東京大学入試地理B

東京大学入試問題(前期)地理Bの問題・解答・解説。2006年・2007年の2年分。

東大地理B第1問設問B

2006年09月14日 | 東京大学
東京大学2006年前期入試地理B第1問設問B

設問B 次表1は,南アメリカ6か国の農産物上位5品目を示したものである。
(1)表のカ~ケは、エクアドル、チリ、ブラジル、ペルーのいずれかである。カ~ケの国名を答えよ。



(2)サトウキビは砂糖の原料以外に、どのような用途があるか。
(3)ペルー東部のアンデス山系東斜面における土地利用の特徴を90字以内で書け。ただし、次の【 】内の語句を用いること。
 【高度 放牧 熱帯作物】   


第1問設問Cに続く

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解答
第1問設問B
(1)カ-ペルー、キ-ブラジル、ク-チリ、ケ-エクアドル。
(2)アルコール自動車の燃料用
(3)低地の熱帯雨林ではサトウキビ・バナナなどの熱帯作物、高度を増すとトウモロコシ、ジャガイモが栽培される。耕作限界より高い地域ではリャマ・アルパカが放牧の形で飼育される。
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解説
第1問設問B
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(1)
1.サトウキビ
国別に重量別順位がついているが、綿花・コーヒーなどの軽い農産物が消えてしまうので、注意が必要である。サトウキビの国別比較には有効である。(キ)の国のサトウキビ生産量は他国よりも桁外れに多い。
もともとブラジル・インドの熱帯・亜熱帯地域がサトウキビの大生産国である。ブラジルは砂糖の原料だけではなく、自動車燃料用アルコールの原料として、サトウキビの栽培を増やしている。熱帯では熱帯雨林からサバナまで、サトウキビ栽培が増加中である。他の作物で失敗した農民も熱帯に移動、サトウキビ栽培の労働者になっている。
 テンサイは砂糖大根のことであり、ヨーロッパの温帯・冷帯地域で栽培される。(ク)はテンサイの栽培が盛んなことから、地中海性気候Csと西岸海洋性気候の広がるチリであると分かる。

2.大豆
大豆とトウモロコシは、肉牛の濃厚飼料として非常に重要である。熱帯・温帯で栽培できる。大豆・トウモロコシが表に掲載されているのは、(キ)、ボリビア、アルゼンチンの4か国であり、圧倒的に(キ)の生産量が多い。(キ)はブラジルと判断できる。ブラジルの大豆は中国に輸出される。
ブラジルの大豆栽培農家は、アメリカ資本の穀物メジャー支配下にある。土地はブラジルの未開地の熱帯雨林や、日本人移民などが開墾に失敗したサバナを、安く買うが、その資金はメジャーからの借金である。大型農機具・農薬・肥料を買いカネも、穀物メジャーからの借金である。遺伝子組み換え種子の代金もメジャーからの借金である。
大豆は栽培が簡単である。ブラジルの農家は高値で買う国に輸出することはできない。メジャーが輸出先を決めるのである。メジャーは自分の会社の利益が第1、アメリカの穀物農家の利益が第2、その次がブラジルの契約栽培農家である。ブラジルの農家は大規模機械化農業でコストを下げても、利益はいくらも残らない。それにもかかわらず、さらに大豆栽培面積を増やすことで、利益の増加をねらっている。結果的に、大豆栽培農家がブラジルの自然環境の最大の破壊者となった。
ブラジルではトウモロコシ栽培も増加し、日本・韓国に輸出していたが、最近は中国への輸出が増加している。

3.バナナ(生食用)
バナナの輸出国は多い順に
エクアドル、コスタリカ、フィリピン、コロンビアである。
バナナの輸入国は多い順に
アメリカ、ドイツ、日本、ベルギー、イギリスである。
エクアドルのバナナ農場は、太平洋岸の低地に広がる。バナナ農場は、現地エクアドルの中小資本の経営である。アメリカバナナ資本には、フィリピンのバナナ農場を支配したような力はない。

