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弓と山と日本画

Kimiko Yuasaの近況

大麻のこと

2015-11-22 15:09:15 | 日本の神様
高尾山はもう紅葉のピーク、朝、夜と冷える日も増えてまいりました。
選ぶ洋服に悩む今日この頃、いかがお過ごしでしょうか(^^)
最近、Facebookユーザーの友人でこの言い回しを使ってくださっている方がおり、ちょっと面白く思っています(笑)

さてさて、久しぶりの更新になってしまいました。

仕事、私事、ここのところたくさんの変化がありまして、ただ今生活を見直し調整中、なかなかゆっくり文章を書く時間がありません。
さらにこの後に続く確定申告。
まだまだ、と思っていたらあっという間です。
フリーランスの皆様、頑張りましょう!

一昨日、ようやく受けていた仕事が一つ終わりましたので、たっぷりの就寝を取りました。
そして、ようやくこちらで書きたかったことをまとめているところでございます。


大麻のこと。

もう先々週になりますが、ずっと行きたかった大麻畑、大麻博物館へ行ってまいりました。

大麻、と聞くとギョッとする方もいらっしゃるかもしれませんね。
いわゆるドラッグとして使用するものではありません。
産業、神事で使用するための農作物です。

何故、私が大麻にこんなに興味を持っているのかと申しますと、昔、私の父方の叔父が
「うちは昔、忌部さんじゃった」
と言ったのをずっと覚えていて、忌部さんてなんだろう?というところから、その軌跡をたどる旅が始まって大麻に興味を持ちはじめたのでした。

忌部氏を簡単に説明しますと、神事に欠かせない道具を制作する技術集団のことで、地域によって制作物が異なっておりました。
父の出身の阿波では、大麻でアラタエ(織布)を織り献上していたようです。

阿波忌部氏に関しては、林 博章先生の『倭国創世と阿波忌部』という書籍でかなり詳しくその軌跡が書かれており、現在でも継承されている大麻農家さんのことなども紹介されています。
そこで始めて栃木県で大麻が生産されていることを知り、ずっとそこへ行ってみたかったんです。

今回、そんな私の願いを聞いてくださり、友人が麻農家さんに予約を入れて連れて行ってくれました。
ここの農家さんは、林先生の書籍ではもちろん、国産の麻にこだわる神社の宮司さんなど、いろいろなところからお名前をお聞きしていた農家さんで、大麻の栽培の風景や麻を使った工芸品の販売、カフェ、麻の紙すき体験などを通じて、広く栃木の麻を広める役割を果たされておられるようです。

麻の工芸品などが販売されているカフェはこちら。


玄関には麻の文様。


落ち着いた古民家風のお部屋には、麻で出来たランプやお飾りがたくさん。


今の時期はすでに大麻は刈られた後でしたが、種用に栽培された大麻畑の跡を見ることができました。


大麻の生産に関しては国では大変慎重になっており、ここの大麻も年に一度薬効がないかどうかを調査するそうです。
日本で栽培されている大麻は、薬効の無いものを掛け合わされて作られているので、麻薬成分はほとんど検出されません。
万が一薬効成分の高い海外産のものと交配してしまったものが出来てしまっても、それが流通することのないよう細心の注意がなされているのです。
そのような地域全体での管理体制があって、はじめて許可が下り、生産できるものなのですね。
栃木では13件ほどの大麻の農家さんがあり、稼働しているのは年平均で10件ほどなのだそうです。

そして、同県那須には『大麻博物館』があり、ここでも大麻に関しての貴重なお話をお聞きすることができました。


特にここでは糸にする技術(よらずに作る特殊な方法!)や、精麻の仕方、今は継承者のほとんどいない織りの技術に関してまで、とても詳しくお話いただけます。


大麻は、産業としても大変魅力的な農作物なのですが、そのへんは私なんかよりもずっと良くご存知の方々がたくさんおりご説明くださると思いますので、是非ググってみてくださいませ。
なんだか数年前から麻はブームのようですよ。
今でもジワジワ続いております。

私の仕事にも麻は欠かせない物になっています。
日本画で使用する和紙は『雲肌麻紙』という、麻を加えて強度を強めた特殊な和紙です。
お陰様で、薄く何度も重ねる技法(私は特にこの技法を好んで使用します)にも耐えて基材が痛むことがありません。

