「概念訳」●ダイヤモンド・ドッグス
DAVID BOWIE
未来の伝説
Future Legends
………そして、死が世界をおおった。
わずかばかり残った屍体がぬかるみの
路上で腐ってゆく。関りを断って貧し
くひっそりと隠れ棲んでいた者達の建
物のシャッターが、いま、ほんの数イ
ンチ開いている。また、窃みによって
生き続けてきた者達の丘、その上から
いまミュータントの赤い目が下の方に
ひろがる飢餓の都市を見つめている。
――そこにはもう自動車がなく、鼠の
ように大きな蚤が猫のように大きな鼠
たちの血を吸い、およそ一万の奇形化
人種がいくつもの小群族に分裂して、
いまや廃屋と化した摩天楼群の、一番
高いのを争っている。――また一方で
は、かつてひ弱な人間達がもの欲しげ
にうごめいた大通りで、一群の犬たち
が店々のウインドウを襲い、ミンク、
銀狐などの高級毛皮や宝石類を襲う。
毛皮は足を暖めるために、そしてエメ
ラルドやサファイアは自分達のグルー
プのバッジとして……。――いまや、
毎日がダイヤモンド・ドッグスの年だ。
「ロックなんか手ぬるいぜ。むしろ、
もうジェノサイド(みな殺し)だァ」
ダイヤモンド・ドッグス
Diamond Dogs
(よくみてごらん、犬しかいない、という
歌)
居心地のいい酸素テントから
きみはもうとっくに外に引っぱり出さ
れているんだ
ごまかしちゃいけない
ここは戦場さ
きみだってきのうなんか
最新式の受験参考書なんか買ったじゃない
そうだよ
目をこすってよく見た方がいいよ
ここにはもう人間なんか生きてやしない
どぶ板の上をちょこちょこ走り
腐肉をあさる犬の群
生もみじめ
死もみじめ
ただただ極度に無責任に
都市を跳梁して生きるのみ
そういうふうにきみも
覚悟を決めた方がいいぜ
Sweet Thing
(女が男をセックスにさそう歌だよ)
ビルの廊下でしたって
だれもとがめはしないわ
都市ってそ~ゆ~ところなのよ
ドアのカーテンを破って
中の人にも見せてやりましょうよ
みんな心の底では
痛みのようなものを感じるはずよ
それはステキなことじゃない?
そう、私はこわいの
淋しいの
こうして今あなたを誘惑するのも
広場のまん中に走っていって
叫び声をあげるかわりなの。
心配しないで
とってもいいことよ
Candidate/Sweet Thing
Reprise
(未来人候補生の、みじめな現状の歌)
後悔してるの?
無茶なことしたって?
だめよ、もう諦めなさい
いまさら自分をごまかすことなんか
できはしないでしょ
そうよ
欲しいのなら
いまとりなさい
いまつかみなさい
むつかしくはないのよ
高くはないのよ
やさしいことよ
もうあともどりは出来ないのよ
気持のいいことよ
お金はいらないわ
こんなこと
お金をもらうほどのことじゃないもの
私のこと気づかってくれて
とても嬉しいわ
こんなにいいことがもしも
二人の不幸の原因になるというのなら
いいの、わたし
あなたと一緒に死刑になったって
手に手をとって
流れに飛びこんだんだから
この安っぽいたわいない望みが
私たちにとっては
唯一至上の望みだったんだから
そうよ
覚悟を決めるべきなのよ
Rebel,Rebel
(子供にむかってのアジ)
子供たちよ
反抗できるのはせいぜい
きみたちだけなんだから
はたち以上の大人は今
もうぜんぜんダメなんだから
精一杯反抗して
きみたちが
未来社会の基礎をつくるんだ
そうだよ、やるべきなのだ
学校
に対しては
登校拒否を
貨幣制度に対しては
万引を
性の観念に対しては
×××を
でもこんなこと書くと
ロッキングオンも
「未成年教唆」で
とっつかまっちゃうかなあ
ヤバイなあ
だァめだなあ
いいものはロックだけ
Rock'n Roll With Me
(ロックしか納得できるものはない、
という歌)
必然的に世をすねて
斜に構えて生きてきたぼくだけど
本当にいいものに
たったひとつ出会ったなあ
それはロックそして
いっしょにロックしてくれるきみ
そうさ
ロックの中にいるときだけは
生きてて良かったと思うんだ
きみとロックで結ばれてるときだけは
生きることは正しいと思えるんだ
優しさがなんの役にも立たない今の時代で
どうやって生きてったらいいのか
かいもく解らない世の中だけど
ロックだけはなぜか
すごくたしかな手がかりのような
気がするんだ
We Are The Dead
(なんにもできないぼくらは死人だという歌)
単に仕事の関係で知り合ったにすぎな
