多摩川サイクリングロードの車窓から

日本一の激坂酷道・暗峠に散る!

 関東に住んでいると、ヒルクライムの遠征対象として視野に入るのはせいぜい長野県までで、関西の事情は全くわからないという人が多いのではないでしょうか。実際、俺は十三峠や葛城山のことを全く知りませんでした。六甲山は知っていたけど、「六甲おろし」で名前だけは聞いたことがあるという程度です。
 ただし大阪と奈良の県境にある暗峠だけは例外で、関東の自転車乗りの間でもここだけは広く知られています。

 曰く、最大斜度37%、日本最凶の激坂。
 曰く、脚付き無しで登れるだけで尊敬される。
 曰く、激坂過ぎてヒルクライムの練習には適さない。

 様々な風説や情報がネット上に溢れていますし、wikipediaにあるこの写真に見覚えのある人も多いでしょう。



 興味津々ではあるものの、この峠一つのために大阪遠征と言うわけにもなかなか行かず、関東人にとってこの峠は伝説ばかりが先行するいわばラピュタのような存在と化しています。別に実在を疑っちゃいませんが
 仕事がデスマーチ気味とはいえ、関西に来ている今は絶好の機会です。なんとか休みをひねり出して暗峠に挑戦することにしました。

 挑戦するからには脚付き無しのクリアを目指したいところです。斜度30%が延々続くだの、暗峠専用バイクが必要だのといった話もあり、俺の実力ではちょっと無理だろうと思いますが、関東屈指の激坂であるふじあざみラインをつい先日攻略しているし、案外登れちゃうかも?という期待も持っていました。
 そんな甘い期待は上には上がいるという言葉とともに吹き飛ばされることになります。

 暗峠に挑むためにパーツや設定を見直した・・・なんてことは特にありませんが、ペダルだけはSPDを使うことにしました。極端な激坂で脚をつくと、傾斜が急すぎて発進できないことがあり、その場合は傾斜が緩いところに歩いていく必要があります。そんな時にSPDのほうが歩きやすいし、また再スタート時のクリートキャッチも早いので。意気込みとは裏腹に、装備面では脚を付く気マンマンです。





 仮住まいがある和歌山から暗峠までは片道80kmと少し遠いため、輪行して天王寺からスタート。ここからなら峠の登り口まで15km程度で済みます。天王寺といえば大阪の中心地の一角ですが、山までずいぶん近いですね。
 女性が乗ったママチャリに高確率でさすべえが付いており、ここが関西であることを実感しつつ東へ向かいます。




 やって参りました、ここが暗峠の登り口。のっけから激坂ではありますが、この程度の坂は横浜の住宅地でも珍しくありません。問題は、この道がれっきとした国道であり、2.5km先の峠を越えて奈良に至る、という点です。
 覚悟を決めてスタートすると、最初のうちは順調にシッティングで登っていきます。



 しかし住宅が途切れる辺りから斜度が増し、あっという間にダンシングで全身を使わないと前に進めない状況に追い込まれます。当然サイコンなど見る余裕はありませんが、20%以上あったでしょう。
 なんじゃこりゃ。まだ序盤じゃないか。これがあと2kmも続くのか!?とっくに前34-後30の乙女ギアを使っていますが瞬く間に脚と心肺を削られ、スタートから600m程の地点で速度を維持できなくなり最初の脚付き。意気込みは早くも潰えました。



 脚付きをした場所は松尾芭蕉の句碑の前。
 
 『菊の香に くらがり登る 節句かな』

 と詠んだのだそうです。脚付きなしのクリアなどとても出来そうに無い俺を見かねて、芭蕉が呼び止めてくれたのでしょうか。

 ここで休んでいると、電動アシスト車のおじさんがすいすいと登っていきました。最近のは性能が良いんですね。



 激しい傾斜もさることながら、厄介なのがこの排水溝。蓋も何も無い上に道路に対して斜めになっています。十分な角度をとって進入すれば問題ないのですが、激坂で自転車のコントロールが難しいためかなり気を使います。
 先日の雨のためか、森林ゾーンに入ると路面が濡れている箇所が多く、そのため踏み込んだ際にホイールがスピンして脚をつくことも何度かありました。かといって前輪が浮いて危険なため後ろに体重を持っていくわけにもいきません。ここに挑戦するときは、何日も雨の降っていない完全ドライの日を狙わないと厳しいでしょう。



 さらに厄介なのが、こんな道なのに交通量が結構あること。特に車が来てしまうとこの狭い道で蛇行できませんし、停車してやり過ごすしかないことが多いです。

 さて、この道の最大の難所は冒頭写真のヘアピンカーブだと思っている方が多いと思うのですが、実は違います。あそこは激坂であることが見た目でわかりやすいですが、もっとキツい場所が存在します。



