小耳はミーハー

小耳にはさんだことへの印象批評

「はじまって以来」は好き? 2

2008-09-25 03:03:22 | ドラマ
「・・・かっこいい」
 そう言ったあとで、私と奈美はしばらく黙っていた。ふたりともポテトを食べたり、コーラを飲みはしたが、黙っていた。
 私なら、堂島くんに告白されたら、絶対にうれしいと思う。別に面食いではないけど、うれしいと思う。世の中の女の子でうれしくない人はそうそういないと思う。きっと女の子はどんな男の子に告白されたって、うれしいはずなんだから。
 それを「少なくとも、私は買わないわ」と言ってしまう有紀はいったいどんな男の子なら買うのだろうと思った。
ハリウッドの俳優とか、いろんな人と有紀が並んで歩いているのを想像してみた。赤い絨毯の上に、ハイヤーから降り立つ有紀。とっても似合う。無数のフラッシュのなかで、楽しくなさそうに笑っている。
「でも、有紀っていつも楽しそうじゃないよね」
 その帰りに、奈美がそう言った。
「うん」
「私が有紀だったら、きっと毎日楽しくて仕方ないのにな」
「うん」
「でも、人間って完璧すぎると、感情の起伏がなくなっちゃうのかな。ほら、不安があるから悲しくなるし、その不安がなくなるから嬉しくなったりするじゃない?ふつう。有紀の場合は、その不安がないからさ」
「そうかもね」

 だから、そんな有紀が泣いたって聞いて、私はほんとうにびっくりしたのだ。
-やばい、有紀が教室で泣いてる!-
 奈美からメールが届いたとき、私は図書室にいた。迫っていた期末試験の勉強に頭を抱えていた。
 有紀は、たしかに教室で泣いていた。
 奈美に連れられて教室をのぞくと、そこには机に座って肩を震わせている有紀がいた。
誰もいない教室。差し込む西日。そして、泣いている美しい女子高生。それは、とても、完璧だった。切り取って、雑誌に投稿すれば、そこそこの写真のコンテストに入賞できそうな風景だった。私は息を飲んだ。
 すると、急に奈美が教室に入ろうとした。「ちょっとやめなよ」と私が言おうとするときは既に遅く、ガラガラと扉が開いた。
「どうしたの?丹沢さん」
 奈美が声をかけた。私も緊張しながら、あとに続いた。
「丹沢さん?大丈夫?」
 私たちは、有紀へと近づいた。気づいているはずなのに、有紀は変わらず泣いていて、振り返ろうとしない。
 その間、どれくらいの時間があったのだろう。あまりの気まずさに私の緊張の糸は、いよいよ耐えられなくなりそうになっていた。
 そのときだった。有紀がバタンと立ち上がって、言った。
「私、フラれちゃったよー!」
 そして、奈美と私に抱きついてきた。一際大きな泣き声を上げながら。
「ちょっと、ちょっと丹沢さん?」
 奈美や私が戸惑ってそう言っても、まったく関せず、有紀はどんどんと泣いた。「どうしよー」とか「なんで」とか叫びながら。
 有紀の美しい顔が、私の小さな胸に沈む。その美しい黒髪が、私の痩せた肩に巻きつく。その白く長い指が、私のスカート越しにお尻に食い込む。
「助けて」
 有紀は、最後に小さく呟いた。
 そして、ただただ混乱する奈美を横目に、私はそのとき下半身を濡らしていた。
 つまり、性的に興奮していた。


 







「はじまって以来」は好き?

