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#120: 雨の午後

2009-03-07 | Weblog
雨が上がったばかりの舗道をコートを着て歩いている長身の青年。

父親は舞台俳優でした。1956年にウィリアム・ワイラー監督の「友情ある説得」(The Friendly Persuasion」でゲイリー・クーパーとドロシー・マクガイア夫妻の長男坊を演じ複雑な内面をデリケートに表現しました。その後、アンソニー・マンのウエスタンの名作「胸に輝く星」(The Tin Star-1957)でヘンリー・フォンダから拳銃指南をしてもらうひ弱な若い保安官をやったり、スタンリー・クレイマーの近未来ドラマの秀作「渚にて」(On The Beach-1959)ではグレゴリー・ペック、エヴァ・ガードナー、フレッド・アステアなどと共演するなど瑞々しい演技を見せてくれました。

彼の名はアンソニー(トニー)・パーキンス。1950~60年代には「トニパキ」として若い女性の憧れの俳優の一人でした。そして何よりも彼の名を高くしたのが、1960年にアルフレッド・ヒッチコックの「サイコ」(Psycho)に主人公のノーマン・ベイツ役で出演したことで、観客に強烈な印象を残すことになりました。これが、彼の後のキャリアを良くも悪しくも決定づけてしまうことになりました。この翌年の1961年、フランソワーズ・サガンの小説「ブラームスはお好き」をアナトール・リトヴァク監督が映画化した「さよならをもう一度」(Goodbye Again)に出演しました。この映画はどちらかといえば、蚤助が苦手とするダラダラと煮え切らないメロドラマですが、トニパキは青年の一途な思いを母性本能をくすぐるような演技でナイーヴに表現しています。画像のように雨の中を立ち尽くすシーンなどは実に絵になっていました。共演はイングリッド・バーグマン、イヴ・モンタンでこの映画で彼はカンヌ映画祭男優賞を獲得、彼のキャリアの頂点を迎えることになります。また1974年にはアガサ・クリスティの原作をシドニー・ルメットが映画化した「オリエント急行殺人事件」(Murder On The Orient Express)に出演、渋さを加えた個性的な演技を見せて注目されました。

ところで、彼は1958年にオードリー・へプバーンの夫君であったメル・ファーラーが監督した「緑の館」(Green Mansions)でオードリーと共演しましたが、この映画の中で自ら歌を披露するシーンがあります。なかなかの美声の持ち主で味のある歌でしたが、ご承知の通り、彼には「月影の渚」(Moonlight Swim)というビッグヒット曲もある歌える俳優でもありました。何枚かアルバムも出していますが、画像は「On A Rainy Afternoon」という1958年リリースの作品です。ハル・マクジック、ジミー・クリーヴランド、ジェローム・リチャードソン等々の腕利きのジャズ・ミュージシャンをバックにスタンダード曲を気持ちよさそうに歌っています。

トニパキは同性愛や薬物不法所持などのスキャンダルで俳優のキャリアを妨げてしまい、晩年はかつての出世作「サイコ」の続編等に主演する程度で彼のナイーヴな個性を活かしきれなかったのが残念です。1992年にエイズで亡くなりました。「月影の渚」は彼のバリバリのアイドル時代、幸福な時代の想い出の結晶のような曲といえるかもしれません。

「東京に賢治のあめゆじゅ降った朝」(蚤助)


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Unknown (蚤助)
2009-03-07 14:18:28
アンソニー・パーキンスは1978年に女優のベリー・ベレンソンと結婚しましたが、彼女は2001年9月11日、アメリカ同時多発テロ事件で世界貿易センタービルに最初に突入した飛行機に乗客として乗り合わせていて死亡しました。奇しくも、パーキンスの命日の前日のことでした。
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