漬け物に、神様がいらっしゃるのをご存知ですか。
そう、アートラッシュの『紳士の小物展』で描かせていただいたカヤノヒメ様です。

ここは八百万の神の国ですからどのような神様がいらしても驚くことはありませんが、この神様はタバコの神様としても崇拝されており、そのご神徳はユニークで珍しいものです。
そのお姿を描かせていただくにあたり、そのご神徳や鎮座されているお社などを調べました。
せっかくなので、ここに残します。
古事記で鹿屋野比売神(かやのひめのかみ)、日本書紀では草祖草野姫(くさのおやかやのひめ)と記されております。
イザナギの神とイザナミの神の間に産まれ、後に大山祇神との間に8柱の神様をもうけておられます。
神話好きな方へは、麗しき富士山の女神コノハナサクヤヒメ様の母神様と言う方がピンとくるかもしれません。
カヤノヒメ様のご神格はその御名の通り、草、野山の神様です。
萱はススキや葦などの植物の総称。
つまり、昔から人々が利用してきたありがたい植物の祖神様です。
草達が健やかに育つように促すのがお役目というこの神様、巨大なミミズのようなお姿で現れることがあるようです。
というのも、別名ノヅチの神といい、その姿を妖怪として紹介している資料が多く残されているのです。
そのご神格は人間を含む動物を食すこともあるそうで、まるで荒々しい自然そのものの循環を表現しているかのよう。
役目を終えた動物を分解し、植物の養分にし、その苗床となる土を耕しておられるのです。
カヤノヒメ様をお祀りしているお社は決して多くはありませんが、摂社末社を含め、よくよく探してみると全国あらゆる場所にいらっしゃいます。
私のご先祖様のルーツをたどると、自然とこのカヤノヒメ様のルーツも見えてきます。
私の父は徳島出身で、叔父が言うにはその昔忌部氏と関わりがあったそうです。
阿波忌部氏は、天太玉命(アマノフトダマノミコト)を祖とする中央忌部から5つに分布したうちの一つで、天日鷲命(アメノヒワシノミコト)を祖神として主に農業を支えてきた氏族です。
粟をはじめとして五穀を作り、麻でアラタエを作って貢進し、中央祭祀を支えておりました。
阿波忌部氏は海に出る氏族としても知られており、黒い道(海流・黒潮のことです)に乗って房総に上陸して関東を開拓し、麻などを作るための農業技術を伝えたと言われております。
千葉県館山市には安房神社がありますし、同県印旛郡には天日鷲命ををご祭神とする大鷲神社があります。
ここの社伝には『神武天皇の御代に沃土を求めて天太玉命の御孫である天富命(アメノトミノミコト)が、四国の阿波の国から天日鷲命を率いてお出でになり、麻・木綿を藩殖して、産業を奨励された』とあります。
さて、『安房忌部系図』によると、天日鷲命には三神の御子神がおり、さらにその中の一注の神には二神の御子神がおります。
その一注が東国開拓の総大将となった由布津主命(ユフツヌシノミコト)、そしてもう一柱が千鹿江比売命(カエヒメノミコト)です。
ふう。
ようやく出てきましたが、エ=ヤとなることから、この天日鷲命の孫神、千鹿江比売命がカヤノヒメと同じ神であるという見解が一般的なようです。
あれ?
イザナギの命とイザナミの命の御子神では?