そして趣味にも。
弓道(5月からはじめました)では、麻を使って自分で中仕掛けを作ります。
この部分のメンテナンスはとても大事。


弓道で使う道具にも、好んで麻文様のものを選んでいます。

麻の文様は、古くから魔除けの効果があると信じられていることは広く知られていますね。
麻文様に弓!
もう最強の魔除けです。

今回伺うことで、手間のかかる技術を継承している方々への尊敬の念がさらに強まりました。
手間をかけることには、それなりの意味があります。
たとえば。
麻の糸は、よって作ると中の小さな水を通す穴が潰れた繊維が出来ます。
しかし、職人さんの精麻によって作られた麻の糸は、水を通す空洞がそのまま残っているので、そこに空気が入り、夏は涼しく冬は暖かいという大変贅沢で合理的な夢のような布が出来上がります。
このような良さと手間を計りにかけた時に、多くの人が少なくとも10回に1回くらい良さを選ぶようになれればいいなと思うのです。

伝統技術を継承する方々、無くなりつつある伝承を採取して広める方々…。
今年は特にそのような方々と深く関われた年であり、自分もその中で何を大切にしていくのか、やるべきことは何なのかを精査出来た年になったと思います。

まだまだ今年はやることが一杯ですが、一つひとつ、丁寧にこなしていければと思っております。

最後になりましたが、今回の素敵な旅を企画してくださったKさん。
何から何までお世話になりまして、本当にありがとうございました。







神社巡りの旅(大阪・和歌山)

2014-10-26 17:12:01 | 日本の神様
古代の和歌山に、名草姫(戸畔)と呼ばれた女王がいました。
この女王の伝説は日本書紀ではほんの少しだけ記されています。
神武東征中にイワレヒコと戦い、戦死しました。
ロマンあふれる女王の伝説は口伝によって地元で語り継がれ、それを採取してその正体を追った友人がおります。
アートラッシュの作家仲間のなかひら まいさんです。

今回、まいさんと神社巡りの旅に出る事になりました。
10月21日、22日、23日の予定でしたが、この3日間はなんと目指す地は雨の予報…。
すでに20日はザーザー降りの雨でした。
しかしお参りの際にはどんな雨でも上がるジンクスがあるので、大丈夫かな、とも…。エヘへ

初日です。
はい、天気予報おおはずれ!
この日はジンクス通り暑いぐらいの晴天となりました。
まずは大阪のサムハラ神社、とても不思議な神社です。


この神社は、珍しい漢字4文字で『サムハラ』と読みます。


石に書かれた『サムハラ』の文字、わかりますか?
打ち込んでも出て来ない難しい漢字です。
この四文字をお守りにして持っていると、あらゆる怪我から身が守られると言われています。
外にはたくさんの看板が貼られており、この四文字に守られた数々のエピソードが書かれていました。

そして一度お参りに伺いたかった住吉大社。
予定には入っていなかったのですが、まいさんの機転で海の神様にもお参りする事が出来、感無量です!


4つのお宮のうちのひとつ。不思議な作りの拝殿です。



2日目です。
この日は和歌山の名草姫ゆかりの神社やお寺を巡りました。
まずは、まいさんの名草本を読んでずっと気になっていてお参りしたかった、伊太祈曽神社。
この地方では多くお祀りされている木の神様です。
そして命の神様でもあります。
木に携わるお仕事の方々から崇敬厚く、病気平癒のご神徳があります。



次の神社へ行く伊太祈曽駅にて。
た、た、たまでんしゃ!!!!!!
貴志川線の貴志駅にいるという、猫のたま駅長代行をモチーフにした電車が来ました!猫好きにはたまりません♡


わわわ、部屋か、ここは!


興奮冷めやらぬうちに次の神社へ。
この神社はまいさんのオススメ。
津秦天満宮です。


まいさんの本の中で、気になる不思議な話が二つ書かれています。
一つは名草姫関係の神社を詣でると何故か雨が止むというもの。
うんうん、それは今回もそうでした。
そしてもう一つは確信に触れようとすると『説明おじさん』が現れる、というもの。
これは、調べたい内容に関して、こちらから声をかけるでもなく近づいて来て説明してくれる方のことです。
なんと、ここでお目にかかれました!
本当に、こちらは何も語らずとも知りたい部分を語りだす方が現れたのです。
もうびっくりです。
説明おじさん、本当でした。
駅までの安全な裏道まで送ってくださったり、参拝祈念品までいただき、お世話になりました。
説明おじさんに夢中になっていて写真を撮り忘れてしまいました(汗)

貴志川線の日前駅で降り、日前さんへお参りしました。
日が出ているように見えますが、この日はどんより曇りです。
鏡がお祀りされています。


そして、ここからはまいさんのご友人が車で迎えに来てくださいました。
3人でグリーンコーナーのラーメンをいただいて、まいさんオススメの高皇神社へ。地元に愛されているのが伝わってくる造化三神系の神社です。
ここはナイショにしたいくらいの場所です♡
まいさんさすが、私の好みをよくご存知です。


