解説によると、太宰治の作品は主に前期・中期・後期と分けられ、それにより作風やスタイルが異なるという。表題作含めた7編を収める『二十世紀旗手』は、太宰の前期を締め括る後半にあたり、この時期、太宰はパビナール中毒に悩まされ精神的に不安定な状況であったという。そのため、作品の内容も実験的・前衛的なものが多く、一読、とても太刀打ちできる様相でないことは直ちに感得される。太宰の作品が好き、というよりは太宰丸ごとに強く関心を持つ人向けの作品集であると思う。
以下、なかなか辛い部分もあるが、個別に感想を述べる。
○狂言の神
まずは小手調べ。
いつもの太宰の日常を切り取った短編。太宰の作品を何本か読んできた読者には親しみやすい。友人、笠井一について語ると書き出しておきながら数ページでやめてしまう奔放さよ。すかし芸とも取れるふるまいに、ピース又吉が太宰にお笑い芸人としての資質を、ここにも見いだしたのだろうかと考える。
ナポレオンに似た女性との一夜、久哉先生との交誼(こうぎ)など、心に残るエピソードが収められている。
○虚構の春
ハードルが高くなっていく。
太宰に届けられた、虚実入り混じった手紙のみで構成される、何とも実験的な一品。
話がつながらないようで、つながらない。いや、一足飛びでつながりだしたような気がしないでもない。断片的な情報を切り貼りして一連した物語を紡ぎ出すのは、『晩年』の冒頭に収録された『葉』でも見られた手法。小説を読む際には、時に“行間を読む”力が要求されるが、ここでは言わば、手紙間を読む力が試されるのではないかと思う。より正確に言うと、太宰がどんな手紙を書いたか、また、どう受け取ったのかということだ。
他人の怒りを買っていたり、呆れられたり、おちょくられたり、そして、師にいさめられたり。そんな手紙から、新たな太宰の姿が見えてくる気がする。
○雌について
太宰と客人の、対話による物語の展開、構築。
こちらは会話文のみで構成される。
やがて太宰の実体験につながるオチで、ブラックジョーク的である。
『虚構の春』がブーメランフックだとするなら、こちらはマシンガンジャブ。単純でありながら続けて読まされると少し目眩(めまい)を感じ、語り口の主客が入れ替わった錯覚に陥り、何度か確認のため行きつ戻りつさせられた。グロッキーは近いか。
○創生期
この作品集の中でも異彩を放つ作品。カタカナ・漢字・そして夥(おびただ)しいルビの奔流。統合失調症の患者が書く支離滅裂な文章『言葉のサラダ』を思い出してしまった。わけのわからない中にも印象深い文章が刻まれている。まずはそこからとっかかると良いか。
○喝采
これまた何の事やら見当がつけ辛い文章が饒舌に立ち並ぶ。
太宰の身辺と中村地平なる友人との交流が語られている。
○二十世紀旗手
表題作。
十二編の小話が連なって完成された短編。
終唱の、読者への挑戦的な感じがメタ的で印象に残った。
○HUMAN LOST
自分がとる行動や理念をわかってくれていると思っていた友人たちに裏切られ、精神病院に送り込まれた太宰。日記風に精神病院で過ごす日々がつづられる。20年ほど前、母が通っていた病院を思い出すと、子供ながらに何やら異様な感を受けていた(住宅街に構えられ、病院というより大きな邸宅といった方が正しく、玄関にはたくさんの通院患者の靴。中は患者たちがところ狭しとおり、ソファーからあぶれた人は床、階段問わず座っていた)覚えがある。太宰の描写からも、やはり当時の精神病院の酷さが伺え、作品の内容よりどちらかというとそちらに思いを馳せてしまった。どちらかというと陰性の体言者(もちろん、実際は違うだろうが)といったイメージの太宰が入院当初、他の患者を鼓舞してまわる姿に少し笑ってしまった。ダメな人物が、よりダメな人物たちの中へ入れられるとシッカリしだすというか。