2008-09-22 22:59:27 | ドラマ
 有紀が泣いたって聞いて、ちょっと驚いた。
 有紀が“泣かした”なら、分かる。
 丹沢有紀。
 我が県立S高校はじまって以来の秀才だと言われ、また、はじまって以来の美貌を持ち、はじまって以来もっとも裕福な家庭に生まれ、育っていた。
 そして、これは私見だけど、「はじまって以来」最悪の性格の持ち主でもあると思う。
 先生たちに向かって、
「デブ」
「ハゲ」
「粗チン」
「クソババア」
などの暴言を陰で言うのではなく、直接言う。
 同級生に向かっても女子には、「ブス」「ガキ」「バカ」。
 男子に向かっては、「汚物」「イカ」「単細胞」。
 かく言う私も、体育祭のリレーでバトンを落としたとき、チームメイトであった有紀から「死んだほうがマシ」と言われたことがある。

 でも、有紀は男子にはよくモテた。
 その事実が、私を男性不信にするのだけど、やっぱり男は見た目で選ぶのだ。有紀は、本当にキレイだった。おおげさでなく、テレビや雑誌に出ている人たちよりも数段キレイだと思った。一度、遠足か何かで彼女と一緒に写っている写真をたまたま見た私の祖母が、「ミドリちゃんは、女優さんと知り合いなのかえ」と真顔で聞いたほどだ。
 有紀は、ほぼ毎日男子に告白されていたと言ってもいい。同級生はもちろん、うわさを聞きつけた他校の生徒、大学生、サラリーマンまで。中には、この街の市議会議員もいたという都市伝説まである。
 有紀は、そのすべてをまた例の如く罵詈雑言を添えて、断った。
「あんたなんかが、私にふさわしいと思うわけ?」
「あんたのチンチンなんかは、ほら、そこ歩いてる豚みたいな女に入れるのが似合ってるわよ」
 聞いていて(とは言っても股聞きだけど)、関係ない私までがツラくなってくる。
 中には、いい男もいた。
 いよいよ、有紀が首を縦に振るのではと学校中で盛り上がった時がある。
 それは、本当に芸能人が告白にやってきた時だった。芸能人、と言っても別に有名ではなかったが、いわゆる男性芸能人に関しては最大手の事務所に所属していて、いつデビューしてもおかしくないポジションにいた。
 彼は、堂島くんとファンの間では「くん付け」で呼ばれていた。堂島くんは、有紀のお兄ちゃんの友達で(セレブな家庭なので当然そういう交友関係もあったわけ)、家に遊びに来ていたときに見かけた有紀に一目惚れをした。
「おれ、絶対売れるぜ」
 ヘンな告白だ。仕方ない自信過剰な十代の男子だ。自分にプレミアをつけたがる。
 私たちは、その現場にいた。私と奈美は、塾のかえりに入ったファーストフード店で、そのあと五年後だったら、きっとテレビドラマの中でしか見られないような組み合わせの二人を見ていた。
「おれ、絶対売れるぜ。だから」
 堂島くんが、もう一回そう言ったとき、遮るように有紀が言ったひとこと。
「売れるって、誰に?」
 堂島くんは、そのひとことを聞いてすっかり黙ってしまった。考えたこともないだろう。タレントとして「売れる」っていう言葉はありふれているけど、その買い手はいつだってボンヤリしている。
「少なくとも、私は買わないわ」
 そう続けて、有紀は店を出て行ってしまった。
 残された堂島くん。そのあと、数回、頭を横に振っていた。
 そして、私と奈美は、思わず言った。
「・・・かっこいい」


つづく


「世界一」は好き?

2008-09-20 19:24:59 | ドラマ

「パパは、生まれてから私を『世界一、かわいい。世界一、かわいい』と言って育ててくれました。でも、幼稚園に入って、私は自分が世界一かわいい女の子じゃないんだと分かったけど、それでもパパは『世界一、かわいい。世界一、かわいい』と言ってくれました。だから、お嫁に行っても、私はずっとパパにとって『世界一かわいい』娘でいつづけたいと思います。パパ、いままで本当にありがとう。ママはこの場に来てないけど、私は世界一しあわせです。」

最近、行った友人の結婚式での新婦のあいさつ。
新郎も友人だが、新婦もぼくにとっては友人だった。

グッときた。