おっと、ここまでが空のリミットだったようです。
ここまで名草姫さんの力でしょうか?雨が抑えられていたようですが、なんだかもう抑えきれん!的な雰囲気になってきました。

そして…。

最後の目的地、紀三井寺に向かうところでとうとう降られてしまいました。
雨の中、お寺の名前となっている名草山の3つの井を捜して。

吉祥水


清浄水


もう一つは楊柳水、むむむ、見つからなかった~。

紀三井寺を降り、名草山の麓にある『なぐさファーム』でまいさんのご友人達が集まっておりました。
おいしいお茶をいただき、しばらく歓談。
驚くほど濃い内容の古代の話で盛り上がりました。

なぐさファームのまいさんコーナー!
まいさんの本がお求めいただけます。


なぐさファームはこだわりの材料で作る手作りジャムのお店です。
みかんハチミツやキビ砂糖を使ったショウガハチミツを買い込みました(^^)


名草姫は今でも地元の方々に愛されており、その周りにはたくさんの人が繋がっていました。
大事にされている伝説が消えてしまう前に採集し、さらに後世に伝わるように残した功績は大きいものです。
まいさん、そして今回お会いした皆さん、楽しい時間を本当にありがとうございました。
お車で送ってくださったり、お茶をいただいたり…。
旅をサポートくださり、感謝でいっぱいです。
また皆様とお会いできる日を心よりお待ちしております。


武甲山

2014-05-25 22:25:09 | 日本の神様
登山のシーズンになりました。

山岳信仰のあるお山に登るのが好きです。
古代から信仰や修行の場として大事にされているお山には、独特の凛とした空気があります。
そして、自然の中にどこか人間の気配を感じて安心するような感覚があります。

昨日、秩父の武甲山に登りました。
秩父の中でひときわ高く神々しい武甲山は、古くから神奈備として信仰されていました。
このお山には男性の神様がいらっしゃるようです。

そしてこのお山、高さが年々低くなっていく山としても知られています。

奥に見えるのが武甲山です。
高さは現在1,304m。


白く見えている部分は、石灰を採掘して削られたところです。
武甲山の登山口・一の鳥居に向けて歩きます。
約2時間ほどです。

途中にはたくさんのセメント工場があり、稼働しています。
武甲山で掘削された石灰は、工場で加工されて首都圏のインフラを支えています。
関東の発展と引き換えにその姿を失っていく神奈備があることを、心に留めておこうと思いました。






工場地帯をしばらく行くと、静かな林道に入ります。
さらに行くと…。

水場がありました。


ここは、延命水。
武甲山は、古くから水の恵をもたらす山として信仰されていました。
ここのひんやりとした空気に触れてお水をいただくと、その恵の有難さに感動します。
お味は、ちょっと硬めのすっきりする感覚。
生き返りました!
そして麓のお社でごあいさつ。
神様に、入山の許可をいただきました。

ようやく一の鳥居へ到着しました。
ここで、登山届けを出します。


よく見ると、鳥居の傍の狛犬の前に何かがいます。

オオカミさんです。
この辺りはオオカミ信仰圏内です。
今日は私も武蔵御嶽神社の登山守りのお犬様を一匹、お供に連れてきました。
鈴も付いていて熊避けにもなります。




登山道では熊が目撃されていますので、注意しながら登ります。
登山道は急な勾配が続き、山頂までなかなか辛い道のりです。
ちなみにこの山のコースは『昭文社 山と高原地図22奥武蔵・秩父』によると、上級コースとのこと。
延々続くように思われる蛇行した道は、富士山を思わせます。
着きそうなのに、なかなか着かない…。

ところどころに山岳信仰を思わせる遺跡があります。


迎えてくれる大きな杉も、たくさんの旅人達を見送ってきたことでしょう。


石灰岩と杉の根と共に踏み固められた登山道。


ようやく頂上に到着しました!
武甲山御嶽神社でごあいさつと、無事に登れた報告を。


そして、この展望。


1,304mから、秩父の町を一望できます。
人は小さすぎて見えません。
車が行き来しているのがかろうじて見えます。

この展望台の真下は絶壁になっており、そのはるか下で掘削作業が行われています。
風に乗って、下の方からゴウンゴウンと重機音が聞こえてきます。
この山の資源はこの地域一体をを大きく支え、首都圏に住む私達もその恩恵を受けているのです。
この世に変わらないものはないとわかってはいても、やはりどこかで変わらぬものに触れて安心したい気持ちもあります。
この山が年々形を変えることに悲しみを感じることは、ごく普通の感覚だと思うのです。

