ピュリッツァー賞を受賞したジェームズ・ミッチェナーの『南太平洋物語』(Tales Of The South Pacific)は、第二次世界大戦中の南太平洋の島を舞台にした短編小説集で、これを元にしたのがミュージカル『南太平洋』(South Pacific)である。
リチャード・ロジャース&オスカー・ハマースタインⅡ世のコンビは43年の『オクラホマ!』から59年の『サウンド・オブ・ミュージック』まで合計9編のミュージカルを作っているが、これは第4作目にあたる。
49年ブロードウェイで幕が上がった初演ステージは54年まで足かけ6年1925回に及ぶロングランを記録、トニー賞8部門に輝いた。
この大ヒット・ミュージカルからはいくつものヒット曲が生まれた。
“バリ・ハイ”(Bali Hai)、“ワンダフル・ガイ”(A Wonderful Guy)、“春よりも若く”(Younger Than Springtime)、“ハッピー・トーク”(Happy Talk)、ほかにも佳曲が散りばめられているが、最大のショウストッパーは“魅惑の宵”(Some Enchanted Evening)で、全米チャートに6ヴァージョンがトップ・テン入り、全米ナンバーワンにもなるというメガ・ヒット曲となった。
ロジャース&ハマースタインは初演の主役を務めたミュージカルの女王メリー・マーティンとメトロポリタン・オペラの名高いバス歌手エツィオ・ピンザを想定して曲を書いたという。
大スターの二人が歌で競合しないように、女性には若々しく活発でいかにもヤンキー娘らしい歌を、男性にはソウルフルでハートフルな歌をということで、ランザがこの曲を歌うこととなった。
メリー・マーティンはこの曲を聴いてこのミュージカルに出演することを決心したという。
ピンザの歌う“魅惑の宵”は、貫禄十分で、オリジナル・キャスト盤はアルバム・チャートで1年以上も1位を続け、シングル・カットされたランザの歌は全米7位にランクされた(こちら)。
58年には、ブロードウェイで演出を担当したジョシュア・ローガンが自らメガホンをとって映画化、映画のサウンドトラック盤とともに、日本でも大ヒットした。
当然ながら、舞台版の方は知らないので映画版について少し語っておこう。
南太平洋に浮かぶ美しい小島にも太平洋戦争の影がしのびよっている。、ある日、特別任務を帯びて米軍のケーブル中尉(ジョン・カー)がやってくる。戦前から島に住むフランス人の農場主エミール(ロッサノ・ブラッツィ)に、日本軍の動向偵察のためガイド役を頼もうというのだった。だが、エミールは美しい従軍看護婦ネリー(ミッツィ・ゲイナー)に想いを寄せており、彼女も彼に好意を持っていて、危険を伴う任務を承知するはずもなかった。
ケーブルは、島で兵隊相手の土産売りをしているブラディ・メリー(ファニタ・ホール)の案内で魅惑の島バリ・ハイの見物に出かける。ここで彼はメリーの娘リアット(フランス・ニュイエン)に紹介され一目惚れしてしまう。メリーはケーブルを娘婿にしようと思っているが、ケーブルの方は、人種問題が頭をよぎってなかなか決断できない。メリーはリアットに彼と逢うことを禁じてしまう。
エミールの農場では、ネリーが幸福感に酔いしれていたが、いつも農園にいる二人の子供が、ポリネシア人の亡妻とエミールとの間の子供であることを知り、ショックを受け彼のもとを去ってしまう。エミールは失意のあまり偵察のガイド役を承諾し、ケーブルとともに日本軍のいる島に渡って偵察することに成功したが、ケーブルは戦死、エミールも行方不明となってしまう。ネリーはエミールをいかに愛していたか初めて知り、二人の子供とともに彼の無事を祈ることにする…
通常、舞台ミュージカルの映画化といえば、様々な理由でミュージカル・ナンバーの追加や削除など変更が行われるものだが、この作品はオリジナルの楽曲がすべて過不足なく使用されたという。
舞台演出をしたローガンが監督したということもあっただろうが、ロジャース&ハマースタインの音楽がそれだけ高い完成度を持っていたということなのだろう。
さらに、2か月間ハワイのカウアイ島で行われたというレオン・シャムロイによるロケーション撮影が素晴らしい。
だが、カラー・フィルターをかけた余計な色彩処理を行っているのが難点である。
ローガンはステージでの照明転換を意識したと弁解しているが、正直言って折角の美しい色彩と風景が台無しであるし、さらには長尺過ぎていささか大味な印象を与えるのが残念である。
ただ、ネリー役のミッツィ・ゲイナーの歌いぶり、舞台でもブラディ・メリーを演じたファニタ・ホールの存在感が素晴らしい。
“魅惑の宵”は初老の農場主エミールが若い女性看護師ネリーに年の差を越えて自分の思いを告げるナンバーで、ロッサノ・ブラッツィの歌はイタリアの歌手ジョルジオ・トッツィによる吹き替えである(こちら)。
エミールがネリーに“魅惑の宵”を歌って愛を告白している頃、近くの島では旧日本軍が飢えや病気に悩まされながら、ジャングルの中で苦闘していたかも知れないのだ。
そう考えると、このミュージカルを楽しく観るのもなかなかシンドイ…。