と思いますよね。
神々の系譜は、書かれている書物によって違っています。
記紀に加え、忌部氏の残した『古語拾遺』にも神話が語られております。
その時代や氏族、著者によってもその見方は当然異なるのでそれぞれの都合の良い形で書かれているので、微妙な見解の違いが出てきます。
ここのところがミステリアスで、多くの学者さんがお悩みになるところです。
とりあえず素人の私は、一つの書物だけではなくいくつかの書物を同時に読むことで自分なりの見解ができれば、それで良いと思っています。
謎解きは学者さんのお仕事ですから、お任せします。
このカヤヒメを神名とする式内社は阿波にしかないそうで、阿波の地こそがカヤというものを神格化した最初の地であると考えられているようです。
ちなみに、私の父の実家がある群にはカヤノヒメ様をお祀りしているお社が6社以上もあります。
愛知県あま市の萱津神社では珍しい形で崇敬を受けています。
それが、漬け物の神様としてのご神格です。
昔、野菜と塩をお供えしていたが、すぐに腐ってしまうことに悩んだそうです。そこでビンにこの二つを一緒に入れてお供えしたところ、腐らずに不思議な食べ物になったそうです。それがお新香のはじまりなのだとか。
ここでは年に一度『香の物祭』と呼ばれる神事があり漬物を仕込むそうで、その時は全国から漬け物業者が集まるそうです。
ちなみに、この神社にある漬け物の樽をかたどった石をなでると漬け物作りが上手になるそうですよ。私も一度行かねばと思っております(^^;)
おいしい漬け物を作るのは酵素の作用によるもの。
酵素、最近の健康ブームでかなり耳にする頻度が高いワードになっていますね。
今改めて見直されているようですが、酵素は昔から大事にされてきました。
お酒も納豆もお醤油もお味噌も、私達が普段口にしているものの多くがその酵素と呼ばれる微生物群の働きによって作られています。
それらは旨味を作り、カビなどによる腐敗を防ぎ、私達が食べることで有効な栄養素を補ってくれるもの。
酵素はどこにあるのかというとやはり土の中です。
なので酵素の働きがカヤノヒメ様のご神徳とされるのはごく自然なことです。
これらの酵素を、人が踏み入らない原始の森へ捕獲しに行く方々がいらっしゃいます。彼らは、宝探しに行くのだといいます。
地中にいる菌の多くは腐敗菌ですが、未知の酵素を見つけて新しい使い道を模索するのが彼らの仕事です。
彼らが発見した酵素の中には素晴らしい発酵作用を見せてパンの天然酵母として広がったものもあり、知らず知らずのうちに口にしているものもあります。
このように、元は土の中にある、全ての生き物にとって有益な働きをする未知の存在を神格化したものがカヤノヒメ様と言えるでしょう。
もう一つ、この萱津神社にはこのような伝説が残っています。
ヤマトタケルノミコトが戦いの帰りに傷ついた体でこの神社に辿り着いたが、愛する妻に会えないまま伊勢へ旅立たなければならなくなった。
こんな悲しい思いは誰にもしてほしくないと祈り、ここに二つの榊を植えると、いつのまにか二つの榊は枝が繋がり、連理の木となった、というもの。
もし、これもまたカヤノヒメ様のご神徳によるものだとしたら、悲しみを癒す優しさと、なかなかオツな一面をお持ちだということ…。
この伝説が各地に伝わり、今では恋愛成就の神様としてもたくさんの参拝者がいらっしゃるようです。
さらに伊勢神宮豊受大神宮の摂社、清野井庭神社にもカヤノヒメ様は祀られており、ここでは灌漑用水の神としてお役目を果たされております。
ここではおそらく純粋な水の神としてではなく、植物を育てるための力を備えている水の神として祀られているのではないでしょうか。
豊受大神は天照大神の神饌を司る食物の神ですから、そのように考えるとしっくりきます。
それから、滋賀県にもカヤノヒメ様が鎮座されているお社が多くあるようですね。
滋賀県草津市の小槻神社の境内社にもカヤノヒメ様が鎮座されています。
そして近江国一宮武部大社では、今はヤマトタケルノミコト様が祭神としてお祀りされていますが、遷座以前から地主神としてカヤノヒメ様が祀られていたようです。
