先日、愛用していた竹刀が折れてしまった。
その竹刀との出会いは、私如きが口にする様な立場ではないが、あまり恵まれた出会いではなかった事を思い出す。
大変失礼な話であるが、とある武道具店で付き合い程度に購入したものである。
付き合いとはいえ、決して安い買物ではなかった。
早速稽古で、その竹刀を手にして愕然とした。 とても使いづらいのである。
相手の中心を攻めるのに焦点が定まらない。 振れば剣先がモサモサして、打突も点で捕らえられず、切ったという感覚は全くない。 私如きが言うのは大変失礼だが。
「高い買物をしてしまったな・・・」購入当時の自分を振り返る。
その後も、使えど使えど全く相性が宜しくなく、苛立ちが積もるばかりだった。
ある日、ちょっとしたひらめきで、振り方を変えてみたところ、信じられない程その竹刀は空を滑るように自然と動き、相手を捕らえる事が出来た。
「なるほど・・」っとその竹刀がまるで命令するかの様に同じ振り方を繰り返し、さらにそこから広がる新たな技も出来るようになった。
「弘法筆を選ばず・・」という言葉があるが、まさにその通り、この竹刀の使い方を瞬時に感じ、巧みに操る。 私がこの竹刀の最適な使用方法を体得した時には竹刀は大分草臥れていた。 竹刀は黙って私が上手く操るのを待っていたのである。
この竹刀は私如きが使うような竹刀ではなかったのかも知れない。 もっと良い出会いをして有効に使ってもらえる先生が他にいたのではないか?と反省。
また、長い間私に教えていただいた事への感謝の気持ちで一礼し、折れた竹刀を磨き直し、自分に対する戒めの為、部屋に飾る事にした。
竹刀一本、防具一組、服装ひとつ、道具は使い方一つで自分を正しい方向へ導いてくれるものである。
購入する際は、自分の立場に似合った道具を慎重に購入し、また持った以上は愛着をもって道具と向き合い、さらなる修行を続けて行きたいと今更考える。