7/11③
涙でぼやけてよっちゃんの顔が歪む。
外のベンチで経過を話しながらもらったパンをかじる。
チーズの匂いがするのに塩味しかしない。涙かな。
なぜこんなことになったのか。
なぜきのう体調悪そうだったのにちゃんとみてあげれなかったのか。
母は今頃手術中。
開頭クリッピング手術
頭を開けて動脈瘤をクリップで止める繊細なミリ単位の手技。
出血している頭の中で。
リスクは多岐にわたり不安が尽きない。
ごめんなさい
がんばれしか言えず
ごめんなさい
がんばって生きて
何でもするから
助けてお願い
よっちゃんと待合室へ。
時計ばかり見る
合間に親戚その他いろんな方から連絡が来る。
また待つ。
過呼吸みたいになってきたのでよっちゃんと近くのカフェへ。
何も食べられない。
また待つ。
16時になった。
全然終わらない。大丈夫かな。
なにかあった?
こんなに長引くのはなぜ?
18時になった。
まだ終わらない。
エレベーターあくたびに動悸していたし長引く手術の不安からか過呼吸出てきた。気持ち悪くてめまいがする。酸素が少ない。
よっちゃんも胃薬がほしいと。
息苦しさはだんだん強くなってきたけれどいつ終わるかわからずトイレも行けなくなってきた。
母はどうしたの?
まさか蘇生してるのか?
心臓は動いてるの?
もうほぼパニック状態。
よっちゃんいなかったらとっくに狂ってた。
20時過ぎて、エレベーターの扉が。ベッド押す3人の先生。
朝からいた先生の顔が見えた。
母が横たわっていた。
「あっという間だったね
脳神経外科?脳神経外科…」
と言うので不安になり先生を見ると、今はまだ混乱しているかも。と。
救急病棟のベッドで処置をしてもらい先生たちがやってきた。
長い時間ありがとうございました。
と言うと。
手術は成功しました。でもこれはあくまでスタート地点です。
これから2週間は回復に向けてではなく何が起こってもおかしくはない2週間です。
脳血管のれんしゅく、麻痺、言語障害、水頭症などが出てくるかもしれない。
脳梗塞で亡くなることもめずらしくない。
元気で退院できるのは1/3
後遺症残すのは1/3
死亡してしまうのは1/3
我々はその都度、処置に最善を尽くしていきますがそれはご了承いただきたい。
もう聞きながら涙がボタボタと膝に垂れる。
これがスタート地点だなんて
想像を絶するであろう痛みと苦しさを経て、長い手術を耐えてベッドでようやく束の間休んでいるのに。
なんてこと。
そんな長い時間、痛みや苦しみと戦いながら精神までも保てるのか
2週間面会できないとのこと、今少しだけ顔見てもいいですか?
と聞き母のベッドへ。
お母さんよくがんばったね
「終わったの?あっという間だったね、ありがとうね」
と。
ここから2週間、がんばりどころだからね、様子は聞きに来るからね、何も心配いらないよ、と言い病室を出た。
よっちゃんとも3年ぶりとは思えない
「よっちゃん、来てくれたんだ、ありがとう」
ふつうに接してた。
よっちゃんと別れ帰りは地下鉄で
。
フラフラ駅からの夜道を歩く
ぬるい夏の風が頬にまとわりつく
家につき、子どもたちの寝顔と夫の顔を見ると日常に戻れた気がしてほっとする。
今日はごめんね
おばあちゃん、がんばってるからね。
眠れるはずもなく
真っ暗な部屋で時計と母のスマホを眺めていた。
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