日暮れ、雲が一面赤く染まる頃。
隣家の二階の窓から猫が出てきた。
屋根を伝って向こう側に消えたり、屋根の隙間にもぐりこんだりしたあと、玄関の上の三角屋根に落ち着いた。
あの猫はさっき、うちの仕事場の窓から飛び込んで来て、階段を駆け上がっていった。
上がっちゃだめだよ、もうすぐ窓を閉める時間だから出られなくなるよ。
そう猫に言ったら、「なんですか?」って感じで階段の上からわたしを見ていた。
するとわたしが仕事してる間にちゃんと出たんだな。
夕焼雲はもう暗くなってきた。
猫の屋根も暗くなって、黒猫だから輪郭がぼやけた。
じっとして何してるんかなあ。
と思ったら、わたしも同じことをしてるんだなと気付いた。
わたしは月が見えるかと上って来たんだ、月と木星が接近する日だから。
雲で見えなかったけど。
日が沈んだあとの薄明は、ひとりでいてちょっと寂しくなる方がいい。
一日ごとにさよならをして、さよならの練習をするんだな。
昼間寝てしまって、父の夢を見た。
寝てる場合じゃない時に寝てると父が出てくる。
怒られるわけじゃないけど。だいたい笑ってるけど。