信号待ちをしていると、身体を支えられる
ようにして信号を渡るオジィの姿があった。
本名を出すと心苦しいので仮名を
玉城オジィとしよう。
玉城オジィは伊良部島ではチョイト名の通った
オジィで、昔は手の付けられないほどの
暴れん坊だったそうだ。私が宮古島にきた頃、
海の仕事の関係で大変世話になった。
あの頃で70歳を超えていたはずなので、今は
90歳ということになる。
若い頃はサバニ(クリ船)で台湾→宮古間を
密貿易で何度も往復し、時には海賊まがいのことを
していたらしい。戦時中は敵の砲弾が飛び交う
中で海に飛び込み魚を捕っていたとよく自慢して
いた。身体も大きく身長は180cm、体重は100㌔
はあったと思う。出会った頃もオジィだったが
酒が入ると、波が引くように回りの人が
いなくなる。なぜか私とは気があって、昔話を
物語を語るように身振り手振りを
くわえて話す姿が懐かしい。仕事をやめてから
十数年、伊良部島に住んでいるので
出会うこともなくなっていた。
久しぶりに見た姿は、まったく昔の面影もなく
一歩一歩支えられて歩くのがやっとというような
感じで、おそらく声をかけても私を認識
できないだろう。とても声をかけられるような
気にはならなかった。いつかは自分も歳をとり、
誰かに支えてもらって歩くようになるのか・・・・
横断歩道を渡るわずかな時間であったが、
オジィの昔話しが、つい昨日のことの
ようによみがえる。
