森の時間 SINCE 2002

Le Temps Du Bois

This time It's real -「今度は愛妻家」

2010年02月27日 | 随想・エッセイ

「先走る彼女の背中を追いきれず、一人、取り残されてしまった男の後悔と悲しみ。」(金原由佳)

女性が肉体的に子供を産むタイムリミットを日々感じ出す年齢がある。産むか、産まないかという選択は女性にとって大きな命題で、どちらの選択をしようとも、年齢的に子供が産めないという動かしようもない事実と期限は確実にやってくる。女性は体内時計に耳を澄ませ、その音にせかされるように決意する。体内時計の針音が鮮明に聞こえているのに、聞こえないふりをしているぐうたら亭主。暴言を吐き、ワガママをいい、妻の願いを思いっきり無視し、母親に対する子供のような妻の安心感にとことん甘える男。この好き勝手に生きられる、居心地の良いままを願い続け、夫婦関係が激変することに漫然とした不安や戸惑いを感じて暮らす。しかし、その一瞬、一瞬を積み重ねる生きる時は、いい方向にも、そしてよくない方向にも向かう。激変が男を襲う。

富良野の森のコーヒーショップ「森の時計」、静寂の夜更けに語り合う夫婦。ニューヨーク単身駐在中、息子の運転する車で事故死した妻に、その日の出来事を語る男。「優しい時間」では、男の亡き妻に向かい合い、息子を許し受け入れてゆく過程が流れのテーマだった。ある部分、このドラマにも似ていると思った。

自分のぐうたらが引き起こしたと思える事故で突然妻を亡くし、全く予期せぬ状況に投げ込まれた男は、現実を受け止められずに、以前同様の妻が居る日常生活を空想の世界で積み上げてゆく。立ち直るのは、一年目の命日、クリスマスの日。妻の大好きだったクリスマスツリーを飾りつけ、ケーキのロウソクを二人で吹き消すと、幻の妻も消えてゆく。「今度は愛妻家」というのは、そんな映画だった。

ことしの誕生日プレゼントに、映画鑑賞券があった。この映画を是非見るべしと言う息子のプレゼント。終わりかけていた映画なので、上映館が限られ、探し当てた映画館もいつまで上映するか分からないというので、この日銀座和光裏のビル4階にある小さな映画館に行った。夜7時15分から一回だけの上映。結構長めの作品、約2時間20分。前半はつまらぬ映画かもしれないと思いつつ見ていたが、最後のほぼ5分間に全てが凝縮されていた。最後に分かるテーマ本質を各シーンで再確認したくて、もう一度見たくなる映画だった。

週末の夜、空いた映画館でゆったりとして、切ないファンタジーに包まれて思った。私にとって、本当に大切な事は、そして大切な人は・・・。

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向島

2010年02月20日 | インポート

Img_6558W大学生時代のF研仲間とそのゼミ仲間で、東京そぞろ歩きをしている。会社引退者、引退直前、引退気分。そんな仲間。年末には御徒町から上野、谷中、日暮里、更に御徒町。そんな周遊をした。Img_6559

今回は東向島から東武鐘淵近くに行き、曳船から立石、更に浅草。永井荷風「濹東綺譚」の世界をそぞろ歩いて、蕎麦屋とモツ煮込み屋を巡る。まず、江戸の庶民の庭園、「百果園」で観梅し、創業明治35年の御膳そば「坂むら」Img_6569を目指して歩く。 やっと探し当てたものの、閉店時間。更に歩き回り京成線に乗って辿り着いたのは京成立石駅前の「いろ川」。とびこみで入った店だが、夫婦で切り盛りしている、さりげなく美味しい店。 悪くない。暫し腰を落ち着ける。立石駅前商店街を散策し、浅草に向かう。五重塔近くの露天風ホルモン屋で喉を潤す。シートでカバーしただけの店頭のスペース、冷える。でも、論争は熱くなる。酒が進み時間が更けるにつれ盛り上がる。穏やかな日々よりも切磋琢磨、議論するのが好きだ。Img_6574最後の締めは、仲見世の「Shot Bar Blanche」。更に盛り上がる論争。そんな一日。十時間歩いて、飲んで、語った。佳き一日。

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ロッキーで決意

2010年02月01日 | 紀行・乗物

金曜日から月曜日までの週末を避け、5日以上の滞在だと、二週間前までのWEB予約で、Jal_economy_dinner通常の割引料金が更に3分の1まで安くなる期間がある。正月休みが明け、1月月末から2月にかかるウイークデイのフライトでカルガリーまで往復した。税込み10万円。

