WILD FANCY ALLIANCE

まともじゃねえ…あんたらまともじゃねえ…

ノーカントリー ラスト

2008-03-31 22:14:06 | にっき
★タイトル「No country for old men」(原題)について

劇中で「最近の犯罪はおかしい」「住みにくい国になってしまった」などと
連日のニュースからも聞こえてくるような台詞のやりとりがあり、
これだけで充分、No country for old men=「老人の住むところじゃない」とも言えるけど
もう少し突っ込んで考えてみたい。

先日の日記にも書いたので重複スミマセン、[No country for old men]は
ウィリアム・バトラー・イェイツの「ビザンティウムへの船出」の一節。手元の詩集より抜粋。

「そは老いの身の郷にはあらず。
 かいな組み交わす若人輩、木立木立なる百鳥(ももどり)、
 ――此等、やがて逝ぬべき族。おのもおのも唄うたえるものどち、
 はた、鱒きおい溯る滝つ瀬、鯖魚の叢れ積む大洋(わたつみ)、
 はたまた、魚族(うろくず)、獣、禽鳥のたぐい、これら一切は長夏かけて、
 世に生(いのち)を得、且つは逝く具象をば、何にもあれ、頌め称う。
 斯の官能の楽のしらべに魂奪われて、全べては、
 瑞々しき常若の叡智の記念碑(しるし)をばないがしろにす。―(略)」
                                    (角川文庫/薔薇/尾島庄太郎訳)

つまり「この国」は、生を謳歌する若者達の国である。
鱒や鯖、鳥や動物達が生まれ、繁殖し、そして死んでいく。
そうして、むしろ死というものを積極的に受け入れるものの国なのだ。
―と意訳すると、「人々の安全(命)を守る」という職務のエドには、ややつらいところが
あるだろう。ましてや過去の一件(映画では省かれました)もある。

14歳の少年を逮捕した。彼は少女を殺したが、感情などなかった。
「彼は言った。人を殺してみたいと思っていた。刑務所を出ればまた殺すだろう。」
こういう犯罪者達に自分は何が出来る?

保安官だけで解決できる時代が去ったことを、随分と前から悟っていたような
エドだったが、その新時代と対峙する覚悟をしたかのように(冒頭で述べたように、
それは死の覚悟でもある)ラストでシガーの居る部屋へ足を踏み入れる。
だが部屋には誰もいなかった。
エドはベッドに腰をかけ、落胆か、それとも安堵か、どちらともとれるような深い溜息をつく。

ベルは辞職し、妻と馬とともに平和な暮らしを始めるが、父親の夢を見る。
自分より20歳も若くして死んだ、同じ保安官だった父。
この世界には、保安官も、正義も、法律も、通用しないことが多すぎる。
父は一足先に待っている。父がいる場所こそがイェイツの描いたビザンティウムであり、
老人(自分)の還るべき場所であり、唯一の安住の地なのだろうか。

少なくとも、コイントスで唐突に訪れる死ではなく、穏やかな死を想像させるものであって
私はとても美しいと思った。
個人的には、奥さんに語りかけるのではなく、荒涼とした大地の向こう、小高い丘から
朝日が昇ってきて、その光景の中を馬に乗ったエドが走っていく…そこに被る独白、
というイメージだったのですが(超個人的イメージ)。


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