ある日、同じアパートに住む友人が、
「ちょっと、テレビを預かってくれ」と
持ってきた。その数時間後、彼の部屋から
大きな声が響いてきた。
「これで、気がすんだか?二度と来るなよ!」
何事かとのぞいてみると、そこには
通称ドンガバチョと呼ばれるNHKの集金人が
いるではないか。
当時、民放は放送されていなかった。テレビはNHKと
有料のケーブルテレビだけ。私は銀行振り込みに
していたので、直接ドンガバチョと話したことは
ないが、ハクション大魔王の実写版を見ている
ような、まさにその表現がピッタリあてはまる
おじさんだ。この集金人のひつこさは有名で、
居留守を使っても一日に何度もやってくる。
「今、持ち合わせがないから」と断れば、毎日の
ように集金できるまでくるから
さすがに根負けして、みんな払ってしまうらしい。
別にドンガバチョはその恐ろしい風貌で、
「金を払え!」と脅すわけではない。
ボソボソと聞こえるか聞こえないか、ささやく
ような声で「NHKの集金です」と一言、言うだけ。
サラ金の取立てにも慣れている私の友人も
「この、オッサンだけには負けるわ」とぼやいていた。
そこでドンガバチョ対策に頭をひねって、
「そうだ!テレビがなければいい」と思いついた
らしい。「家の中を隅から隅まで、気がすむまで
見てみろどこにテレビがあるんや」(彼も関西人)
これにはさすがのドンガバチョもあきらめて
帰ってしまった。その翌日、今度は友人の隣に住む
オバサンが「ちょっとテレビを預かってくれ」と
持ってきたのには、さすがに驚いた。
これは笑い話ではなくドキュメントだ。
私の住むアパート全員が払わなくなったのだから、
宮古島の団結力は恐ろしい。ドンガバチョの姿を
見かけることもなくなった、今でも元気に
しているのだろうか?
地域の有名人が少なくなったように思う。