行きも帰りも、太平洋線JAL便は満席に近い。隣席を空けて貰うようにリクエストすると、満席でない限りはブロックしてくれる。Img_6538帰り便は2席しか空いていないと言われたが、隣2席が空席のまま飛び立った。見渡すと他に空席はない。JGCメンバーだからだと思うが、この程度の希望は叶えてくれる。狭いエコノミー席で10時間前後、隣が空いていると、疲れ方が全く違う。しかも、今回は靭帯裂傷の左足はテーピングで固定されていて、足を引きずりながらの出張。できるだけ身体に負担をかけたくない。乗客はアジア人が多く、日本人乗客は少ない。FAもアジア系が目立つ。その中にあって、日本人FAは少しだけ気を使ってくれる。ある頃、JGCメンバーの価値を感じなくなっていたが、 昨今は昔からの固定客を見直してくれるようになったのだろうか。Img_6262 カルガリーとヴァンクーバー間のフライトはエアーカナダのビジネスクラス。雪のロッキーを見下ろしながらの豊かな朝食。

カルガリー市内で商談、会食。そして、エドモントンまで往復650KM程の日帰りドライブ。ニッポントラベルのSさんがエドモントン事務所に用事があるというので同乗することになった。Img_6274運転を代わって貰えたので、時差ボケのスヤスヤお休みもできて、快適なドライブ。遠距離ドライブの道連れは大歓迎。今回のレンタカーはリコール騒ぎのトヨタRAV4。前半3日で出張目的はほぼ達成できたので、 週末にロッキーに行く計画を立てた。が、週末は時折降る雪、薄暗い曇天。西の方角も黒い雲に覆われている。初めてカルガリー訪問したという東京からの同行者は、数日間寒さに晒され風邪気味で体調が良くない。 Img_6316 なので、ロッキーへのドライブは止めて、終日じっとホテルに閉じこもり、PC相手に仕事することにした。四時も過ぎると外は暗くなり始める。やはり、外に出たい。防寒に身を包み、ホテル近く、雪景色のAU CLAIR公園を散歩した。

翌週の或日、抜けるような青空が広がった。昼を過ぎていたが、思い立ってロッキーに向かい、ロッキーの山間Canmoreの町をぶらついた。Img_6388かつて、山小屋のような家が河畔に建っている程度のこじんまりとした町だったが、炭坑跡、山の裾野にいくつものゴルフ場が広がり、リゾートコンドが立ち並び、アメリカ流の一大リゾート地の様相になっている。 Vancouverオリンピック2週間前。Calgaryオリンピックのノルディック会場のあるこの町には、各国の競技関係者が集まっているようで、スパーマーケットの中は大柄な選手らが各国語で闊歩している。Img_6405 住居が制約されるバンフに住めないワーホリらしき日本人若者も目立つ。町の新しいお寿司屋さんで遅いお昼を食べようかと思ったが、自然の中でゆっくりしたかったので、スーパーで中華惣菜をパックに詰めた。軟骨コリコリのドライスペアリブは私の好物。

町の南西、トランスカナダハイウエイを見下ろす位置にスリーシスターズと言う三つの峰がある。Img_6410以前、その眺めの中で、絵を描き、色々な私の思いも描いた。 懐かしい思い出の風景。広く見渡せる高台の公園に車を停めて、スリーシスターズに向かってお弁当パックをひろげる。それから、ロッキーに沈み始める最後の陽光を受け周囲を散策。澄んだ冷たい空気に包まれる。元気、自信が湧いてくる。S代に電話した。新たな決意をそれとなく伝える。明るい声に安心、心が和む。Img_6474

「よし、帰ろう。」山裾から平原に抜ける、かつての開拓民のPassway、オールドバンフコーチロードをカルガリーに向かった。インディアンの暮らす一帯に、CPレールが敷設される9年前、家族を連れた白人がこの地に入植した。草原のなかにぽつりと立つ小さな教会。Img_6476 1875年以来、そこに立っている。見渡す限りの雪原。誰も居ない空間。この日はChinook。ロッキーの向こう側から穏やかな空気を送り届けてくれるので、然程寒くない。雪原を歩いて建物に近寄った。風雪に耐えた無人の建物。風の音だけの静寂。西のロッキーに陽が沈むと、雪原の闇が一気に濃くなる。冷え始めた風に暫し身を晒す。新たな決意、自分自身を信じる。

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