ミニョンが事故に遭ってから丸2日後、海外での演奏活動を終えたミヒが病院にかけつけた。ミヒは半狂乱になって、ミニョンに取り縋った。
「ミニョンが、ミニョンがどうしてこんな目に、、、いったいどう言うことなの?!」
ミヒはベッドサイドにただずむユジンを睨みつけた。ユジンは申し訳なさそうに
「すみません。私のせいなんです。」
と呟くと、ミヒはもう一度ユジンを睨みつけて、あとはひたすらミニョンに話しかけた。ユジンはそっと席を外してミヒとミニョンを二人きりにするのだった。
ミヒは、ミニョンに話しかけながらも、先程の女が気になって仕方なかった。あの女は確か山の別荘で真夜中に会ったことがある。いつも自分の彼女をあまり自宅に連れてこないミニョンが、珍しく連れて来ていた。しかも不愉快なことに、あの女は春川出身だと言っていた。あの時も嫌な予感がしたが、あれは当たっていたのだろうか。この事故にはあの女が絡んでいるのかもしれない。ミニョンがチュンサンである事を知ったのも、あの女のせいではないだろうか。
ミヒの中にドス黒い思いが、次々と渦巻いていった。
やがてミヒがミニョンの病室を出ると、そこにユジンがゆっくりと戻ってきたところに出会した。ミヒはユジンをキッと睨みつけた。ミヒはマネジャー日本公演を延期出来ないか聞いたが、予定通り行わなければならないと答えが返ってきた。そこで仕方なく大きなため息をつくと、冷ややかな目でユジンを見つめた。ユジンは丁寧に頭を下げて話しかけた。
「チュンサンのお母様、、、」
「チュンサンですって?あの子をその名前で呼ばないでちょうだい。」
「すみません。私はただ、、、」
「あなたが、あなたがミニョンにチュンサンの話をしたわけ?似てると言ったの?」
「、、、あの、わたし、はじめはチュンサンだと勘違いして、、、」
「はっ?どうして?名前も性格も全然違うじゃない。あなたが余計なことを教えて混乱させた上に、事故にまで遭わせて。」
「本当に、本当に申し訳ありません。あの、、、」
「もういいわ。あなたはもう引き取ってちょうだい。」
そう言うと、ミヒはマネジャーを呼んだ。
「ミニョンに看護人をつけてちょうだい。それから、日本公演が終わったらすぐ帰るわ。」
そして二人は立ち去ろうとした。すると、ユジンがキッパリと言った。
「わたし、帰りません。」
ミヒは信じられないと言う顔でユジンを振り返った。
「10年間ずっと好きだった人にやっと会えたんです。わたし、チュンサンと、、、ミニョンさんともう離れたくありません。二度と、二度とチュンサンて呼びませんから、どうか私をミニョンさんのそばにいさせてください。どうぞよろしくお願いします。」
ユジンは深々と頭を垂れてミヒに懇願した。
ミヒはその女が誰か知らなかったが、あまりに真剣でやつれた顔を見ていると、彼女のミニョンへの思いに圧倒されてしまった。彼女はミニョンを真剣に愛している。まるで、昔の自分を見ているようだったし、彼女の顔に、懐かしい誰かの面影を感じた。それが誰かは思い出せなかったが。ミヒは何も言わずに静かに立ち去った。マネジャーが看護人は?と聞くと、いらないというように、ヒラヒラと手を振ってみせた。こうして、ミニョンとユジンはまた二人きりで残されて、ユジンは病室に寝泊まりする日々が続くのだった。ユジンは昼も夜もミニョンのそばにいた。時にはミニョンの手を握ったまま寝てしまうこともあった。今年の冬はやけに長くて、何回かはしとしとと降る雪を一人きりで眺めた。
そんな昼夜を1週間以上繰り返したあと、ミニョンは意識こそ戻らなかったものの、容体は安定しはじめた。そんなとき、サンヒョクが病室を訪れたのだった。
ユジンはサンヒョクを見てハッとした。事故以来ミニョンのことばかり考えていて、サンヒョクのことを思い出していなかったのだ。一方でサンヒョクはまるで罪を犯した罪人のようは顔でユジンを見ていた。二人は缶コーヒーを買って、廊下で座って話をした。
「ミニョンさんはまだ意識が戻らないのか?」
「ええ、でも大丈夫。きっと戻るから心配しないで。」
ユジンは見違えるように落ちつきを取り戻しており、穏やかな笑みを浮かべていた。サンヒョクは思い切って話し始めた。
「実は僕、ミニョンさんがチュンサンだってだいぶ前から知っていたんだ。君の前から消えろと言ったし、記憶がないなら別人と同じことだとも言った。だから、彼は君から去ろうとしたんだ。」
「そうだったの。そんなことがあったのね。」
サンヒョクは恐る恐る聞いた。
「僕のことが憎いだろ?」
しかし、ユジンは澄み渡る湖面のように穏やかな表情でサンヒョクを見ていた。
「別に良いのよ。そう考えたあなたの気持ちが良く分かるから。もしかして、謝りに来たの?」
ユジンからかうように笑ってサンヒョクを見つめた。
「大丈夫だから、本当に気にしないで。」
「、、、でも、もしももしもチュンサンが目を覚さなかったら?」
「大丈夫よ。彼は絶対に目を覚ますから。だからサンヒョクも信じてあげて。」
穏やかに微笑むユジンを前にサンヒョクは何も言えなくなってしまった。目の前にいる女性は、チュンサンへの信頼に満ち溢れており、そこには揺るぎない愛が見えたのだった。もはや、サンヒョクがつけ入る隙など微塵もない様子に打ちひしがれて、サンヒョクは静かに病院を後にするのだった。そのとき、サンヒョクの携帯が鳴った。相手はチェリンだった。サンヒョクはチェリンと行きつけのバーで会うことになった。