いけど、ぼくはふと、あなたの目の奥
をのぞいてみたい気がしたのです。あ
なたも、ぼくと同じことを考えてる人
かもしれない、という気がして。
つらい毎日。まるっきり不本意な毎日
の生き方。死んでるのと同じなぼくた
ちだ。
(でも、いつかはきっと、こんなバカ
げた世の中なんかひっくり返ると思う。
そうだよ、ぼくらの子供達を信じよう。)
ぼくらはいずれとっつかまって、牢屋
にぶちこまれ、ゴーモンを受けて、転
向させられるかもしれないけど、しょう
がないよ。いますでにぼくらは、死ん
でるのと同じなんだから。
1984
(いますでに一九八四年、世の中は凍結
してる、という歌)
ここ数年ロックびたりで
ゴキゲンなぼくらだったけど
実はすでに
一九八四年になってるのかもしれない
気をつけろ
やつらはきみをつかまえて
きみの頭の中に
空気をつめこもうとしてるんだ
さからってもムダかもしれない
あせってもムダかもしれない
あのバカな大人たちが
そのバカさかげんのすべてを
きみに強制的に押しつけようと
がんばっているのだ
だからいますでに
一九八四年だ
ああ、乗り物が欲しい
逃げ出せるための乗り物がほしい
一九六五年頃の
希望と活気にあふれていた
あの時代がもう一度ぼくはほしい
Big Brother
(メサイアの出現を希求する歌)
ゴミやバラについて語るな
自分の花をたたきつぶせ
割れ裂けよ
そして
鋼鉄のように
無機的な強さを身につけよ
罪を犯したときから
すべては本当に始まるのだ
世を救え
七つの大陸を救え
「人間」を糾弾せよ
勇敢なアポロとなって
人間を恥辱の自覚の泥沼に
全員死滅させよ
つまり、きみ自身が
絶対に肯定的な存在になれ
でもわからない
だからといってどうしたらいいのか
いまのぼくにはわからない
そんなことは
まるっきりつまらないことのようにも
思えるし
ほんとに
ど―したらいいのかわからない
がいこつ家族の歌
(ワレワレの貧相な現状をずばりうたった歌)
ぼくらは死人ですらない
もはや骸骨
がいこつになると
だれがだれだが
よく見分けもつかない
だれがだれを愛してるのか
愛してないのか
そんなこともわからない
みんな兄弟みたいで
なんだかコッケイで
なんだべさ
コレワ?
そう
ぼくらがいこつ
がいこつ家族
岩谷宏
―「ROCKIN’ON ロッキングオン」1974年11月号
№13 20~23ページより
DAVID BOWIE
未来の伝説
Future Legends
………そして、死が世界をおおった。
わずかばかり残った屍体がぬかるみの
路上で腐ってゆく。関りを断って貧し
くひっそりと隠れ棲んでいた者達の建
物のシャッターが、いま、ほんの数イ
ンチ開いている。また、窃みによって
生き続けてきた者達の丘、その上から
いまミュータントの赤い目が下の方に
ひろがる飢餓の都市を見つめている。
――そこにはもう自動車がなく、鼠の
ように大きな蚤が猫のように大きな鼠
たちの血を吸い、およそ一万の奇形化
人種がいくつもの小群族に分裂して、
いまや廃屋と化した摩天楼群の、一番
高いのを争っている。――また一方で
は、かつてひ弱な人間達がもの欲しげ
にうごめいた大通りで、一群の犬たち
が店々のウインドウを襲い、ミンク、
銀狐などの高級毛皮や宝石類を襲う。
毛皮は足を暖めるために、そしてエメ
ラルドやサファイアは自分達のグルー
プのバッジとして……。――いまや、
毎日がダイヤモンド・ドッグスの年だ。
「ロックなんか手ぬるいぜ。むしろ、
もうジェノサイド(みな殺し)だァ」
ダイヤモンド・ドッグス
Diamond Dogs
(よくみてごらん、犬しかいない、という
歌)
居心地のいい酸素テントから
きみはもうとっくに外に引っぱり出さ
れているんだ
ごまかしちゃいけない
ここは戦場さ
きみだってきのうなんか
最新式の受験参考書なんか買ったじゃない
そうだよ
目をこすってよく見た方がいいよ
ここにはもう人間なんか生きてやしない
どぶ板の上をちょこちょこ走り
腐肉をあさる犬の群
生もみじめ
死もみじめ
ただただ極度に無責任に
都市を跳梁して生きるのみ
そういうふうにきみも
覚悟を決めた方がいいぜ
Sweet Thing
(女が男をセックスにさそう歌だよ)
ビルの廊下でしたって
だれもとがめはしないわ
都市ってそ~ゆ~ところなのよ
ドアのカーテンを破って
中の人にも見せてやりましょうよ
みんな心の底では
痛みのようなものを感じるはずよ
それはステキなことじゃない?