ヴォーカルではペリー・コモ、ビング・クロスビー、フランク・シナトラ、ジョー・スタッフォードなどどれも素敵だが、特にペリー・コモはミッチェル・エアーズ・オーケストラの伴奏によるSP盤が日本でのデビュー(50年)だったということもあって、この曲の大本命と評する向きが多い。
比較的最近では、2007年にアート・ガーファンクルがこの曲をタイトルにしたスタンダード曲集を発表し、少しジャズっぽい歌唱を聴かせている(こちら)。
この曲、多くの人にとっては、おそらくマントヴァーニのオーケストレーションで耳に馴染んでいるのではないだろうか(こちら)。
マントヴァーニ・オーケストラの特徴であるカスケーディング・ストリングス(滝が流れ落ちるようなサウンドのストリングス)が見事な効果を挙げている。
マントヴァーニが出たところで、もうひとつ、マントヴァーニの作った“カラ・ミア”(Cara Mia)を大ヒットさせたジェイ&アメリカンズが、“カラ・ミア”に続くヒットを狙って1965年にこの曲を録音している(こちら)。
リード・ヴォーカルのジェイ・ブラックがこれを録音したのは、有名な歌を取り上げて実力を証明したかったからだというが、彼のパワフルなハイテノールは、この種の朗々とした歌には余りにもピッタリである。
ストリングスを交えた力強いアップ・ビートに乗せてコーラスが絡み合い美しいハーモニーを醸しだしている。
エンディングの“Once you have found her, never let her go!”(ひとたび愛する人を見つけたら決して彼女を離してはいけない)のところなどはまことにドラマチックなクライマックスでシビレること請け合いだ(笑)。
すこぶる上等のロック・ヴァージョンである。
リチャード・ロジャース&オスカー・ハマースタインⅡ世のコンビは43年の『オクラホマ!』から59年の『サウンド・オブ・ミュージック』まで合計9編のミュージカルを作っているが、これは第4作目にあたる。
49年ブロードウェイで幕が上がった初演ステージは54年まで足かけ6年1925回に及ぶロングランを記録、トニー賞8部門に輝いた。
この大ヒット・ミュージカルからはいくつものヒット曲が生まれた。
“バリ・ハイ”(Bali Hai)、“ワンダフル・ガイ”(A Wonderful Guy)、“春よりも若く”(Younger Than Springtime)、“ハッピー・トーク”(Happy Talk)、ほかにも佳曲が散りばめられているが、最大のショウストッパーは“魅惑の宵”(Some Enchanted Evening)で、全米チャートに6ヴァージョンがトップ・テン入り、全米ナンバーワンにもなるというメガ・ヒット曲となった。
ロジャース&ハマースタインは初演の主役を務めたミュージカルの女王メリー・マーティンとメトロポリタン・オペラの名高いバス歌手エツィオ・ピンザを想定して曲を書いたという。
大スターの二人が歌で競合しないように、女性には若々しく活発でいかにもヤンキー娘らしい歌を、男性にはソウルフルでハートフルな歌をということで、ランザがこの曲を歌うこととなった。
メリー・マーティンはこの曲を聴いてこのミュージカルに出演することを決心したという。
ピンザの歌う“魅惑の宵”は、貫禄十分で、オリジナル・キャスト盤はアルバム・チャートで1年以上も1位を続け、シングル・カットされたランザの歌は全米7位にランクされた(こちら)。
58年には、ブロードウェイで演出を担当したジョシュア・ローガンが自らメガホンをとって映画化、映画のサウンドトラック盤とともに、日本でも大ヒットした。
当然ながら、舞台版の方は知らないので映画版について少し語っておこう。
南太平洋に浮かぶ美しい小島にも太平洋戦争の影がしのびよっている。、ある日、特別任務を帯びて米軍のケーブル中尉(ジョン・カー)がやってくる。戦前から島に住むフランス人の農場主エミール(ロッサノ・ブラッツィ)に、日本軍の動向偵察のためガイド役を頼もうというのだった。だが、エミールは美しい従軍看護婦ネリー(ミッツィ・ゲイナー)に想いを寄せており、彼女も彼に好意を持っていて、危険を伴う任務を承知するはずもなかった。
ケーブルは、島で兵隊相手の土産売りをしているブラディ・メリー(ファニタ・ホール)の案内で魅惑の島バリ・ハイの見物に出かける。ここで彼はメリーの娘リアット(フランス・ニュイエン)に紹介され一目惚れしてしまう。メリーはケーブルを娘婿にしようと思っているが、ケーブルの方は、人種問題が頭をよぎってなかなか決断できない。メリーはリアットに彼と逢うことを禁じてしまう。
エミールの農場では、ネリーが幸福感に酔いしれていたが、いつも農園にいる二人の子供が、ポリネシア人の亡妻とエミールとの間の子供であることを知り、ショックを受け彼のもとを去ってしまう。エミールは失意のあまり偵察のガイド役を承諾し、ケーブルとともに日本軍のいる島に渡って偵察することに成功したが、ケーブルは戦死、エミールも行方不明となってしまう。ネリーはエミールをいかに愛していたか初めて知り、二人の子供とともに彼の無事を祈ることにする…