ご一緒いただいたOさん、帰りに道案内いただいたNさん、ありがとうございました。

【メモ】2014年5月24日現在の情報
頂上のトイレですが、使用できませんでした。
さらに、帰宅道となる浦山口ルートが一部通行禁止になっています。迂回もできません。
横瀬からの往復ルートになります。



カヤノヒメ

2013-12-04 17:50:07 | 日本の神様
漬け物に、神様がいらっしゃるのをご存知ですか。
そう、アートラッシュの『紳士の小物展』で描かせていただいたカヤノヒメ様です。




ここは八百万の神の国ですからどのような神様がいらしても驚くことはありませんが、この神様はタバコの神様としても崇拝されており、そのご神徳はユニークで珍しいものです。
そのお姿を描かせていただくにあたり、そのご神徳や鎮座されているお社などを調べました。
せっかくなので、ここに残します。

古事記で鹿屋野比売神(かやのひめのかみ)、日本書紀では草祖草野姫(くさのおやかやのひめ)と記されております。
イザナギの神とイザナミの神の間に産まれ、後に大山祇神との間に8柱の神様をもうけておられます。

神話好きな方へは、麗しき富士山の女神コノハナサクヤヒメ様の母神様と言う方がピンとくるかもしれません。

カヤノヒメ様のご神格はその御名の通り、草、野山の神様です。
萱はススキや葦などの植物の総称。
つまり、昔から人々が利用してきたありがたい植物の祖神様です。
草達が健やかに育つように促すのがお役目というこの神様、巨大なミミズのようなお姿で現れることがあるようです。
というのも、別名ノヅチの神といい、その姿を妖怪として紹介している資料が多く残されているのです。
そのご神格は人間を含む動物を食すこともあるそうで、まるで荒々しい自然そのものの循環を表現しているかのよう。
役目を終えた動物を分解し、植物の養分にし、その苗床となる土を耕しておられるのです。

カヤノヒメ様をお祀りしているお社は決して多くはありませんが、摂社末社を含め、よくよく探してみると全国あらゆる場所にいらっしゃいます。


私のご先祖様のルーツをたどると、自然とこのカヤノヒメ様のルーツも見えてきます。
私の父は徳島出身で、叔父が言うにはその昔忌部氏と関わりがあったそうです。

阿波忌部氏は、天太玉命(アマノフトダマノミコト)を祖とする中央忌部から5つに分布したうちの一つで、天日鷲命(アメノヒワシノミコト)を祖神として主に農業を支えてきた氏族です。
粟をはじめとして五穀を作り、麻でアラタエを作って貢進し、中央祭祀を支えておりました。

阿波忌部氏は海に出る氏族としても知られており、黒い道(海流・黒潮のことです)に乗って房総に上陸して関東を開拓し、麻などを作るための農業技術を伝えたと言われております。
千葉県館山市には安房神社がありますし、同県印旛郡には天日鷲命ををご祭神とする大鷲神社があります。
ここの社伝には『神武天皇の御代に沃土を求めて天太玉命の御孫である天富命(アメノトミノミコト)が、四国の阿波の国から天日鷲命を率いてお出でになり、麻・木綿を藩殖して、産業を奨励された』とあります。

さて、『安房忌部系図』によると、天日鷲命には三神の御子神がおり、さらにその中の一注の神には二神の御子神がおります。
その一注が東国開拓の総大将となった由布津主命(ユフツヌシノミコト)、そしてもう一柱が千鹿江比売命(カエヒメノミコト)です。
ふう。
ようやく出てきましたが、エ=ヤとなることから、この天日鷲命の孫神、千鹿江比売命がカヤノヒメと同じ神であるという見解が一般的なようです。

あれ?
イザナギの命とイザナミの命の御子神では?
と思いますよね。

神々の系譜は、書かれている書物によって違っています。
記紀に加え、忌部氏の残した『古語拾遺』にも神話が語られております。

その時代や氏族、著者によってもその見方は当然異なるのでそれぞれの都合の良い形で書かれているので、微妙な見解の違いが出てきます。
ここのところがミステリアスで、多くの学者さんがお悩みになるところです。
とりあえず素人の私は、一つの書物だけではなくいくつかの書物を同時に読むことで自分なりの見解ができれば、それで良いと思っています。
謎解きは学者さんのお仕事ですから、お任せします。

