金原亭駒与志の世界

一天狗連の楽屋

ネタ帖 藪入り

2012年07月04日 00時00分00秒 | 高座

 商家へ年期奉公に出していた倅(せがれ)の亀吉が、薮入りで初めて家に帰ってくる。
 両親はその前の晩から嬉しくてたまらない。
 父親なんぞは「明日帰ってきたら、どこへ連れて行ってやろうか、なにを食わせてやろうか」などと考えて、一睡もできずにいる。
 
 朝早くから家の前を掃除しながら待っていると、ようやく亀吉が帰ってきた。奉公に出して数年ぶりの親子対面だ。
 かつて甘えん坊で悪戯小僧だったのが、存外しっかりしていて、礼儀正しく、いっぱしの挨拶なんぞするものだから、両親とも大いに感激してしまう。

     

 亀吉を銭湯に行かせている間、父親が倅の紙入れの中から五円札3枚を見つけた。そのような大金を得られるはずもなく、悪い心でも起こしたのだろう思い、怒った父親は、湯から戻った亀吉を殴りつける。
 母親が、泣き出す亀吉をなだめながら訳を聞けば、実は鼠捕りのお触れが出たから、捕まえて交番に持っていったところ、それが懸賞に当たり、主人が預ってくれた賞金を今日の宿下がりに持たせてくれたという。
 
 安心した両親が「お前がご主人さま大事で勤めたから、こんなお金がいただけたんだ。これからも、ご主人を大切にしろよ。これもやっぱりチュウ(忠)のおかげだ」。

      


【一口メモ】
 昔、奉公制度がまだあった時代に、奉行人が正月・盆に休暇をもらい実家に帰るようすを語ったもので、先代(三代目)三遊亭金馬や桂福団治の口演で知られています。とくに奉公の経験がある金馬師の噺には説得力があると評判でした。
 天保15(1844)年、日本橋小伝馬町の呉服屋・島屋吉兵衛方で、番頭が小僧をレイプし、気絶させたという事件がありました。元々はこの実話を題材に作られた噺だそうです。その設定も亀吉が男色の番頭に貰った小遣いでしたが、初代柳家小せんが明治末期に布告された「鼠の懸賞」を織り込んで改作しました。


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