「・・・かっこいい」
そう言ったあとで、私と奈美はしばらく黙っていた。ふたりともポテトを食べたり、コーラを飲みはしたが、黙っていた。
私なら、堂島くんに告白されたら、絶対にうれしいと思う。別に面食いではないけど、うれしいと思う。世の中の女の子でうれしくない人はそうそういないと思う。きっと女の子はどんな男の子に告白されたって、うれしいはずなんだから。
それを「少なくとも、私は買わないわ」と言ってしまう有紀はいったいどんな男の子なら買うのだろうと思った。
ハリウッドの俳優とか、いろんな人と有紀が並んで歩いているのを想像してみた。赤い絨毯の上に、ハイヤーから降り立つ有紀。とっても似合う。無数のフラッシュのなかで、楽しくなさそうに笑っている。
「でも、有紀っていつも楽しそうじゃないよね」
その帰りに、奈美がそう言った。
「うん」
「私が有紀だったら、きっと毎日楽しくて仕方ないのにな」
「うん」
「でも、人間って完璧すぎると、感情の起伏がなくなっちゃうのかな。ほら、不安があるから悲しくなるし、その不安がなくなるから嬉しくなったりするじゃない?ふつう。有紀の場合は、その不安がないからさ」
「そうかもね」
だから、そんな有紀が泣いたって聞いて、私はほんとうにびっくりしたのだ。
-やばい、有紀が教室で泣いてる!-
奈美からメールが届いたとき、私は図書室にいた。迫っていた期末試験の勉強に頭を抱えていた。
有紀は、たしかに教室で泣いていた。
奈美に連れられて教室をのぞくと、そこには机に座って肩を震わせている有紀がいた。
誰もいない教室。差し込む西日。そして、泣いている美しい女子高生。それは、とても、完璧だった。切り取って、雑誌に投稿すれば、そこそこの写真のコンテストに入賞できそうな風景だった。私は息を飲んだ。
すると、急に奈美が教室に入ろうとした。「ちょっとやめなよ」と私が言おうとするときは既に遅く、ガラガラと扉が開いた。
「どうしたの?丹沢さん」
奈美が声をかけた。私も緊張しながら、あとに続いた。
「丹沢さん?大丈夫?」
私たちは、有紀へと近づいた。気づいているはずなのに、有紀は変わらず泣いていて、振り返ろうとしない。
その間、どれくらいの時間があったのだろう。あまりの気まずさに私の緊張の糸は、いよいよ耐えられなくなりそうになっていた。
そのときだった。有紀がバタンと立ち上がって、言った。
「私、フラれちゃったよー!」
そして、奈美と私に抱きついてきた。一際大きな泣き声を上げながら。
「ちょっと、ちょっと丹沢さん?」
奈美や私が戸惑ってそう言っても、まったく関せず、有紀はどんどんと泣いた。「どうしよー」とか「なんで」とか叫びながら。
有紀の美しい顔が、私の小さな胸に沈む。その美しい黒髪が、私の痩せた肩に巻きつく。その白く長い指が、私のスカート越しにお尻に食い込む。
「助けて」
有紀は、最後に小さく呟いた。
そして、ただただ混乱する奈美を横目に、私はそのとき下半身を濡らしていた。
つまり、性的に興奮していた。
そう言ったあとで、私と奈美はしばらく黙っていた。ふたりともポテトを食べたり、コーラを飲みはしたが、黙っていた。
私なら、堂島くんに告白されたら、絶対にうれしいと思う。別に面食いではないけど、うれしいと思う。世の中の女の子でうれしくない人はそうそういないと思う。きっと女の子はどんな男の子に告白されたって、うれしいはずなんだから。
それを「少なくとも、私は買わないわ」と言ってしまう有紀はいったいどんな男の子なら買うのだろうと思った。
ハリウッドの俳優とか、いろんな人と有紀が並んで歩いているのを想像してみた。赤い絨毯の上に、ハイヤーから降り立つ有紀。とっても似合う。無数のフラッシュのなかで、楽しくなさそうに笑っている。
「でも、有紀っていつも楽しそうじゃないよね」
その帰りに、奈美がそう言った。
「うん」
「私が有紀だったら、きっと毎日楽しくて仕方ないのにな」
「うん」
「でも、人間って完璧すぎると、感情の起伏がなくなっちゃうのかな。ほら、不安があるから悲しくなるし、その不安がなくなるから嬉しくなったりするじゃない?ふつう。有紀の場合は、その不安がないからさ」
「そうかもね」
だから、そんな有紀が泣いたって聞いて、私はほんとうにびっくりしたのだ。
-やばい、有紀が教室で泣いてる!-
奈美からメールが届いたとき、私は図書室にいた。迫っていた期末試験の勉強に頭を抱えていた。
有紀は、たしかに教室で泣いていた。
奈美に連れられて教室をのぞくと、そこには机に座って肩を震わせている有紀がいた。
誰もいない教室。差し込む西日。そして、泣いている美しい女子高生。それは、とても、完璧だった。切り取って、雑誌に投稿すれば、そこそこの写真のコンテストに入賞できそうな風景だった。私は息を飲んだ。
すると、急に奈美が教室に入ろうとした。「ちょっとやめなよ」と私が言おうとするときは既に遅く、ガラガラと扉が開いた。
「どうしたの?丹沢さん」
奈美が声をかけた。私も緊張しながら、あとに続いた。
「丹沢さん?大丈夫?」
私たちは、有紀へと近づいた。気づいているはずなのに、有紀は変わらず泣いていて、振り返ろうとしない。
その間、どれくらいの時間があったのだろう。あまりの気まずさに私の緊張の糸は、いよいよ耐えられなくなりそうになっていた。
そのときだった。有紀がバタンと立ち上がって、言った。
「私、フラれちゃったよー!」
そして、奈美と私に抱きついてきた。一際大きな泣き声を上げながら。
「ちょっと、ちょっと丹沢さん?」
奈美や私が戸惑ってそう言っても、まったく関せず、有紀はどんどんと泣いた。「どうしよー」とか「なんで」とか叫びながら。
有紀の美しい顔が、私の小さな胸に沈む。その美しい黒髪が、私の痩せた肩に巻きつく。その白く長い指が、私のスカート越しにお尻に食い込む。
「助けて」
有紀は、最後に小さく呟いた。
そして、ただただ混乱する奈美を横目に、私はそのとき下半身を濡らしていた。
つまり、性的に興奮していた。