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#473: オーティス・レディング

2012-11-06 | Weblog
1967年12月10日、ソウル・シンガー、オーティス・レディングは、自家用飛行機の事故によって世を去った。
26歳の若さであった。

今回は、彼の歌唱で有名になった代表的なナンバーを2曲、メドレーでお届けする。


まずは死の前年の66年に全米ヒット・チャートに入った“TRY A LITTLE TENDERNESS”。

英国のレグ・コネリーとジミー・キャンベルの二人の作品にアメリカのハリー・ウッズが手を加えた作品である。
1932年に出版された古い歌で、ミュージカル女優のルース・エッティングやビング・クロスビー等が歌ったが、あまりヒットしたという記録は残っていない。
古いオーソドックスなスタンダード・バラードとして細々と歌い継がれてきた曲なのである。

先輩格に当たるサム・クックがライヴ・アルバムで歌っていたのを聴いて、彼を敬愛するオーティスが自分でも歌いたくなったのだという。
力強く、情感をこめてドラマチックに歌い、発表されてから実に34年後に初めてチャート入りしたという珍しい楽曲である。



♪ ♪

内容は女性に対する男性の優しい思いやりの必要性を説いたものだが、もちろん女性が歌っても一向に構わない。

 ♪私は知っている あの娘がかなわぬ夢を追いかけ続けていることを
  そんな娘に ほんの少しでも優しくしてあげてほしい
  それが あなたの役割なんだ ほんの少しでも優しくしてほしい…

スローテンポでゆっくりと歌い始め、徐々に雰囲気を高めていき、エネルギーが充満したところで、一瞬のブレイク、どこまでも果てしない高みに向かって突っ走る。
聴く者のハートがわしづかみにされ遥かかなたへ持っていかれそうになるほどの高揚感がある。

この曲、ジャズ系の歌手では、クリス・コナー(左)、アン・バートン(中)、フランク・シナトラ(右)の三者三様の名唱があり、どれも素晴らしい表現力である。



ただ、オーティスのヒットで、同じソウル系のアレサ・フランクリンをはじめ、次世代のアーティストを含む多くのミュージシャンがこの曲の魅力を再認識、スリー・ドッグ・ナイトのリバイバル・ヒットがこれに続いた。

なお、この曲、64年の映画『博士の異常な愛情』のオープニングに使われたとき、ニューヨーク・タイムズ紙が“SICK JOKE”と評したという(笑)。
なにしろスタンリー・キューブリックの映画だからね(笑)。

♪ ♪ ♪

オーティスが死ぬ3日前に録音され、死後の68年の春に全米トップ・ヒットになったのが“(Sittin' On)The Dock Of The Bay”(ドック・オブ・ベイ)である。

作者はオーティス自身と、白人ながら「ブッカ―T&MG'S」などで活躍したメンフィス・サウンドの立役者、ギタリスト兼プロデューサーのスティーヴ・クロッパー。
クロッパーは「オーティスはいつ、どこででも、時間さえあればギターを手にして曲を作っていた」と語っているが、この曲はオーティスがサンフランシスコ滞在中に大枠が書き上げられたという。

ある暑い朝のこと、まぶしい太陽が眼前のサンフランシスコ湾に降り注ぎ、波と光の饗宴のような美しい光景に触発され、その素直な情感を譜面に綴った。
後にオーティスのマネージャーのアドバイスとクロッパーの協力で完全な作品となった。

波の効果音と耳に残る印象的なベース・ラインのリピートから始まり、途中効果音としてカモメの鳴き声を入れながら、メローなギターが歌いだし、そして最後は口笛とともにフェイドアウト…
オーティス・レディングの墓碑銘ともいうべき名曲で、グラミー賞の最優秀R&B歌曲賞を受賞している。



♪ ♪ ♪ ♪

なぜ多くの人がこの曲に魅かれるのか、それはこの曲にセンチメンタリズムや一種の厭世感、あるいは滅びの美学の要素が濃厚に漂っているからである。
オーティスは67年の秋に喉のポリープの手術を受けていて、それが穏やかで、一抹の寂しさを感じさせる要素となっていると説く人もいる。

何よりも、彼自身が初のナンバーワン・ヒットとなったことを知る由もなく黄泉の国に旅立ったということが聴く者にある種の思い入れをさせていることは否めない。
いずれにしても、この曲に漂う無常感を表現するのに、このときの彼の歌声ほどぴったりするものはない、ということだけは断言できる。

 ♪朝日を浴びて座っている 夕方になっても座っているだろう
  港に入る船を眺めながら そして出港していくのを見ながら

  湾のドックに座って 潮の満ち引きを見ながら
  ただ湾のドックに座って 時間をつぶしている

  故郷のジョージアを離れて フリスコ・ベイ(サンフランシスコ湾)に向かった
  何も生きがいがなかったから 何もいいことが起こりそうになかったから

  だから ただ 湾のドックに座って 潮の満ち引きを見ながら
  湾のドックに座って 時間をつぶしている…

サンフランシスコ湾のドックに座って日がな一日を過ごす男の姿が目に浮かぶようだ。
もっとも、現在の経済情勢その他に鑑みると、「要するにホームレスの歌?」という声が聞こえてきそうな気がするのが、ちょっぴり残念ではある(笑)。

私の愛聴盤は、その昔中古で入手した彼のベスト盤2枚組のLP…



オーティス・レディングの歌はみな汗びっしょりなのである。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪

「一人寂しく」は言い古された言葉だけれども、男の孤独にはどこかユーモラスな面があったりする。

本日の一句

「鍋の具に湯加減を聞く独り者」(蚤助)



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