
チェリンは、「材料があれば夕食を作ったのに。奢るからどこかに食べに行きましょうか。」などと、絶え間なく話して、なんとか気まずい空気を和ませようとしていた。

すると、ミニョンがその声を遮って話した。
「チェリン、なんでお前嘘ついたんだ?なんで、カンジュンサンのことを黙ってたんだ?」その声は冷たくて、取り付く島もなかった。チェリンはブルっと身震いをした。
「えっ?なんのこと?」
「カンジュンサンて男が本当にいたんだろ。なんで出会ったときに言わなかったんだよ」
チェリンは覚悟を決めた。
「、、、確かにウソをついていたわ。でもミニョンさんに言ったら、似てるから好きになったと勘違いされるかと思って、それが嫌だったの。」そして目を潤ませた。
「だってユジンはわたしとチュンサンが両思いなのを知って邪魔しようとしたんだもの。本気じゃないのよ」
「そうは思えない。彼女をみてれば本当に初恋で愛していたのが分かるから。」
ミニョンは初対面で驚き
次には涙を流し
距離を置こうとして
最後は自分の身を犠牲にして助けようとしたユジンを思い出していた。あれが本気でないはずはないか。
「だからなんなのよ。私にだって、カンジュンサンは初恋の相手だったのよ。ユジンにとられるのが嫌だったの。」
ミニョンは軽蔑するような険しい顔で言った。
「だからって、友達を陥れるようなことをしていいのか⁉️」
そう言われてしまうと、チェリンはただ泣くしかなかった。
「チェリン、しばらく距離を置こう」
ついに恐れた事を言われた。ミニョンの目を見れば、愛情は消え失せて、別れるつもりでいるのは明白だった。チェリンは、足元が崩れ落ちる気がした。ついこの間までいとしげに見つめていたミニョンがいなくなるなんて。高校生のときから二度も失恋するなんて。チェリンは悲しみもありながら、それ以上にそっくりな顔の相手に振られるという屈辱に耐えられなかった。それがつまらないプライドと身勝手な愛だとは気づかずに、チェリンは怒りと不安と悲しみにくれていた。
車まで送ってくれたときも、チェリンは
「あんまり長く待たせないでね」と言ったが、ミニョンは目も見てくれず、心ここにあらずだった。
チェリンは失意の中、ソウルに戻った。
ミニョンは部屋にもどり、ポケットからタバコを取り出そうとした。すると手に何か薄いものが触った。取り出してみると、それはタロットカードだった。ユジンが落とした運命の輪をミニョンはじっと見つめていた。

ユジンはポラリスに電話を入れながら、退院の準備をしていた。カバンを持って部屋のドアを開けると、ミニョンが花束を💐持って立っていた。満面の笑みを浮かべている。
「退院おめでとう」
ユジンはすっかりめんくらってしまった。そんなに良心の呵責を感じなくても、、、と思った。一人で帰るつもりだったから、びっくりしてしまった。
ミニョンはユジンの荷物を持って、車に乗せると照れくさそうに言った。
「僕、女性に花束を持ってくるのが初めてなんです。キム次長は僕をプレーボーイって言うんですけど。」
ユジンはクスリと笑って、ゆったりとした気持ちで外を眺めていた。今回の事故で2人の距離は縮まっていた。しかも、何故か分からないが、ミニョンの眼差しが柔らかくなっている。
ドラゴンバレーまで、静かだが楽しいドライブは続いた。

スキー場につくと、ミニョンは話があるとユジンを誘った。2人はベンチに座って鳥の声を聞いていた。
ミニョンが口を開いた。
「ユジンさん、今まであなたの事を誤解して、失礼な態度をとって申し訳ありませんでした。
許してくれますか。」
するとユジンは柔らかな笑みを浮かべて言った。
「誤解に許すもの許さないもないでしょう」
あとは全く気にするそぶりをみせなかった。何を誤解したのか、とも問わなかった。
ミニョンはあんなにひどく傷つけるような言動をしたのに、なおも聖母のように優しい瞳で見つめているユジンに深い感銘を受けた。女性としてと言うよりも、ひとりの人間として、敵わないものを感じていた。
それと同時にこうまでして、ユジンが心に秘めているカンジュンサンを知りたくてたまらなくなった。ミニョンはユジンに手を差し出した。
「僕はイミニョンです。よろしくお願いします。もう間違えないでくださいね。」
「チョンユジンです。よろしくお願いします。」2人はしっかりと握手をして、新しい関係を築き始めた。大きくて暖かいミニョンの手は、ユジンに安らぎと心地よさをもらたした。