詩の散歩道


日々思うことや静かになれる詩、本を紹介していきます。

詩紹介

2007年11月25日 | 詩紹介


祝婚歌

二人で睦まじくいるためには
愚かでいるほうがいい
立派すぎないほうがいい
立派すぎることは
長持ちしないことだと気付いているほうがいい
完璧をめざさないほうがいい
完璧なんて不自然なことだと
うそぶいているほうがいい
二人のうちどちらかが
ふざけているほうがいい
ずっこけているほうがいい
互いに非難することがあっても
非難できる資格が自分にあったかどうか
あとで
疑わしくなるほうがいい
正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気付いているほうがいい
立派でありたいとか
正しくありたいとかいう
無理な緊張には
色目を使わず
ゆったり ゆたかに
光を浴びているほうがいい
健康で 風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと 胸が熱くなる
そんな日があってもいい
そして
なぜ胸が熱くなるのか
黙っていても
二人にはわかるのであってほしい

吉野弘 『風が吹くと』



ある映画

2007年11月21日 | 日々の詩


久し振りに映画を観た。
借りてきたビデオは「幸せのちから」
父と息子が中心になっているお話で父親のセールスはうまくいかず、
買い取った精密機械は山積みになり、家賃の滞納などから家を失うことに。

映画を観ながらこちらまで苦しくなってきて
終わった後、数時間ほどたってから感情に深く訴えてくるものがあった。

そして
常に何かに支えられて生きている どうしてか心からそう思った。

「日常の自分」を支えているのは
遠くに住む父や母や兄、そしてパートナー、友人達、出会ってきた人、
いつも見ている木々。
見てきたもの、見えていないもの、色々な存在に支えられている
たとえその一つが無くなったとしても自分を保っていられなくなってしまう。
それがまるで自分の日常が細い糸でできた綱のようで
とても繊細な糸の結びつきの上でどうにか自分が立っていられる。

そして家族と暮らしているころ、よく父が
「雨が凌げるところにいて幸せだなぁ」
「家族がそろっていることは幸せだなぁ」
と言っていたことを思い出した。

そしてその頃も今も、変わらず朝と夜に手を合わせて家族の健康を祈っている。
「ない」状態から出てきた父だからこそ、いつも感謝で満ちているのかもしれない
あえていえば、父は今ある素晴らしさを感じられる天才で、母は愛情を余すことなく降り注ぐ天才だと思う

「幸せのちから」
人の物語によってもまた支えられている
そんな気がした


木々の色が深くなってきました

2007年11月15日 | 日々の詩


落ち葉が降り積もった山道で
風に負けないよう、少し大きめの声で自転車をこいでいる彼に聞く

あなた、この近くはお墓が多いからいいんだって言っていたけれど、どうして?

ああ、それはね。この世が有限だって感じるから
この世は無限だと信じたいけれど、ある意味では有限だと思うんだ。
今は一度しかない。限りがあると思うと、今がとても大切な時間に感じるんだ

枯葉が私と彼の間に舞い、風を受けて見えなくなった。

駅前のいちょう並木の道は先が見えないぐらい長く続いていて、私がたとえいなくなっても変わらずずっとそこにある。そんな気がした。



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高尾に移住してようやく少し落ち着きはじめ、彼も勉強会を無事開始することができました。
大変素敵な方たちに集まっていただくことになり、本当に恵みをいただいているなと実感しています。
これからみんなで心の動き、それに伴う環境の変化などを楽しんでいければと思います。
白いカーテンのような朝の光に感動し、日々の変化が実感できる環境に改めて感謝。