
西部劇と聖夜の取り合わせというのはミスマッチである。
拳銃やライフルといった銃器とクリスマスのような宗教的要素というのは基本的に相反するものだが、私の知る限り、ジョン・フォードが撮った『三人の名付親』(3 Godfathers‐1948)という作品が、この両者を関連付けた一本である。
(三人の名付親)
寡聞にして他の例を知らないのだが、クリスマス向きの西部劇というのは比較的珍しいのではなかろうか。
この作品はクリスマス興行用に製作されたものだというから、当然といえば当然である。
原作は、日本ではあまり知られていないが、ピーター・B・カインという作家が「サタデイ・イヴニング・ポスト」に掲載した同名小説である。
この小説は五回も映画化されている物語で、そのうち二本をジョン・フォードが監督している。
ちなみに、フォード以外で知られているのは、ウィリアム・ワイラーがチャールズ・ピックフォード主演で撮った『砂漠の生霊』(Hell's Heroes‐1930)という作品で、このストーリーをベースにしている。
フォードは、まず自らのキャリアのごく初期にサイレント映画『恵みの光』(Masked Man‐1919)という作品をハリー・ケリーの主演で撮った。
フォードはサイレント時代にハリー・ケリーが主演した数多くの映画を演出しているのだが、そのリメイク版の『三人の名付親』にはジョン・ウェインを主演に起用し、しかも彼に銀行を襲撃させ、赤子の子守までさせている(笑)。
映画は「初期のウェスタンの輝けるスター、ハリー・ケリーの思い出のために」というような献辞で始まるが、ハリー・ケリーは、本作製作の前年(47年)に他界していた。
この映画には、その息子、ハリー・ケリー・ジュニアが重要な役どころで登場する。
主人公三人組の一人としてである。
以後、フォードは、ジュニアをフォード一家に迎え入れ、主として西部劇の脇役として多くの作品で使うことになるのだが、残念ながら俳優としては、親父を超えることはできなかったようだ。
(左から、ハリー・ケリー・ジュニア、ジョン・ウェイン、ペドロ・アルメンダリス)
西部の三人のお尋ね者(ウェイン、アルメンダリス、ジュニア)は、銀行強盗に失敗し、灼熱の砂漠に逃げ込む。
保安官のウォード・ボンドらに追跡され、水を求めて彷徨う中で、三人は打ち捨てられた馬車を発見する。
馬車の中には、身重の母親(実はボンド保安官の姪)が瀕死の状態で横たわっていた。
三人は苦労した挙句、無事に出産させることに成功して、請われて名付け親となるが、母親は赤ん坊を託したまま亡くなってしまう。
三人は追っ手から逃れつつ、赤子の命を救おうと苦闘し、砂漠をさすらううちに、母親が持っていた一冊の聖書に導かれて、次第に贖罪の旅のようなものになっていく。
やがて、ジュニア、アルメンダリスの順に死んでいくが、二人の思いを受け継いで赤子を抱いたまま歩き続けるジョン・ウェインを、幻となって現れ励まし続ける。
一方、保安官ボンドは、三人が姪を殺した犯人だと誤解したまま、復讐の念に燃えて執拗に跡を追うが、ようやくたどりついた町の酒場で、彼が目撃したのは思いもかけないものであった…

(ジョン・ウェイン)
たとえば、上記のように、宗教的な香りが漂う場面が随所に登場する。
物語の展開に重要な役割を果たすのが聖書であるし、ジョン・ウェインと赤ん坊が町にたどりついたのがちょうどクリスマスの日で、その町の名も「ニュー・エルサレム」である。
三人のお尋ね者は、まるでキリスト誕生の日に現れた三人の聖者のように描かれているのである。
この作品、ウェスタン・フリークとして知られるエッセイストの芦原伸の好著『西部劇を読む事典』(生活人新書)で『必ず観ておきたいクラシック西部劇30選』にリストアップされている1本である。
フォードらしいユーモアとペーソスがほどよくミックスされていて、西部劇というよりは、むしろ舞台を西部に設定したクリスマスの寓話というべき作品かもしれない。
三人組の残りの一人、ペドロ・アルメンダリスは、メキシコの役者で、やはりフォードの作品でアメリカ映画デビューした。
その後各国で活躍したが、『007ロシアより愛をこめて』(1963)で英国情報局のトルコ支局長を演じ、これが遺作となった。
ちなみに、息子のアルメンダリス・ジュニアも007シリーズに出演していた。
三人が保安官らに追われる原因となった銀行強盗について、そのアルメンダリスの吐く意見である…
「銀行強盗より牛泥棒の方が楽だ。牛は撃ってこない」
『ネバダ・スミス』で、ブライアン・キースがスティーヴ・マックィーンに言う「ウサギは撃ってこない」というセリフとまったく同旨である。
ちなみに、この映画をモチーフにして製作された作品は、85年のフランス映画『赤ちゃんに乾杯!』(3 Hommes Et Un Couffin‐コリーヌ・セロー監督)、87年のアメリカ映画『スリーメン&ベビー』(Three Men And A Baby‐エミール・アドリアーノ監督)などがあり、いずれも続編が製作されるほどのヒット映画になった。
拳銃やライフルといった銃器とクリスマスのような宗教的要素というのは基本的に相反するものだが、私の知る限り、ジョン・フォードが撮った『三人の名付親』(3 Godfathers‐1948)という作品が、この両者を関連付けた一本である。