 それがこちら、問題のヘアピンカーブの少し手前にあるS字カーブ。写真ではわかり難いと思いますが、斜度が半端ではありません。急坂で「これ壁だろwww」などと言いますが、この坂は本当に壁です。俺はこの坂を見た瞬間、「あ、これは登れんわ」と観念して自転車を降りました。坂で脚をついたことは何度もありますが、見ただけで降参したのはこれが初めてです。
 後でGPSの記録を確認してみると、このS字カーブの長さは50m程で、平均勾配は35%以上でした。



 そしてやってくるのがこのヘアピンカーブ。見た目の傾斜は凄いのですが、外側を回ればそこまで急ではありません。といっても20%以上ありますけど。それに前後の傾斜が緩いですから、気合を入れて一気にエイヤッ!と登れば案外いけます。
 ここはむしろ下りのときに怖いポイントで、上から見下ろすと吸い込まれそうな感覚に囚われます。



 見てください、このブレーキ痕の数。車にとっても難所であることがうかがえます。



 ヘアピンカーブを過ぎてもまだまだ激坂は続きます。ここはハイカーも多く何度も声をかけて頂いたのですが、俺があまりにも遅いので、ある年配男性とは何度も遭遇してしまいました。微妙に気まずいw

 この坂を登り切るとゴールは目前、斜度もかなり緩みます。緩むといっても10%以上あるのですが、平地にすら感じられます。激坂あるある。



 ゴール地点はこちら、突然路面が石畳になります。俺の自転車はパヴェを走るためのDOMANEなんですけど、ここはあまりにもゴツゴツすぎて耐えられず、結局押して歩きました。
 脚付きまくり写真撮りまくりとはいえ、わずか2.5kmの峠を登るのに要した時間は40分近く。時速5kmにも満たない超スロー登坂でした。



 峠のモニュメントはなかなか雰囲気があります。日本の道100選に入っているだけのことはありますね。

 それにしても、和田峠やあざみラインなど可愛いもの、なんとまあ酷い道であることか。俺が走った道の中でここと比肩するのはラピュタ坂くらいのものでしょう。難易度は明らかに暗峠の方が高いですが、尋常でない斜度と路面状態の悪さという面である程度似てはいます。どちらもネタ坂カテゴリーに入るという点でも。



 峠には茶屋があり、主にハイカーの方でにぎわっていました。ちょうどお昼頃だったのですがあまりにも消耗して食欲がわかず、頂いたのはこのクリームソーダ。こういう店が峠にあるとありがたいですね。

 さて、登ってきたからには下りなくてはなりません。奈良県側は斜度も路面状態も大阪側より良いらしいのですが、そっちに下りてしまうと帰りが面倒ですし、写真を追加で撮影したくもあるので大阪側に降りることを選択しました。
 あんな激坂ですから、快適なダウンヒルなんてとても出来ません。体重を思いっきり後ろにかけ、ブレーキをかけながら恐る恐る下りて行きます。ブレーキをかけている手が滑ればあっという間に加速してガードレールに激突しアイキャンフラーイですので気が抜けません。少し長く走ると目に見えてブレーキの利きが悪くなり、停車して触ってみるとリムが尋常でなく熱を持っていました。



 麓に近づき、住宅地の手前でからはこんな光景が見えます。本当に大阪の市街地に隣接してるんですよね。


 関東に名を轟かせるだけあり、やはり暗峠は尋常ではありませんでした。ここに再挑戦するとしたらどういう自転車がいいのか?をちょっと考えて見ますと、
1.可能な限り軽いギア
2.悪路とホイールスピンに備えて太いタイヤ
3.下りが怖いのでディスクブレーキ
 俺が欲しいと感じた装備はこの3つですが、これらを兼ね備えた自転車となるとマウンテンバイクもしくはシクロクロスになってしまいそうですね。この峠は歴とした国道であり舗装道路ではありますが、普通のロードバイクで登るような道ではないということなのでしょう。




 さて。暗峠にはボロボロにされましたが、せっかくここまで来たんだし、これだけで帰るのもちょっともったいない話です。そこですぐ近くにある十三峠にハシゴすることにしました。なんでも大阪のヒルクライマーの聖地なんだそうです。ヤビツ峠みたいなもんでしょうか?聖地といわれるくらいなら初心者も来るだろうし、きっと斜度が低めのマイルドな峠でしょう。そうに違いない。



 全くマイルドじゃありませんでした。スペックを見ると距離は4km程度ながら平均斜度9%というかなりの激坂峠です。15%を越える斜度はほぼ無いものの、終始8%~13%の坂が続き、休むところがありません。




 かなり厳しい坂道ではありますが、視界が開け大阪平野が一望できる箇所がいくつもあります。交通量が少なく走りやすいですし、その辺りが聖地と呼ばれる所以なのでしょうか。



 ゴール地点にある駐車場は大阪の町並みを一望できる場所。夜ならさぞかし夜景がきれいなんでしょうね。



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