4.料理用バナナ
料理用バナナは、生食用バナナより大きく、硬い緑の皮におおわれている。日本の料理用バナナの輸入量は少ないが、熱帯・亜熱帯地域では、ふだんの食事材料である。料理用バナナは、黄色く熟したものをなまで食べることはできるが、味はよくない。
バナナベルト(東南アジア・アフリカ・ラテンアメリカなどバナナ栽培地域)では、料理用バナナが、生食用バナナよりも高値で売られている。
料理用バナナは野生に近い小さいものがあるが、現在は品種改良の結果30~50cmの大きさのバナナが国際取引される。
世界全体の生産量では、料理用バナナと生食用バナナの生産量は同程度である。

5.チリの地中海式農業
首都サンチャゴ周辺の気候は地中海性気候Csであり、夏の乾燥に強いブドウが栽培される。チリのワインは、低価格であるとともに、フランス・イタリアのワインに飽きたワイン愛好者の人気を集め、輸出量を増やしている。

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(2)バイオ燃料
1.サトウキビ
自動車用燃料としてガソリン・軽油などが用いられている。石油資源の枯渇、産油国を巻き込んだ国際紛争、中国の大量輸入などのため、石油が値上がりし、石油に代わる燃料が必要になってきた。
ブラジルでは国内で大量に栽培するサトウキビからエチルアルコールを抽出し、そのアルコールを燃料とする自動車がブラジルの自動車の20%で使用されている。

2.ブラジル国営石油会社ペトロブラス
ブラジルの国策として、これまで廃棄していたサトウキビをエチルアルコール自動車燃料として、国内の石油消費量を抑制した。燃料用エチルアルコールの生産を手がけている企業の一つが、ペドロブラスである。
国内の石油需要をおさえる一方、ペドロブラスは海底油田開発を積極的に進め、年200万バーレルの生産が可能になった。


国内の石油消費量をすべてペドロブラスがまかない、さらに50万バーレル程度の輸出が可能になった。日本・中国などアジアに石油製品を輸出するため、沖縄の南西石油の製油施設を買収した。
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(3)アンデスの高度別土地利用
高度が100mだけ高くなると、気温は0.5~0.6℃低下する。低地の自然植生は熱帯雨林であり、農業に転換すると、カカオ・バナナ・サトウキビ・キャッサバなどの栽培に適する。
温帯相当の高度では落葉広葉樹林帯であり、小麦・トウモロコシの栽培に適する。亜寒帯相当の高度では針葉樹林が多くなり、大麦・ジャガイモのような耐寒作物が栽培される。
アンデス原産の農作物として、ジャガイモ、トマト、カボチャ、トウモロコシ、キャッサバなどがあり、原生種が栽培されている。
アンデスの高地で栽培限界を越えると、寒さに強いリャマ・アルパカ・羊などが放牧される。



アンデスの3,500m以上の高地には、ラクダの一種アルパカとリャマが自然の状態で生息している。高地の輸送手段としたり、毛を高級衣料として販売するため、家畜として飼育する農家も多い。
アルパカ(左手前)の毛色は1色、リャマ(右)の毛色は部分ごとに異なる。


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総括
ブラジルが深海底の油田掘削技術を開発した。アフリカ沖合の原油を次々と採掘し、アフリカへのブラジルの影響力が強くなった。また、ブラジルのリオデジャネイロ沖合でも深海底油田の掘削に成功、日本・中国への輸出を始めるところである。
ロシア・イラクの日の丸原油採掘は、どうも風向きがよくない。日産自動車のゴーンもブラジル人。何とか、日本もブラジルの油田開発に参入させてもらい、OPECやロシア、アメリカにふりまわされないエネルギー政策が必要と思うが。
ブラジルがサトウキビから抽出したアルコールで自動車燃料のいくらかをまかなったように、日本も稲ワラからのアルコールを使え、という声があるが、稲ワラ自動車の開発は高くつくから、やめた方がいい。それより、中東の貧困解消にカネを使う方が、エネルギーの安定供給になる。


   




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