そう、私はこわいの
淋しいの
こうして今あなたを誘惑するのも
広場のまん中に走っていって
叫び声をあげるかわりなの。
心配しないで
とってもいいことよ
Candidate/Sweet Thing
Reprise
(未来人候補生の、みじめな現状の歌)
後悔してるの?
無茶なことしたって?
だめよ、もう諦めなさい
いまさら自分をごまかすことなんか
できはしないでしょ
そうよ
欲しいのなら
いまとりなさい
いまつかみなさい
むつかしくはないのよ
高くはないのよ
やさしいことよ
もうあともどりは出来ないのよ
気持のいいことよ
お金はいらないわ
こんなこと
お金をもらうほどのことじゃないもの
私のこと気づかってくれて
とても嬉しいわ
こんなにいいことがもしも
二人の不幸の原因になるというのなら
いいの、わたし
あなたと一緒に死刑になったって
手に手をとって
流れに飛びこんだんだから
この安っぽいたわいない望みが
私たちにとっては
唯一至上の望みだったんだから
そうよ
覚悟を決めるべきなのよ
Rebel,Rebel
(子供にむかってのアジ)
子供たちよ
反抗できるのはせいぜい
きみたちだけなんだから
はたち以上の大人は今
もうぜんぜんダメなんだから
精一杯反抗して
きみたちが
未来社会の基礎をつくるんだ
そうだよ、やるべきなのだ
学校
に対しては
登校拒否を
貨幣制度に対しては
万引を
性の観念に対しては
×××を
でもこんなこと書くと
ロッキングオンも
「未成年教唆」で
とっつかまっちゃうかなあ
ヤバイなあ
だァめだなあ
いいものはロックだけ
Rock'n Roll With Me
(ロックしか納得できるものはない、
という歌)
必然的に世をすねて
斜に構えて生きてきたぼくだけど
本当にいいものに
たったひとつ出会ったなあ
それはロックそして
いっしょにロックしてくれるきみ
そうさ
ロックの中にいるときだけは
生きてて良かったと思うんだ
きみとロックで結ばれてるときだけは
生きることは正しいと思えるんだ
優しさがなんの役にも立たない今の時代で
どうやって生きてったらいいのか
かいもく解らない世の中だけど
ロックだけはなぜか
すごくたしかな手がかりのような
気がするんだ
We Are The Dead
(なんにもできないぼくらは死人だという歌)
単に仕事の関係で知り合ったにすぎな
いけど、ぼくはふと、あなたの目の奥
をのぞいてみたい気がしたのです。あ
なたも、ぼくと同じことを考えてる人
かもしれない、という気がして。
つらい毎日。まるっきり不本意な毎日
の生き方。死んでるのと同じなぼくた
ちだ。
(でも、いつかはきっと、こんなバカ
げた世の中なんかひっくり返ると思う。
そうだよ、ぼくらの子供達を信じよう。)
ぼくらはいずれとっつかまって、牢屋
にぶちこまれ、ゴーモンを受けて、転
向させられるかもしれないけど、しょう
がないよ。いますでにぼくらは、死ん
でるのと同じなんだから。
1984
(いますでに一九八四年、世の中は凍結
してる、という歌)
ここ数年ロックびたりで
ゴキゲンなぼくらだったけど
実はすでに
一九八四年になってるのかもしれない
気をつけろ
やつらはきみをつかまえて
きみの頭の中に
空気をつめこもうとしてるんだ
さからってもムダかもしれない
あせってもムダかもしれない
あのバカな大人たちが
そのバカさかげんのすべてを
きみに強制的に押しつけようと
がんばっているのだ
だからいますでに
一九八四年だ
ああ、乗り物が欲しい
逃げ出せるための乗り物がほしい
一九六五年頃の
希望と活気にあふれていた
あの時代がもう一度ぼくはほしい
Big Brother
(メサイアの出現を希求する歌)
ゴミやバラについて語るな
自分の花をたたきつぶせ
割れ裂けよ
そして
鋼鉄のように
無機的な強さを身につけよ
罪を犯したときから
すべては本当に始まるのだ
世を救え
七つの大陸を救え
「人間」を糾弾せよ
勇敢なアポロとなって
人間を恥辱の自覚の泥沼に
全員死滅させよ
つまり、きみ自身が
絶対に肯定的な存在になれ
でもわからない
だからといってどうしたらいいのか
いまのぼくにはわからない
そんなことは
まるっきりつまらないことのようにも
思えるし
ほんとに
ど―したらいいのかわからない
がいこつ家族の歌
(ワレワレの貧相な現状をずばりうたった歌)
ぼくらは死人ですらない
もはや骸骨
がいこつになると
だれがだれだが
よく見分けもつかない
だれがだれを愛してるのか
愛してないのか
そんなこともわからない
みんな兄弟みたいで
なんだかコッケイで
なんだべさ
コレワ?
そう
ぼくらがいこつ
がいこつ家族
岩谷宏
―「ROCKIN’ON ロッキングオン」1974年11月号
№13 20~23ページより