金原亭駒与志の世界

一天狗連の楽屋

ネタ帖 紺屋高尾

2011年03月24日 00時00分00秒 | 高座
むかし神田の紺屋町あたりは、町名のとおり、染物屋が多かった。
紺屋六兵衛の職人で久蔵という若者、
まじめで仕事の腕もいい。

親方もかわいがっていた、その久蔵が、
兄弟子に連れられて、生まれて初めて吉原の大門をくぐり、
花魁道中でみた三浦屋の高尾大夫に一目惚れ。

ところが、この高尾大夫、俗にいう傾城・傾国。
初会に座敷に呼ぶだけでも十両かかる。
一年間働きずめに働いても、たった三両しか稼げない久蔵は、
「とうてい自分の適う相手ではない」とあきらめて店に帰ってきたが、
それから高尾大夫のことが忘れられない。
恋わずらいで寝込んでしまう。

心配した親方が、当時お玉が池に住んでいた竹内蘭石という医者に見立てをさせた。
この先生が久蔵に「惚れた女のためだ、三年辛抱して金をためな。足りない分は私が足してあげるし、必ず花魁に会わせてあげよう」と約束してくれる。

久蔵は、それから三年間一心不乱で働く。
たまった金が九両。さらに親方が一両足してくれた。

しかし、相手は高尾大夫、紺屋の職人では会ってはくれない。
そこで、蘭石先生は、久蔵をお大尽ということにして、
職人言葉が出るとまずいから、何でも「あいよ、あいよ」とうなずくだけ。
そんな打合せをして、先生と二人で吉原へ。

なじみの茶屋に聞いたら、
ちょうど高尾太夫の体が空いているという上々の首尾。
花魁の部屋に通された久蔵が、その立派さにびっくりしていると、
高尾太夫が部屋に入ってきた。



花魁が煙管で煙草を一服つけると
「主(ぬし)、吸いなんし」
何を言われても「あいよ、あいよ」としか応えることのできない若者を、
どこをどう気に入ったのか、高尾大夫がきれいにもてなしてくれた。

翌朝、
高尾「わちきのようなものを名指してくれて、うれしゅうござんす。次回はいつ来てくんなます」
久蔵「へぇ…三年たったら、また来ます」
高尾「なぜ三年?」
久蔵は、これが今生の別れだと思うと感極まり、思わず正直に自分の素性や経緯を洗いざらいしゃべってしまう。この話を聴いていた高尾が涙をこぼした。
高尾「わちきは来年の三月十五日に年季(ねん)が明けるんざます。そのときは主の女房にしてくんなますか?」

後に二人が夫婦になり、繁盛するという、
「紺屋高尾」の一席。


駒与志『紺屋高尾』(22分)


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