寡聞にして他の例を知らないのだが、クリスマス向きの西部劇というのは比較的珍しいのではなかろうか。
この作品はクリスマス興行用に製作されたものだというから、当然といえば当然である。
原作は、日本ではあまり知られていないが、ピーター・B・カインという作家が「サタデイ・イヴニング・ポスト」に掲載した同名小説である。
この小説は五回も映画化されている物語で、そのうち二本をジョン・フォードが監督している。
ちなみに、フォード以外で知られているのは、ウィリアム・ワイラーがチャールズ・ピックフォード主演で撮った『砂漠の生霊』(Hell's Heroes‐1930)という作品で、このストーリーをベースにしている。
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フォードは、まず自らのキャリアのごく初期にサイレント映画『恵みの光』(Masked Man‐1919)という作品をハリー・ケリーの主演で撮った。
フォードはサイレント時代にハリー・ケリーが主演した数多くの映画を演出しているのだが、そのリメイク版の『三人の名付親』にはジョン・ウェインを主演に起用し、しかも彼に銀行を襲撃させ、赤子の子守までさせている(笑)。
映画は「初期のウェスタンの輝けるスター、ハリー・ケリーの思い出のために」というような献辞で始まるが、ハリー・ケリーは、本作製作の前年(47年)に他界していた。
この映画には、その息子、ハリー・ケリー・ジュニアが重要な役どころで登場する。
主人公三人組の一人としてである。
以後、フォードは、ジュニアをフォード一家に迎え入れ、主として西部劇の脇役として多くの作品で使うことになるのだが、残念ながら俳優としては、親父を超えることはできなかったようだ。

(左から、ハリー・ケリー・ジュニア、ジョン・ウェイン、ペドロ・アルメンダリス)
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西部の三人のお尋ね者(ウェイン、アルメンダリス、ジュニア)は、銀行強盗に失敗し、灼熱の砂漠に逃げ込む。
保安官のウォード・ボンドらに追跡され、水を求めて彷徨う中で、三人は打ち捨てられた馬車を発見する。
馬車の中には、身重の母親(実はボンド保安官の姪)が瀕死の状態で横たわっていた。
三人は苦労した挙句、無事に出産させることに成功して、請われて名付け親となるが、母親は赤ん坊を託したまま亡くなってしまう。
三人は追っ手から逃れつつ、赤子の命を救おうと苦闘し、砂漠をさすらううちに、母親が持っていた一冊の聖書に導かれて、次第に贖罪の旅のようなものになっていく。
やがて、ジュニア、アルメンダリスの順に死んでいくが、二人の思いを受け継いで赤子を抱いたまま歩き続けるジョン・ウェインを、幻となって現れ励まし続ける。
一方、保安官ボンドは、三人が姪を殺した犯人だと誤解したまま、復讐の念に燃えて執拗に跡を追うが、ようやくたどりついた町の酒場で、彼が目撃したのは思いもかけないものであった…
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(ジョン・ウェイン)
たとえば、上記のように、宗教的な香りが漂う場面が随所に登場する。
物語の展開に重要な役割を果たすのが聖書であるし、ジョン・ウェインと赤ん坊が町にたどりついたのがちょうどクリスマスの日で、その町の名も「ニュー・エルサレム」である。
三人のお尋ね者は、まるでキリスト誕生の日に現れた三人の聖者のように描かれているのである。
この作品、ウェスタン・フリークとして知られるエッセイストの芦原伸の好著『西部劇を読む事典』(生活人新書)で『必ず観ておきたいクラシック西部劇30選』にリストアップされている1本である。
フォードらしいユーモアとペーソスがほどよくミックスされていて、西部劇というよりは、むしろ舞台を西部に設定したクリスマスの寓話というべき作品かもしれない。
三人組の残りの一人、ペドロ・アルメンダリスは、メキシコの役者で、やはりフォードの作品でアメリカ映画デビューした。
その後各国で活躍したが、『007ロシアより愛をこめて』(1963)で英国情報局のトルコ支局長を演じ、これが遺作となった。
ちなみに、息子のアルメンダリス・ジュニアも007シリーズに出演していた。
三人が保安官らに追われる原因となった銀行強盗について、そのアルメンダリスの吐く意見である…
「銀行強盗より牛泥棒の方が楽だ。牛は撃ってこない」
『ネバダ・スミス』で、ブライアン・キースがスティーヴ・マックィーンに言う「ウサギは撃ってこない」というセリフとまったく同旨である。
ちなみに、この映画をモチーフにして製作された作品は、85年のフランス映画『赤ちゃんに乾杯!』(3 Hommes Et Un Couffin‐コリーヌ・セロー監督)、87年のアメリカ映画『スリーメン&ベビー』(Three Men And A Baby‐エミール・アドリアーノ監督)などがあり、いずれも続編が製作されるほどのヒット映画になった。
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本日の一句
「火の車知らず乳飲み子欠伸する」(蚤助)