異説万葉集 万葉史観を読む

日本書紀の歴史に異議申し立てをする万葉集のメッセージを読み解きます。このメッセージが万葉史観です。

ふしぎな世界を描く志貴皇子

2012-12-24 | 日記
 志貴皇子のムササビの歌から万葉集の編集スタンスを読みとくのが趣旨なので、志貴皇子の歌を読みなおしてみました。志貴の歌は万葉集に六首あります。恋の歌は一首だけで、叙景歌的な歌を得意としているようです。ただ、単に風物を詠ったというよりは、背後に寓意をもたせたような思わせぶりな面も否めません。

 その典型がムササビの歌で、寓意を秘めているのはまちがいありませんが、作者の意図するものが何なのかは諸説あります。志貴のムササビの歌は、住み処からでたムササビが猟師にあってしまったというストーリーです。不運なムササビが誰なのか、これが読者の関心を呼ぶようです。

  ◆ムササビは大津皇子

 志貴皇子と同時代に、不運なムササビにくらべられる人物が二人います。一人が、のちに天武天皇となる大海人皇子と壬申の乱をたたかって命をおとす大友皇子です。もう一人が草壁皇子の皇位継承をおびやかす存在だったことから、草壁の母親である持統天皇によって死を賜った大津皇子です。両方とも有力な説で、結着をみていません。

 たしかに、この歌だけからは答をだすことはできません。三十一文字の短歌は、どのようにも解釈することが可能だからです。それでは、永久に答にたどりつけないのでしょうか。そんなことはありません。万葉編者は、読者が気になることは、すべて解答を用意しています。この歌も、ちゃんと答へと案内しています。志貴がムササビに譬えたのは大津皇子です。

 このシリーズでは、志貴皇子の歌から、大津皇子の不運を読みときます。万葉編者は、悲劇の主人公、大津皇子をどのようにえがいているでしょうか。(2012/12/24)