彼らはそこにいたのだ。
しかしわたしの目は日に日に悪くなっていて、少しずつ彼らを映さなくなっていった。
外を見るよりも机を見ることの方が多くなってしまっていたのだ。
あの頃のままでは居られない。わたしは大人になっている。