このカヤヒメを神名とする式内社は阿波にしかないそうで、阿波の地こそがカヤというものを神格化した最初の地であると考えられているようです。

ちなみに、私の父の実家がある群にはカヤノヒメ様をお祀りしているお社が6社以上もあります。


愛知県あま市の萱津神社では珍しい形で崇敬を受けています。
それが、漬け物の神様としてのご神格です。
昔、野菜と塩をお供えしていたが、すぐに腐ってしまうことに悩んだそうです。そこでビンにこの二つを一緒に入れてお供えしたところ、腐らずに不思議な食べ物になったそうです。それがお新香のはじまりなのだとか。
ここでは年に一度『香の物祭』と呼ばれる神事があり漬物を仕込むそうで、その時は全国から漬け物業者が集まるそうです。
ちなみに、この神社にある漬け物の樽をかたどった石をなでると漬け物作りが上手になるそうですよ。私も一度行かねばと思っております(^^;)

おいしい漬け物を作るのは酵素の作用によるもの。
酵素、最近の健康ブームでかなり耳にする頻度が高いワードになっていますね。
今改めて見直されているようですが、酵素は昔から大事にされてきました。
お酒も納豆もお醤油もお味噌も、私達が普段口にしているものの多くがその酵素と呼ばれる微生物群の働きによって作られています。
それらは旨味を作り、カビなどによる腐敗を防ぎ、私達が食べることで有効な栄養素を補ってくれるもの。

酵素はどこにあるのかというとやはり土の中です。
なので酵素の働きがカヤノヒメ様のご神徳とされるのはごく自然なことです。

これらの酵素を、人が踏み入らない原始の森へ捕獲しに行く方々がいらっしゃいます。彼らは、宝探しに行くのだといいます。
地中にいる菌の多くは腐敗菌ですが、未知の酵素を見つけて新しい使い道を模索するのが彼らの仕事です。
彼らが発見した酵素の中には素晴らしい発酵作用を見せてパンの天然酵母として広がったものもあり、知らず知らずのうちに口にしているものもあります。

このように、元は土の中にある、全ての生き物にとって有益な働きをする未知の存在を神格化したものがカヤノヒメ様と言えるでしょう。

もう一つ、この萱津神社にはこのような伝説が残っています。
ヤマトタケルノミコトが戦いの帰りに傷ついた体でこの神社に辿り着いたが、愛する妻に会えないまま伊勢へ旅立たなければならなくなった。
こんな悲しい思いは誰にもしてほしくないと祈り、ここに二つの榊を植えると、いつのまにか二つの榊は枝が繋がり、連理の木となった、というもの。
もし、これもまたカヤノヒメ様のご神徳によるものだとしたら、悲しみを癒す優しさと、なかなかオツな一面をお持ちだということ…。
この伝説が各地に伝わり、今では恋愛成就の神様としてもたくさんの参拝者がいらっしゃるようです。

さらに伊勢神宮豊受大神宮の摂社、清野井庭神社にもカヤノヒメ様は祀られており、ここでは灌漑用水の神としてお役目を果たされております。
ここではおそらく純粋な水の神としてではなく、植物を育てるための力を備えている水の神として祀られているのではないでしょうか。
豊受大神は天照大神の神饌を司る食物の神ですから、そのように考えるとしっくりきます。

それから、滋賀県にもカヤノヒメ様が鎮座されているお社が多くあるようですね。
滋賀県草津市の小槻神社の境内社にもカヤノヒメ様が鎮座されています。
そして近江国一宮武部大社では、今はヤマトタケルノミコト様が祭神としてお祀りされていますが、遷座以前から地主神としてカヤノヒメ様が祀られていたようです。
おそらく、萱葺き屋根や茅の輪などを作るのあたり、大量の萱が必要とされていた地域だったのではないでしょうか。湖もあることから良い萱場があったのかもしれません。
この地とカヤノヒメ様との関係は、実際に行って調べないとわかりません。
近江の国はいつも通過地点なので、いつかゆっくりと巡って謎解きをしていきたいと思いました。

神様のご神格も書物と同じで、祀られる地にとって有益なように変わっていくもの。
それでも大事なところや根本は変わることなくそこに鎮座されていますね。
おや?と思っても、よくよく謂れや伝説を知ると納得することができます。

カヤノヒメ様は、霧、暗闇、惑わしの神をお産みになったことでも知られています。
それらは人間にとっては少々不気味な印象を持ちますが、実は自然の営みの一つであり、それらを神として崇めてきた古代の大和の人々の繊細さにはどこか共感するものを感じます。

陰も陽も、良きも悪きも含めて全てを包括し、分け隔てなく養分を与えて健やかな成長を見守る…。
カヤノヒメ様からはそのような与え続ける母性愛を教えられている気がします。