一条きらら 近況

【 近況&身辺雑記 】

入浴

1989年12月10日 | 過去のエッセイ
 9月中旬に風邪をひいてしまった。朝、目が覚めた時、喉が痛くて、寒気がした。家人にすすめられて近所の内科医院へ行き、看護師に熱を測られたら、平熱だった。医師の問診と聴診器の診察で、薬が処方された。
 帰宅して、すぐ、お風呂に入った。午前中は寝ていようと思い、薬を飲んで、ぐっすり眠った。午後1時に目が覚めた時、全身に汗をかいていたので、またお風呂に入り、食事して、午後は原稿を書こうと思っていたが、薬のせいで眠くなり、夕方近くまで眠ってしまう。夜、就寝前に、その日3度目の入浴をした。
 風邪の時、入浴はいけないと聞くが、私は、ふだんでも外出したり汗をかいたりすると入浴せずにいられない性分である。
 どんなに遅く帰宅し、どんなに酔っている時でも、お風呂に入らずには寝られない。たとえ歯の治療でも医院に行ったら、帰宅して全身洗わなくてはいられない。
 きれい好きというか潔癖症気味だからだけではなく、もともと、お風呂大好き人間なのである。単なる身体を洗うという楽しさだけではなく、浴室で裸になると、心が安らぎ、伸び伸びとし、この上なく爽やかな気分で、とても気持ちがいい。湯や水が肌に触れるここち良さ。シャワーを浴びる時の爽快感とくすぐったさ。浴槽に沈んだ時、何もかも忘れて無心になれるのである。
 また、精神と肉体の小さな疲労感も、湯の中に溶けて消えてしまうような気がする。
 疲れていてお風呂に入るのが面倒と思ったことは、一度もない。疲れている時、神経が昂ぶっている時、気分転換したい時、お風呂に入りたくなる。入浴が趣味と言ってもいいくらいである。
 そんな私だから、引っ越す時は真っ先に浴室を見る。マンションにしては広くて清潔な浴室でなければ、その部屋には住めないと思う。ユニット・バスは好きではない。旅行をしたりして、ホテルに泊まる時も、ゆったりした清潔なバスルームならホッとする。
 ところが、いくら広くてゆったりしていても、温泉風呂は苦手である。自分の裸を見られることより、何人もの他人の裸が眼に入るのが、好きではないからかもしれない。
 やっぱりお風呂は、一人でのびのびと、じっくりと、楽しんで入るほうがいい。
 肌にやさしいボディ・シャンプーで全身を泡だらけにして、いい香りに包まれながら、すべすべの肌をタオルと手で撫で、シャワーを強く出して丹念に浴びる心地良さ。
 浴槽に入って暖まる時、仕事のことも何もかも忘れて、楽しいこと幸せなことだけが次々浮かんでくる。
 最後に、冷水シャワーを浴びるのが、たまらなく気持ちいい。湯上がりの肌はピンクがかった白さに輝き、いつもナルシスティックな気分に包まれてしまう。
 誰かと一緒に入るお風呂も、心浮きうき楽しくなってしまうけれど──。

 ※掲載誌『随筆手帖』1989年12月10日号 (加筆)
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