。.。:+* ゚ ゜゚ *ciao!
生まれ出ずる悩み 有島武郎
私は自分の仕事を神聖なものにしようとしていた。
ねじ曲がろうとする自分の心をひっぱたいて、できるだけ伸び伸びした真っ直ぐな明るい世界に出て、そこに自分の芸術の宮殿を築き上げようと藻掻いていた。
それは私にとってどれほど喜ばしい事だったろう。
私の心の奥底には確かにーー凡ての人の奥底にあるのと同様なーー火が燃えていたけれども、その火を燻らそうとする塵芥の体積はまたひどいものだった。
かき除けてもかき除けても容易に火の燃え立ってこないような瞬間には私は惨めだった。
私は、机の向こうに開かれた窓から、冬が来て雪に埋もれて行く一面の畑を見わたしながら、滞りがちな筆を叱りつけ叱りつけ運ぼうとしていた。
寒い。原稿紙の手ざわりは氷のようだった。