おそらく、萱葺き屋根や茅の輪などを作るのあたり、大量の萱が必要とされていた地域だったのではないでしょうか。湖もあることから良い萱場があったのかもしれません。
この地とカヤノヒメ様との関係は、実際に行って調べないとわかりません。
近江の国はいつも通過地点なので、いつかゆっくりと巡って謎解きをしていきたいと思いました。
神様のご神格も書物と同じで、祀られる地にとって有益なように変わっていくもの。
それでも大事なところや根本は変わることなくそこに鎮座されていますね。
おや?と思っても、よくよく謂れや伝説を知ると納得することができます。
カヤノヒメ様は、霧、暗闇、惑わしの神をお産みになったことでも知られています。
それらは人間にとっては少々不気味な印象を持ちますが、実は自然の営みの一つであり、それらを神として崇めてきた古代の大和の人々の繊細さにはどこか共感するものを感じます。
陰も陽も、良きも悪きも含めて全てを包括し、分け隔てなく養分を与えて健やかな成長を見守る…。
カヤノヒメ様からはそのような与え続ける母性愛を教えられている気がします。
そう、アートラッシュの『紳士の小物展』で描かせていただいたカヤノヒメ様です。

ここは八百万の神の国ですからどのような神様がいらしても驚くことはありませんが、この神様はタバコの神様としても崇拝されており、そのご神徳はユニークで珍しいものです。
そのお姿を描かせていただくにあたり、そのご神徳や鎮座されているお社などを調べました。
せっかくなので、ここに残します。
古事記で鹿屋野比売神(かやのひめのかみ)、日本書紀では草祖草野姫(くさのおやかやのひめ)と記されております。
イザナギの神とイザナミの神の間に産まれ、後に大山祇神との間に8柱の神様をもうけておられます。
神話好きな方へは、麗しき富士山の女神コノハナサクヤヒメ様の母神様と言う方がピンとくるかもしれません。
カヤノヒメ様のご神格はその御名の通り、草、野山の神様です。
萱はススキや葦などの植物の総称。
つまり、昔から人々が利用してきたありがたい植物の祖神様です。
草達が健やかに育つように促すのがお役目というこの神様、巨大なミミズのようなお姿で現れることがあるようです。
というのも、別名ノヅチの神といい、その姿を妖怪として紹介している資料が多く残されているのです。
そのご神格は人間を含む動物を食すこともあるそうで、まるで荒々しい自然そのものの循環を表現しているかのよう。
役目を終えた動物を分解し、植物の養分にし、その苗床となる土を耕しておられるのです。
カヤノヒメ様をお祀りしているお社は決して多くはありませんが、摂社末社を含め、よくよく探してみると全国あらゆる場所にいらっしゃいます。
私のご先祖様のルーツをたどると、自然とこのカヤノヒメ様のルーツも見えてきます。
私の父は徳島出身で、叔父が言うにはその昔忌部氏と関わりがあったそうです。
阿波忌部氏は、天太玉命(アマノフトダマノミコト)を祖とする中央忌部から5つに分布したうちの一つで、天日鷲命(アメノヒワシノミコト)を祖神として主に農業を支えてきた氏族です。
粟をはじめとして五穀を作り、麻でアラタエを作って貢進し、中央祭祀を支えておりました。
阿波忌部氏は海に出る氏族としても知られており、黒い道(海流・黒潮のことです)に乗って房総に上陸して関東を開拓し、麻などを作るための農業技術を伝えたと言われております。
千葉県館山市には安房神社がありますし、同県印旛郡には天日鷲命ををご祭神とする大鷲神社があります。
ここの社伝には『神武天皇の御代に沃土を求めて天太玉命の御孫である天富命(アメノトミノミコト)が、四国の阿波の国から天日鷲命を率いてお出でになり、麻・木綿を藩殖して、産業を奨励された』とあります。
さて、『安房忌部系図』によると、天日鷲命には三神の御子神がおり、さらにその中の一注の神には二神の御子神がおります。
その一注が東国開拓の総大将となった由布津主命(ユフツヌシノミコト)、そしてもう一柱が千鹿江比売命(カエヒメノミコト)です。
ふう。
ようやく出てきましたが、エ=ヤとなることから、この天日鷲命の孫神、千鹿江比売命がカヤノヒメと同じ神であるという見解が一般的なようです。
あれ?
イザナギの命とイザナミの命の御子神では?