通常、舞台ミュージカルの映画化といえば、様々な理由でミュージカル・ナンバーの追加や削除など変更が行われるものだが、この作品はオリジナルの楽曲がすべて過不足なく使用されたという。
舞台演出をしたローガンが監督したということもあっただろうが、ロジャース&ハマースタインの音楽がそれだけ高い完成度を持っていたということなのだろう。
さらに、2か月間ハワイのカウアイ島で行われたというレオン・シャムロイによるロケーション撮影が素晴らしい。
だが、カラー・フィルターをかけた余計な色彩処理を行っているのが難点である。
ローガンはステージでの照明転換を意識したと弁解しているが、正直言って折角の美しい色彩と風景が台無しであるし、さらには長尺過ぎていささか大味な印象を与えるのが残念である。
ただ、ネリー役のミッツィ・ゲイナーの歌いぶり、舞台でもブラディ・メリーを演じたファニタ・ホールの存在感が素晴らしい。
“魅惑の宵”は初老の農場主エミールが若い女性看護師ネリーに年の差を越えて自分の思いを告げるナンバーで、ロッサノ・ブラッツィの歌はイタリアの歌手ジョルジオ・トッツィによる吹き替えである(こちら)。
Some enchanted evening you may see a stranger
you may see a stranger across a crowded room
And somehow you know, you know even then
That somewhere you'll see her again again…
ある魅力的な夜のこと その人の姿を見るかもしれない
客であふれた部屋の向こうに その人の姿を
そしてなぜか分かるのだ その時にはもう分かってしまう
きっとどこかで 何度も彼女に会うことになるだろうと
ある魅力的な夜のこと 多分その人は笑っているだろう
客であふれた部屋の向こうから その笑い声が耳に届く
すると毎晩 思えば不思議だが
彼女の笑い声が夢の中で 歌うように響くのだ
誰にも説明できない 誰にもなぜかわからない
詮索するのは愚か者 賢い人は微笑むだけ
ひとたび愛する人を見つけたら 決して彼女を離してはいけない…
you may see a stranger across a crowded room
And somehow you know, you know even then
That somewhere you'll see her again again…
ある魅力的な夜のこと その人の姿を見るかもしれない
客であふれた部屋の向こうに その人の姿を
そしてなぜか分かるのだ その時にはもう分かってしまう
きっとどこかで 何度も彼女に会うことになるだろうと
ある魅力的な夜のこと 多分その人は笑っているだろう
客であふれた部屋の向こうから その笑い声が耳に届く
すると毎晩 思えば不思議だが
彼女の笑い声が夢の中で 歌うように響くのだ
誰にも説明できない 誰にもなぜかわからない
詮索するのは愚か者 賢い人は微笑むだけ
ひとたび愛する人を見つけたら 決して彼女を離してはいけない…
エミールがネリーに“魅惑の宵”を歌って愛を告白している頃、近くの島では旧日本軍が飢えや病気に悩まされながら、ジャングルの中で苦闘していたかも知れないのだ。
そう考えると、このミュージカルを楽しく観るのもなかなかシンドイ…。
ヴォーカルではペリー・コモ、ビング・クロスビー、フランク・シナトラ、ジョー・スタッフォードなどどれも素敵だが、特にペリー・コモはミッチェル・エアーズ・オーケストラの伴奏によるSP盤が日本でのデビュー(50年)だったということもあって、この曲の大本命と評する向きが多い。
比較的最近では、2007年にアート・ガーファンクルがこの曲をタイトルにしたスタンダード曲集を発表し、少しジャズっぽい歌唱を聴かせている(こちら)。
この曲、多くの人にとっては、おそらくマントヴァーニのオーケストレーションで耳に馴染んでいるのではないだろうか(こちら)。
マントヴァーニ・オーケストラの特徴であるカスケーディング・ストリングス(滝が流れ落ちるようなサウンドのストリングス)が見事な効果を挙げている。
マントヴァーニが出たところで、もうひとつ、マントヴァーニの作った“カラ・ミア”(Cara Mia)を大ヒットさせたジェイ&アメリカンズが、“カラ・ミア”に続くヒットを狙って1965年にこの曲を録音している(こちら)。
リード・ヴォーカルのジェイ・ブラックがこれを録音したのは、有名な歌を取り上げて実力を証明したかったからだというが、彼のパワフルなハイテノールは、この種の朗々とした歌には余りにもピッタリである。
ストリングスを交えた力強いアップ・ビートに乗せてコーラスが絡み合い美しいハーモニーを醸しだしている。
エンディングの“Once you have found her, never let her go!”(ひとたび愛する人を見つけたら決して彼女を離してはいけない)のところなどはまことにドラマチックなクライマックスでシビレること請け合いだ(笑)。
すこぶる上等のロック・ヴァージョンである。
星の名を知って夜空に魅惑され(蚤助)