かなり難解な話が多く、一回読んだだけでは、どころか二回、三回読んでもどうかと言った具合で、太宰作品及び太宰のことをよく知悉(ちしつ)した上で読みたい作品集である。しかし、『HUMAN LOST』は後、『人間失格』に繋がる重要な作品でもあるため、そんなのも収録されているよ、ということは押さえておきたい。
以下、なかなか辛い部分もあるが、個別に感想を述べる。
○狂言の神
まずは小手調べ。
いつもの太宰の日常を切り取った短編。太宰の作品を何本か読んできた読者には親しみやすい。友人、笠井一について語ると書き出しておきながら数ページでやめてしまう奔放さよ。すかし芸とも取れるふるまいに、ピース又吉が太宰にお笑い芸人としての資質を、ここにも見いだしたのだろうかと考える。
ナポレオンに似た女性との一夜、久哉先生との交誼(こうぎ)など、心に残るエピソードが収められている。
○虚構の春
ハードルが高くなっていく。
太宰に届けられた、虚実入り混じった手紙のみで構成される、何とも実験的な一品。
話がつながらないようで、つながらない。いや、一足飛びでつながりだしたような気がしないでもない。断片的な情報を切り貼りして一連した物語を紡ぎ出すのは、『晩年』の冒頭に収録された『葉』でも見られた手法。小説を読む際には、時に“行間を読む”力が要求されるが、ここでは言わば、手紙間を読む力が試されるのではないかと思う。より正確に言うと、太宰がどんな手紙を書いたか、また、どう受け取ったのかということだ。
他人の怒りを買っていたり、呆れられたり、おちょくられたり、そして、師にいさめられたり。そんな手紙から、新たな太宰の姿が見えてくる気がする。
○雌について
太宰と客人の、対話による物語の展開、構築。
こちらは会話文のみで構成される。
やがて太宰の実体験につながるオチで、ブラックジョーク的である。
『虚構の春』がブーメランフックだとするなら、こちらはマシンガンジャブ。単純でありながら続けて読まされると少し目眩(めまい)を感じ、語り口の主客が入れ替わった錯覚に陥り、何度か確認のため行きつ戻りつさせられた。グロッキーは近いか。
○創生期
この作品集の中でも異彩を放つ作品。カタカナ・漢字・そして夥(おびただ)しいルビの奔流。統合失調症の患者が書く支離滅裂な文章『言葉のサラダ』を思い出してしまった。わけのわからない中にも印象深い文章が刻まれている。まずはそこからとっかかると良いか。
○喝采
これまた何の事やら見当がつけ辛い文章が饒舌に立ち並ぶ。
太宰の身辺と中村地平なる友人との交流が語られている。
○二十世紀旗手
表題作。
十二編の小話が連なって完成された短編。
終唱の、読者への挑戦的な感じがメタ的で印象に残った。
○HUMAN LOST
自分がとる行動や理念をわかってくれていると思っていた友人たちに裏切られ、精神病院に送り込まれた太宰。日記風に精神病院で過ごす日々がつづられる。20年ほど前、母が通っていた病院を思い出すと、子供ながらに何やら異様な感を受けていた(住宅街に構えられ、病院というより大きな邸宅といった方が正しく、玄関にはたくさんの通院患者の靴。中は患者たちがところ狭しとおり、ソファーからあぶれた人は床、階段問わず座っていた)覚えがある。太宰の描写からも、やはり当時の精神病院の酷さが伺え、作品の内容よりどちらかというとそちらに思いを馳せてしまった。どちらかというと陰性の体言者(もちろん、実際は違うだろうが)といったイメージの太宰が入院当初、他の患者を鼓舞してまわる姿に少し笑ってしまった。ダメな人物が、よりダメな人物たちの中へ入れられるとシッカリしだすというか。
かなり難解な話が多く、一回読んだだけでは、どころか二回、三回読んでもどうかと言った具合で、太宰作品及び太宰のことをよく知悉(ちしつ)した上で読みたい作品集である。しかし、『HUMAN LOST』は後、『人間失格』に繋がる重要な作品でもあるため、そんなのも収録されているよ、ということは押さえておきたい。
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