と思いますよね。
神々の系譜は、書かれている書物によって違っています。
記紀に加え、忌部氏の残した『古語拾遺』にも神話が語られております。
その時代や氏族、著者によってもその見方は当然異なるのでそれぞれの都合の良い形で書かれているので、微妙な見解の違いが出てきます。
ここのところがミステリアスで、多くの学者さんがお悩みになるところです。
とりあえず素人の私は、一つの書物だけではなくいくつかの書物を同時に読むことで自分なりの見解ができれば、それで良いと思っています。
謎解きは学者さんのお仕事ですから、お任せします。
このカヤヒメを神名とする式内社は阿波にしかないそうで、阿波の地こそがカヤというものを神格化した最初の地であると考えられているようです。
ちなみに、私の父の実家がある群にはカヤノヒメ様をお祀りしているお社が6社以上もあります。
愛知県あま市の萱津神社では珍しい形で崇敬を受けています。
それが、漬け物の神様としてのご神格です。
昔、野菜と塩をお供えしていたが、すぐに腐ってしまうことに悩んだそうです。そこでビンにこの二つを一緒に入れてお供えしたところ、腐らずに不思議な食べ物になったそうです。それがお新香のはじまりなのだとか。
ここでは年に一度『香の物祭』と呼ばれる神事があり漬物を仕込むそうで、その時は全国から漬け物業者が集まるそうです。
ちなみに、この神社にある漬け物の樽をかたどった石をなでると漬け物作りが上手になるそうですよ。私も一度行かねばと思っております(^^;)
おいしい漬け物を作るのは酵素の作用によるもの。
酵素、最近の健康ブームでかなり耳にする頻度が高いワードになっていますね。
今改めて見直されているようですが、酵素は昔から大事にされてきました。
お酒も納豆もお醤油もお味噌も、私達が普段口にしているものの多くがその酵素と呼ばれる微生物群の働きによって作られています。
それらは旨味を作り、カビなどによる腐敗を防ぎ、私達が食べることで有効な栄養素を補ってくれるもの。
酵素はどこにあるのかというとやはり土の中です。
なので酵素の働きがカヤノヒメ様のご神徳とされるのはごく自然なことです。
これらの酵素を、人が踏み入らない原始の森へ捕獲しに行く方々がいらっしゃいます。彼らは、宝探しに行くのだといいます。
地中にいる菌の多くは腐敗菌ですが、未知の酵素を見つけて新しい使い道を模索するのが彼らの仕事です。
彼らが発見した酵素の中には素晴らしい発酵作用を見せてパンの天然酵母として広がったものもあり、知らず知らずのうちに口にしているものもあります。
このように、元は土の中にある、全ての生き物にとって有益な働きをする未知の存在を神格化したものがカヤノヒメ様と言えるでしょう。
もう一つ、この萱津神社にはこのような伝説が残っています。
ヤマトタケルノミコトが戦いの帰りに傷ついた体でこの神社に辿り着いたが、愛する妻に会えないまま伊勢へ旅立たなければならなくなった。
こんな悲しい思いは誰にもしてほしくないと祈り、ここに二つの榊を植えると、いつのまにか二つの榊は枝が繋がり、連理の木となった、というもの。
もし、これもまたカヤノヒメ様のご神徳によるものだとしたら、悲しみを癒す優しさと、なかなかオツな一面をお持ちだということ…。
この伝説が各地に伝わり、今では恋愛成就の神様としてもたくさんの参拝者がいらっしゃるようです。
さらに伊勢神宮豊受大神宮の摂社、清野井庭神社にもカヤノヒメ様は祀られており、ここでは灌漑用水の神としてお役目を果たされております。
ここではおそらく純粋な水の神としてではなく、植物を育てるための力を備えている水の神として祀られているのではないでしょうか。
豊受大神は天照大神の神饌を司る食物の神ですから、そのように考えるとしっくりきます。
それから、滋賀県にもカヤノヒメ様が鎮座されているお社が多くあるようですね。
滋賀県草津市の小槻神社の境内社にもカヤノヒメ様が鎮座されています。
そして近江国一宮武部大社では、今はヤマトタケルノミコト様が祭神としてお祀りされていますが、遷座以前から地主神としてカヤノヒメ様が祀られていたようです。
おそらく、萱葺き屋根や茅の輪などを作るのあたり、大量の萱が必要とされていた地域だったのではないでしょうか。湖もあることから良い萱場があったのかもしれません。
この地とカヤノヒメ様との関係は、実際に行って調べないとわかりません。
近江の国はいつも通過地点なので、いつかゆっくりと巡って謎解きをしていきたいと思いました。
神様のご神格も書物と同じで、祀られる地にとって有益なように変わっていくもの。
それでも大事なところや根本は変わることなくそこに鎮座されていますね。
おや?と思っても、よくよく謂れや伝説を知ると納得することができます。
カヤノヒメ様は、霧、暗闇、惑わしの神をお産みになったことでも知られています。
それらは人間にとっては少々不気味な印象を持ちますが、実は自然の営みの一つであり、それらを神として崇めてきた古代の大和の人々の繊細さにはどこか共感するものを感じます。
陰も陽も、良きも悪きも含めて全てを包括し、分け隔てなく養分を与えて健やかな成長を見守る…。
カヤノヒメ様からはそのような与え続ける母性愛を教えられている気がします。